208話 その命 賭けて初めて輝いて
【数分前............セブン国にて】
風情ある虫の鳴き声が響くセブン国の夜。 剣士見習いや階級持ちの剣士たちは帰路につき、夜の街を酒場目的の大人や執行隊の面々が巡回を始める時間。
シフトの入っていなかったカイルは部屋で設計図面を描いていた。 設計図面にはカイルの手には少し小さい程度の重量片手剣の設計図。 そんな図面をカイルは嬉しそうに描いていた。
【コンコン】
「どうぞ」
カイルが部屋の入り口に向かって声をかけると、ほどなくして扉が開かれる。
「カイルや」
「父上......どうしたのですか? このような夜分に」
父の手には2本のグラスと10年物のワインが握られていた。
「どうだ息子よ。 久しぶりに、今夜は月が綺麗な日だ」
「えぇ、是非」
カイルは筆をおき、立ち上がる。
「それは?」
「...............リリスの誕生日プレゼントです」
「気が早いな、リリスの誕生日は7月だろう。 ひと月も先だぞ?」
「オーダーメイドです、これはその注文書のようなモノです」
「...................そうか」
カイルは父の背中を追いかけるようにバルコニーに辿り着いた。 バルコニーでは既に数名の執事が待機し、簡単なおつまみやらお酒やらを用意してくれていた。
「.......用意周到ですね?」
「せっかくなら、な」
そう言って二人は席に着く。 カイルは席に座る際にも『失礼します』といった一言を忘れない。 二人は軽い談笑を挟みながらお酒を楽しんでいると......。
西大陸の方向から発せられた『アルカナセブン』を使える物しか分からない異様な気配のようなものを強く!強く感じ取った!!!!
「「ッ!!!」」
ガタッ、と立ち上がり二人がほぼ同時に同じ方向を見る。
「カイルよ.......」
「父上、今の気配は」
「ハハ、ハハハハハッ! 今宵は実にいい夜だ、我が娘が殻を破ったぞ!!このような遠方に居ても娘の成長を知れるとは大変喜ばしい!!」
父は大笑いする反面、カイルの心境は複雑そうだ。
「ですが」
「......不安が先に立つのはお前らしいな」
「アルカナセブンは確かに強力です。 しかしその反面、スキルエネルギーの大量消費と刀身に多大な負荷をかける事は父上もよくご存じでしょう.....?」
そしてリリスが、そのデメリットを知らないとは思えない。
「そうだな。 もしかしたら娘は今、強大な敵と相対しているのやもしれん」
「ただでさえ.....リリスはあの馬のh....いや、夜空と行動しているのです」
父はテーブルの上に置かれたグラスを手に取り、近場にあった氷水の入った鉄バケツからワインを取り出してグラスに注ぐ。
「まだ、夜空君のことは認められないか?」
「父上はいいのですか?」
「............家柄の事しか気にしていない剣士と添い遂げる事は、あの子にとって幸せとは言い難い。 リリスが自分で考え、意思を持って行動を共にすることを選んだのなら、それは立派な愛だ。 私はその愛を認めようと思っている」
「ですがあの男ではリリスをッ!!! っっ.................守れません」
「雛はいずれ巣立つ。 飛び立つまでは面倒を見てやりなさい、だがカイル.....行き過ぎた行動は愛では無く自己満足になる、難しい問題だがね。 それは分かっているね?」
「えぇ、父上......」
「ならば今は飲もうじゃないか。 ただ純粋に......我らのリリスの成長を祝して」
その今はという言葉に、父も心配しているんだと....そう気づいた。
「「剣士に誉れあれ、乾杯!!」」
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成長する命があるのなら、また失われる命もある。
ここに今、消えかけた二つの命があった。
「はぁ....はぁ.....」
「くっ、無駄な....抵抗をなさる......」
長と【4】は互いに満身創痍のまま燃え上がる教会の中で戦い続けていた。 教会と言ってもただの赤印差別文化を推奨している組合所みたいな物だが。
「胸糞悪いんだよッ、お前も!!デザイアのクソ共も!!!」
「それが身命を賭すという事ですよ」
【4】が加速する!!!
まけじと長が加速して教会内部を飛び回る。 高速機動により建物内部のシャンデリアやランプ、椅子や机、小物やパイプオルガンといった家具が次々と破壊されていく。
「しょうもねぇ忠誠心だなァッ!!!!」
両者が空中に飛びあがる!!
長が再びフルパワーで拳を放つ。 【4】はギリギリでその拳を盾で受けるが、水晶製の盾がひしゃげるほどの負荷が腕にかかり左腕を骨折する。
「ぐッッ.....老骨に.......響くッ!!」
「もう一発!!! 脳天カチ割れろ!!!」
「...ぐぅっ、ほほ....甘い甘いッ!!」
【4】が空中で身をこなしてかわし、カウンターで膝蹴りをおこなって長の鼻を潰す!! 酷く重い一撃が鼻にかかり鼻の骨が折れる。
両者が距離を取る。
「..............................」
ボタボタ。
「............................」
ボタボタボタ.....。
両者とも出血が止まらない。
両者の命の灯は消えかけていた。
今引けば、まだ助かるかもしれない。
だが、両者の心にあるのは。
((逃がさない))
強情という欲ひとつだけだった。
もはや【4】に『歳月の天秤』を使う余力は無い。 使えば最後、そのままポックリ死んでしまう気がしていた。
「..................これ以上は不毛でしょう。 次で終わりに致しましょうね」
「あぁ、そう...........そうだな」
月が雲に隠れ、しばらくして雲の隙間から月明かりが差し込んだ。
「お友達に会った時に伝える言葉は決まりましたか?」
「ババア、テメェにはそんな時間すら与えねぇ。 言葉ァ考えなくていいぞ良かったな」
長が渾身の力で『覚醒型、パワーアップ』を3重にかさねがけする。 あまりの強化倍率に、流石のスキル付属の耐性の許容値が限界を越え、肉体に反動ダメージが入り始める。
「ぐああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!」
苦しみも痛みも!! 今は忘れろ!!
