209話 その地震 追い打ちを!!
...................夜空氏。
蹴散らされた魔物。 隆起した地面。
絶望は欲望の国に近づく。
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................夜空は奮闘していた。
「どけェ!!!!」
「グハッ!! 止めろ屋敷に行かせんな!!なんだこのガキッ!!」
夜空が蹴りに『ハイパーウェーブ』を上乗せしてデカい屋敷を守る衛兵を吹っ飛ばしながら前に進む。 衛兵たちは経費削減の為なのか、運よく銃を持っていない。
傷を負っても、夜空はそんなのお構いなしに衛兵をなぎ倒していく。
それでも致命傷になりそうな攻撃だけは確実にさばいていた。 リリスやコレムはまだ夜空と合流できていない。
「邪魔なんだよ!!! 覚悟もねぇモブはすっ込んでろ!!」
振り下ろされた刃をショートソードで受け止め、『アクロバット』でバク転しながら衛兵の顎を思いっきり蹴り上げて気絶させた。 仲間がやられたことにより他の衛兵たちが若干たじろぐ。
「..........................はぁ、はぁ」
擦り傷、アザ、至る所からの出血(少).....戦闘続行は可能なものの、常人なら痛がって動きを止めるレベルにはなってきていた。 いくら落ち着こうとしても、落ち着ける訳なんて無かった。
守りたい、とはまた違う。
夜空にとって人との関係性とは自分に対して利をもたらす、あるいはもたらしてくれた相手に結び付く。 それ以外はどうでもいい雑多なモノ、そう考えている。
夜空にとって長は、恩人だった。
恩人が目の前で死にそうになっているのに、何も出来ない自分の現状と『それが当たり前、しょうがない』と少しでも考えてしまった自分の心の弱さに嫌悪感を覚えていた。 だが、夜空は心の何処かで分かっている......嫌悪感を拭うように自分を痛めつけながら走っても、得られるモノなんて何もないという事に。
(じゃあ........じゃあこのどうしようもない気持ちはどうしろっていうんだ!!)
しまい込むなんてこと俺には出来ねぇ! この気持ちをしまい込んでしまったら、俺が今まで心に据え続けたモノはなんだったんだという事になりかねないから。
自分を見失ってしまうから。
夜空の周りを衛兵たちが取り囲む、その数5人。
建物内にも勿論衛兵はいるだろうが、とりあえず建物内に入らなければ話にならない。 夜空は、キャロを探すにも何をするにもまずは建物へ侵入することを目的に設定する。
「大人しく縄につけ!平民!!」
「来るなら地面舐めて貰うぜ....こっちには切り札もあんだ」
夜空が銃を取り出し、恐怖を煽るように見せる。
「......クソッ、ただの平民がなんでそんな銃なんて持ってんだ!」
ゴミ? あぁ、そうだったな。
この世界じゃ銃は大して評価されてないゴミ武器扱いだったな。
「じゃあかかって来いよ。 文字通り一発でお前らをゴミクズにしてやる」
衛兵たちは盾を装備していない。 一発でも銃弾を撃ち込まれれば、当たり所によっては即死すらありうる。 たとえ衛兵が『シールド』を所持していたとしても、この近距離から撃ち込まれた弾丸を防ぐほどの強度は無い。
衛兵たちが逃げ腰になったその瞬間を、夜空は見逃さなかった。
素早く懐から煙玉を出し、下に一発。
そして時間差で炸裂するように屋敷の扉の方向に向かって投げる。
まずは真下に転がした煙玉が炸裂、周辺に煙をまき散らす!!
「ゲホッ!?ゲホゲホ!! クソ、小癪な道具を!!」
「行かせるな!デザイア家の皆々様の御身を守るのだ!!」
衛兵たちが武器を取るが、夜空は『アクロバット』、『野生の勘』を使用したうえで、『進化型、ハイパーウェーブ』を踏み出した左足の足裏に発動し、地面との反発効果で一気に加速する!!!
【パァンッ!!】
炸裂音が響き、衛兵たちが異常を察する。
「扉だ!! いかせるな!!!」
「もう少し!!」
夜空はドアノブに手をかけ、勢いよく回した。
その時!!
