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吸血鬼とメイド アルト過去編 3

―――8年後


 薄暗い地下牢でアルトは年若い男性の血を食していた。男性の息は絶え、血を飲み干すと地下牢から出て男性を無造作に地面に投げ捨てる。

 

しばらくすると死肉の匂いに連れられて下級の魔物たちが群がってくる。我よ我よと肉を奪い合いあっという間に骨も残らず男性の遺体はきれいになくなっていた。

 

 リークに拾われてから8年、アルトは自分で獲物を狩り食すことができるようになり、吸血鬼が生きていくためにしなくてはならないことは大方できるようになっていた。

 

 見た目は人間でいうところの14歳くらいの少年になっていた。吸血鬼は幼い頃の成長速度は人間のそれと同じくらいである。個体によって誤差はあるがだいたい吸血鬼は6歳くらいの姿で生まれ20代半ばから後半くらいの見た目で成長が止まる。


 アルトは雲一つない秋空の下、少し肌寒い風に当たっていた。人間の物語に出てくる吸血鬼は太陽の光に当たると灰となって消えてしまうが実際はそうではない。吸血鬼は月の魔力から生まれる魔物だ。したがって昼よりも夜の方がその力は高まり活発になる。そのため必然と夜に行動することが多くなり次第に太陽の光に当たると灰になってしまうという噂が広がっていった。


中には太陽の光を毛嫌いする吸血鬼もいるがアルトは太陽の光がそれほど嫌いではなかった。

嫌いどころか少し好ましく思っているほどであった。



 アルトは木の根元で心地いい風に当たりながら本を読んでいると聞きなれた声が聞こえてくる。


「やあ、君は相変わらず太陽の光が好きなんだなぁ。ほんと変わってるよね」


そういうのはアルトの同族であるリーク・レーモンドだった。

リークはこの国の首都に住んでおり時折こうしてアルトの様子を見に来る。


アルトにこう言っているリークもまた日中に外に出ているあたりかなりの変わり者である。

リークはこの国の首都に本鄭を持っておりそこに住んでいる。

時折こうしてアルトの様子を見に来る。


リークはこの国ではそれなりの地位らしいが詳しいことは教えてくれない。まあ、興味はないが。本当に胡散臭い奴である。


アルトが始めに訪れた屋敷はリークの別邸であった。はじめこそリークに譲り受けた別邸に住んでいたアルトだったが一人では広すぎて持て余していた。


今では人一人住めるくらいの小さな家に住んでいる。小高い丘の上にある家は小さいながらも住みやすい。家の周りは草原が広がっており、日差しを遮る程度に大きな木もある。外で読書や昼寝をするのには最適だった。少し歩くと町全体を見渡せ、昼のにぎやかな街並みを見ることができた。


リークはアルトより3年早く生まれているためその見た目もアルトより少しお兄さんのような見た目をしていた。


「お前には言われたくはないな」


 アルトはそう言って本を閉じると立ち上がる。


「どこに行くんだい?」


「どこだっていいだろ」


「やだー。なあに、反抗期?言ったことを真に受けて素直にやるかわいい子だったのに」


「その素直さで何度死にかけたことか……」


アルトはリークを憎悪のまなざしで睨むがリークはのんきにあはははと笑っている。

アルトはリークと会話をするのが疲れたと言わんばかりにため息をつく。


***


アルトは山から下り街に出た。

時折このように街に出るのが日課となっていた。


露店で賑わう人々の声、屋台で出されている食べ物の匂い、楽しそうに遊びまわる子供たち。そのどれもがアルトにとっては新鮮で刺激的だった。それらの刺激が色あせていたアルトの心を色鮮やかに染めていくような気がした。


路地を歩いていると男女がもめている声が聞こえてきた。


「お待ちください!ハナはまだ10歳の子供です。だからどうかおやめください!」


そこには泣いている幼い少女とその手を引く男。そして男を引き留める女性がいた。


幼い少女はエル姉と叫びながら女性の方を見て泣いている。

エル姉と呼ばれている女性は必死に男を引き留める。


その様子を見ている通行人たちは自分たちがまきこまれないようにそそくさと通り過ぎていく。

可哀そうにと憐みの目をしていながら誰も助けようとはせず見て見ぬふりをしていく。


男性の服装は一般庶民と比べ見るからに質の良い服を着ていた。

一方女性の方は一般女性が来ているロングスカートを着ているがつぎはぎだらけで長く着まわしていることがいかがえる。それを見ただけで生活が苦しいのだとわかった。


アルトも他の通行人と同様に彼女たちを通り過ぎていく。

アルトにとって人は餌であり人にとっての家畜同様である。息をするように幾人もの吸い殺してきた。人間たちが何も疑わず毎朝摂る朝食のように。いまさら家畜に同情しろと言うのは無理な話である。