悲しみも怒りも!!! 己の不甲斐なさもッ!!!!
「私の全てはデザイア家の為に........」
【4】が正面から超高速で突っ込むために体勢を低く落とす。
生きている奴らが!!
きっとなんとかしてくれると信じて!!
俺は!!!!!!
思い出の中の親友が背中を押してくれた気がした。
『俺の娘の為に死んでくれと』
そう言われた気がした。
「今行くぜ、相棒」
............!!!!
走り出し、遅れてソニックブームが発生した。
『進化型、ヘイスト』を重ね掛けした【4】が目で追えぬほどの速度。 その一撃が、【4】の頬にヒットしたのはきっと必然だったんだろう。 【4】の骨が砕け、粉々になる感触をしっかりと感じながら.....。
長と【4】は、【4】後方の瓦礫の山の中に止められないスピードと共に突っ込んでいったのだった!!!
..........................。
生きていた。
みっともねぇな。
隣には死ぬ数秒前の老婆の姿。
「.................?」
「お.......しっか........死ぬな........聞いて......か!?」
戦闘中、いつの間にか目を覚ました夜空が救助の為に近づいてきていた。 だが瓦礫のせいで思ったように近づけず悪戦苦闘していた。 叫びながら近づいているが、その声は半分以上長には届いていなかった。
(.................................)
??? あ?声がでねぇ.....なんか言ってるみてぇだけど声もよく聞こえねぇ.....。
そういえばやたら静かだな。 あんだけ戦闘した後なのに体も熱くねぇ。
長の身体機能は、もはや夜空の持っているグレードの回復ポーションではどうにもならないレベルの重傷を負っていた。 全身複雑骨折、器官損傷、神経麻痺、疲労困憊、精神疲弊、消化器官一部破損。 ...............既に死を待つだけになっていた。
夜空に何かを残そうと、口を開いたその時!!!
何故か撃ち込まれた大砲の砲弾が【4】ごと長を吹き飛ばした!!! とどめを刺された長は誰が見ても息絶えたと思う格好で地面に突っ伏していた。
「長のオッサァァァァァンッッ!!!!!」
「長ッ、おいお前!!! クソ、クソォォォッ!!!テメェェェェェッ!!!!」
夜空が怒り狂いながら後方を振り返るとそこには、倒されたはずの【3】の姿。 いや、気絶から起きてここまでやってきたという方が正しいか。 夜空はあの時、トレースを拘束しなかったことを恨んだ。
「ボクが無駄にはさせない......【4】のやってきたこと!!全部!!」
【3】は泣いていた。
「殺す!!畜生、お前だけは絶対にぶっ殺してやる!!!!」
夜空が拳銃を取り出して発砲する!! が、距離が遠すぎて当たる気がしない。
夜空が近づこうとすると、【3】は『ブリンク』で逃走した。 逃げた先は.....この高台でまだ壊れていない、一番デカい屋敷。
崖沿いにそびえるデカい屋敷に。
「ふぅ、はぁ....」
落ち着け、俺......感情を鎮めろ。
怒りで我を忘れて、何度も痛い目に合って来ただろ。
長は仕事を果たした、今度はこの死に俺が報いる番。
「俺の目的は......あのクソ野郎を殺すことじゃない。 切り替えろ、俺の目的はキャロを救う....それだけだ、そのためにここまで来たんだ」
.............。
「...................きゃ、く......じ.......ん」
夜空がその場を立ち去ろうとした時、奇跡が起きた。
息も絶え絶えになり、今にも死にそうな声の長。
夜空は直ぐに駆け寄り、懐から回復ポーションを取り出そうとすると.....。
長が夜空の手を優しく止めた。
「......................っ」
声すら出ていなかったが、意味が何故か分かった。
もういい、俺はもう助からない....そう言っていた気がした。
長が震える指でデカい屋敷を指した。
「世話になったのに!!アンタにはまだお礼だってちゃんとしてねぇのに!! 俺は、迷惑しかかけてなかっただろ!!」
「...............きゃく...じん。 あとは..............任せるぞ.......」
長は、最後の力を振り絞って夜空に対してそう言い残すと、その腕が力なく地面へと落ちた。 その顔は優し気で安らかに、まるで友人に会いに行くような.....そんな笑顔をしていた。
....................。
思う所はあった、だが涙は流れなかった。
流してはいけないと、長に叱られた気がしたのだ。
「アンタの死は無駄にはしない。 ちゃんとケリ........つけてきてやる」
夜空は覚悟したように、長の安らかな死に顔に自分のハンカチをかけたのだった。
==☆次回予告☆==
208話の閲覧お疲れさまでした。
かつての友人の為に、そしてその娘の為に命を張り続けた男の最後でした。 長があの地下のようなヤバい環境で、それでもなお希望を絶やさずに生きてこられたのは【いつか出て、親友の為に動く】という欲望の為だったのかも....しれません。
もう、その答えを聞くことは出来そうにありませんが....。
次回、209話......その地震 追い打ちを!!
p.s 投稿頻度、安定しませんね....作者のリアル事情がヤバいくらいになってます。 なるべく早く安定させたいと思いますので........多分......多分(苦渋)。
パソコンすら開く時間無いとはこれいかに.....。
世知辛いですね。
是非次回も閲覧下さい!
ではでは~