【ゾクッッ!!!】
背筋が凍るような感覚。 今までで感じた中でも一番の危険を『野生の勘』が感じ取った。 夜空は誰に言われたわけでも無く、まるで脊髄反射のように地面に勢いよく伏せる。 その僅か0.5秒後に木製のドアを破壊するようにフレイル....いやモーニングスターがカッとんできた。
「うわああああああっ!?」
そのまま突入して居たら潰されていた事に遅れて恐怖を覚える。 扉の先、エントランスホールで待っていたのは肩に【2】のマークをつけたメイド。
伏せた夜空を抑え込もうと衛兵たちが駆け寄るが、夜空は伏せた状態から自分を『ハイパーウェーブ』で上に跳ね飛ばして全体重を衛兵数名にぶつけてノックアウトさせる。
「オラァ!!俺に触るんじゃねぇ!!」
「「グハッ!!」」
そんな感じでゴタゴタしていると、再び扉の向こうからモーニングスターがカッとんでくる。 夜空は『野生の勘』でそれを検知、自分を取り囲む衛兵の一人を『アクロバット』で、まるで跳び箱を飛ぶように回避して同士討ちさせる。
「残り二人!」
「....くっ、このまま終わる位なら!!」
衛兵の一人がナイフを取り出すが......。
(ザドラを出てから、俺が何度....質の低い賞金稼ぎに襲われたと思ってる!!)
夜空は、冷静にナイフを突き出してきた衛兵の手首にチョップしてナイフを叩き落とす。 そのまま『アクロバット』を駆使した飛び蹴りをみぞおちに食らわせて後方2メートル先ぐらいに吹っ飛ばす。
「こんなあぶねぇもの持ち出しやがって.......ってッあぶなッッ!!!」
ナイフを拾って捨てようとした夜空をモーニングスターが襲う。 ギリギリで回避したが、拾ったナイフは弾かれてどっかに飛ばされてしまった。
......売ったら結構いい値がついたと思うんだけど。
というかいつの間にか衛兵の処理終わってた。
.........絶対一人逃げたろ。 助かった、正直かなり体力きつかったから。
「ま、いいや。 さっきからなんだよお前」
夜空は、傷だらけの手を回復ポーションで雑に癒しながら屋敷に踏み入る。 屋敷内部は豪華絢爛、欲望の限りを尽くした金銀で彩られていた。 庶民感覚からすると極めて落ち着かない。
......長の奴が見たらきっとブチ切れだっただろうな。
あとは、任せとけ。
「..............................」
【2】のメイドはだんまり。
「邪魔する気がねぇんだったら武器置いて消えな」
「...............それは無理。 .............貴方には.........悪いとは思ってる」
「嘘つけ」
【2】のメイドはモーニングスターを捨てて、腰から片手用フレイルを取り出す。 そしてそのまま夜空から少しだけ距離を取り......柱の陰に隠れる。
............................気配が消えた。
正確には『野生の勘』が気配を捕えられなくなった、が正しいか。
なんだ....?
(今まで、危険を捕えられなくなったことなんてほとんど無いだろ)
確かに、『野生の勘』は確率で反応しない事がある。 だが大抵の場合、意識を張り詰めて、常態的に発動していれば一回は必ず引っかかる。 その一回で確実に気配を読み取る、この2か月近くの旅で俺が身に着けた処世術だ。
だが、このメイドは何かがおかしい。
まるで空気に溶けたような。 ........読み取る物体そのものが消失したかのような。
ダメだ、今は意識を回避に集中しろ!!
俺があのメイドなら、次は........何処から、俺のどこを狙う!?