「いやだ!ハナ行きたくない。エル姉助けて!!」


「大丈夫だよハナ。エル姉が助けてあげるからね!」


泣きじゃくるハナを必死に慰める女性。


「いい加減にしろ。このガキをつれていかなければ痛い目に合わされるのはこの私だ。それにここの孤児院だってただでは済まないだろう」


「手ぶらで返すとは言っていません。ハナの代わりに私がご奉仕いたします!」


「お前が……?」


男は女性を頭のてっぺんからつま先まで品定めをするように見る。


「がはははは!!無理だ無理!主人は幼女趣味をお持ちのお方だ。お前みたいに成長した女なんざ相手にしねえよ。もっとも、お前みたいな貧相な女、私はおろかこの街の男は誰も相手なんかしないだろうがな」


腹を抱えて笑う男に腹を立てたのか女性は顔を紅潮させ言う。


「ふざけんじゃないわよ!!私はこれでも15よ!結婚相手なんて引く手あまただっつうの!!」


男の態度に腹を立てたのか先ほどまでとは別人のようにふるまう女性。


「それに10歳の幼い少女にしか興奮しないなんて異常よ異常!!そんなんじゃお世継ぎなんて夢のまた夢ね。そんな役立たずの棒はどっかの魔獣の餌にでもなればいいんだわ!!」


「なんだと。このアマ!!」


男は怒り狂い女の胸倉を掴む。


「なによ!やるき!?」


一触即発の状況なのだが女性の突拍子もない発言にアルトは吹き出してしまう。

すると二人はアルトの方へ視線を向ける。


(やば……こっちみてる?)


アルトは先ほど吹き出してしまったことに後悔する。リークからは常日頃から目立つ行動はするなと言われていた。もし吸血鬼とばれてしまえば狩りの対象となってしまうからだ。


「なんだお前は。ここら辺では見ない顔だな」


男はアルトの方へ近寄ってくる。

めんどくさいことになったと思ったアルトはここにいる全員を殺してしまおうかと考えた。


しかし、この男はどこかのお偉奴に仕えていると推測されるので下手に殺して大ごとにはしたくはなかったので黙っていることにした。


「おまえなかなか可愛らしい顔してるなあ。お前みたいに中性的で未成熟な少年は貴婦人に人気なんだ」


そういうと男はアルトの肩に手を乗せる。


「おまえ、金は欲しくはないか?お前だったらいい額で稼げると思うが?」


(ああ、めんどくさい。ここいる奴ら殺してしまおうか。)


先程から癇に障ることしか口に出さないこの下劣な男をアルトは汚物を見るように冷たい目で見る。

そしてゆっくりと口をゆっくり開き牙が男の首を貫こうと男に気づかれないように狙いを定めていると


「やめて!!その人は関係ないでしょ!!」


女性がアルトと男を隔てるように間に入る。


アルトは一瞬この少女が何をしているか分からなかった。捕食対象である人間に庇われるのが初めてであったからだ。


彼女から見たら14歳ころのいたいけな少年をどこかの貴族に売り飛ばそうとしている光景にしか見えなかったのだろう。少女は必死に弟を守るお姉ちゃんのように危険を顧みずアルトを庇う。


しかも赤の他人である人間に。顔見知りであるならまだしもただの他人である。そんな奴を危険を顧みずに庇うなどアルトには理解できなかった。


「うるさい。お前は邪魔だ!!」


男は女性を払いのける。女性は勢いよく地面にたたきつけられるように倒れる。

その光景を見た瞬間アルトの胸の奥がざわついた。これまで感じたことがなかった不快感があった。

気付いたらアルトは男の胸倉を掴み、下水が流れる川に投げ飛ばした。


「なにしやがる!!」


「お前のようなドブネズミはそこがお似合いだ」


男は川から上がると怒りで頭に血が上っていた。


「お前なにしたのかわかっているのか!!何ぼさっとしている!!警備隊を呼べ!!あいつをとっつかまえろ!!俺は領主ルミネス様に仕える使用人だぞ!!」


男は周りを通る通行人に叫ぶ。領主ルミネスの名前を聞いた通行人たちは明らかに恐れをなしていた。

ほどなくして二人の警備隊がやってきてアルトを拘束する。


ここで人間を皆殺しにすることもできるがあとあとが面倒だった。特にリークはたぶんアルトに対しこれくらいのことも対処できないのかと、からかうに違いないと思った。


アルトはおとなしく警備隊に従いついて行くことにした。


「待って!!その人は本当に関係ないの!!」


しかし女性の訴えは虚しくアルトは警備隊に連行されていった。



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