不意打ちなら、そりゃ当然。
「裏から頭、狙うよな!!!」
夜空は間一髪、後方から頭に向かって振り下ろされたフレイルをショートソードで抑え込む!!! 賭けが当たってよかった、だがもう次からは通用しないだろう。
「................お前ッッ幽霊かよ!!」
夜空はフレイルを抑え込みながら、少し苦しそうに叫ぶ。
「『隠密』.......不意打ちなら.........常識...........」
そのまま【2】のメイドがググッと力を入れるが、思ったよりも力が弱い。 夜空はそのまま押し返し、思いっきりメイドの胸を斬り裂こうと剣を振るうが.....。 まるで体操選手のような柔らかい動きで夜空の攻撃を躱し、思いっきり後ろに飛んだ。
(『隠密』......確か、ザドラで春たちにスキルを確認した時.....翔が習得しているスキル一覧の中にあったものだ。 効果は、気配を隠す....だったか)
初めて知った。 『野生の勘』は『隠密』の発動が成立した人間の気配までは察知できないのか....クソ、まぁ知ってたよ。 万能なスキルなんてねぇもんな。
「....................考え事、終わった?」
「まだ考えてるって言ったら、時間.....くれんのか?」
「.................それは無理、死んで.............オレア様をこれ以上困らせないで」
再び遮蔽物にメイドが身を隠そうとする......が、夜空がそれをさせない。 近場に突き刺さっていた捨てられたモーニングスターを『進化型、ハイパーウェーブ』で遮蔽物に向かって弾き飛ばし、遮蔽物そのものを破壊する!!
「そのスキルの弱点は知ってる!! 人に見られてる状態じゃ、発動の条件が成立しないんだってな!! 万能なスキルなんて存在しねぇ!!」
「..............それを補う。 ..................それが技術」
敵だって、バカじゃない。
【2】のメイドは懐から煙玉を取り出す。 夜空がやろうとしてる事に気づいたのか、『ハイパーウェーブ』の反発効果を駆使して高速接近する。
が、数秒遅い。
【ドーンっ! モクモクモク......】
辺り一帯を白い煙が包み込む。 しまった、やられた....そう思った。
そう思うと共にメイドの気配がその場から消える。
「留まるのはマズい!!」
夜空は煙の無い方の廊下へと高速で旋回して走り出す。
【ドスッッ】
左の手のひらに鈍い.....いや、鋭い痛みが走った。
手のひらには投げナイフが刺さっていた。
「あぁぁんんんンンンッッ!?!?」
夜空は自分の服を臨時のさるぐつわのように噛み、痛みに必死に耐える。
「.........逃がすわけ......ない。 .........君、弱いね」
「うるせェ!!!」
夜空は強引に手からナイフを抜き、煙の向こう側から来る刺さるような気配に対抗するように......近場に合った花瓶を飾っていた長机を倒して遮蔽物にする。
「回復を.........っ」
「..................おかえし」
飛んできたのはモーニングスター。
木製の長机など加速した鉄球を防ぐことなど出来る訳も無い。 多少威力は殺せたが、半分以上の威力を保持したまま夜空の横っ腹にクリーンヒットした。
「ぐへぇッ!!!」
夜空は廊下を数十メートル吹っ飛ばされた。
....................クソ、いてぇ......。
折れてる? いや、ギリ折れてはいない........と、思う。
「逃げなきゃ......殺される......」
夜空はなんとか逃げようと、怪我していない右手を軸に逃げようとすると........無慈悲にも、メイドのいる方から投げナイフが飛んできて夜空の右手のひらに突き刺さった。
「ぎゃあああああッ!!!」
手のひらから血が流れているのが見える。
あっ、俺死ぬんだ。 今から......。
本気でそう自覚した時、俺の心には.........。
俺を痛めつけてきた 世界への怒りが込み上げてきたのだった。
==☆次回予告☆==
209話の閲覧お疲れさまでした。
今回本編に出てきたフレイル持ってるメイド.....何気にこの世界の戦闘に関する真理を突いてますね。
「..............それを補う。 ..................それが技術」
この一言から分かるように、この世界はただ強力なスキルを乱打すれば勝てるっていうクソゲースタイルには出来ていません。 何度も本編ではソレを見せていますが、スキルには必ず対抗策や欠点が存在します。
天賦エラーを除いて、それが無いのが天賦という存在なんです。
作者はそれを意識してスキルや天賦作ってます。
次回、209.1話......その想いは世界をほんの少し揺るがして!
是非次回も閲覧下さい!
ではでは~




