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思いもしない援軍

 作戦会議後、補給が終わったと聞いて滑走路に足を運んでいた。

 中破程度で済んだのが幸いだったのか、危険域まで損傷していた俺の烈空は全回復していた。


「あの……この新型機のパイロットだよね?」

 声を掛けられたので振り返ると、そこには整備クルーらしき若い男。


「この一番端に搭載されているミサイルなんだけど……」

 彼の視線の先にあるのは烈空のパイルバンカーミサイル。

 多分、見慣れない装備なので手を付けられなかったのだろう。まだHFでは未実装だった新兵器なのだから仕方ない。


「ああ、これは大丈夫。未使用だし一発きりの産廃だから」

「ええ……産廃って……」

 俺は気にしなくてもいいと付け加えながら、整備役を買って出てくれた彼の厚意に感謝した。


「そっちのファルコンをさっさと出してくれ。滑走路はどん詰まりなんだ」

「戦闘機は用意できた。でも、パイロットが足りないんだ!」

 喧騒飛び交う空港は多くの人でごった返していた。アライド関係者だけでなく、避難してきた一般人のプレイヤーまで混じっている。


「敵の大部隊は接近しつつある。一般市民の退避まで絶対に阻止しなければいけない」

「僅かですが、関東圏の残存しているHFプレイヤーの残りがこちらに向かっています。タンクゲーの連中も戦う気です」

 会議で顔を合わせた基地司令の姿もあった。部下を引き連れ、状況の対応に追われている。


「陸のプレイヤーの勇気にも報いねばならん。しかし、この基地は既にアンネームドとの戦い続きで疲弊しきっている。パイロットが足りなすぎる」

 司令官を務める男はそんな事を言いながら俯いた。


「到着したパイロット達の補給は間もなく完了しますよ」

 副官の男がそれを告げる。周囲には無数の人だかり。皆が不安な顔だ。

 当たり前だ。間近にはアトラス率いるアンネームドの大群が控えている。

 他人任せだけど、何とかしてほしい。俺には彼らが何故か少し前の自身と被って見えていた。


「くそ……」

 そして、自分でも思いもしなかった行動に出る。

 おもむろに烈空の主翼によじ登ると、整備兵がぎょっとした顔でこちらを見ていた。

 俺は翼の上で立ち上がると、諸手を上げて周囲の人々に呼びかける。


「聞いてくれ! ここには戦闘機――HFがまだたくさん残ってる! でも、それを動かすプレイヤーが足りないんだ!」

 まず周囲の何人かが気付いた。俺が叫び続ける事に、こちらを向く顔の数は増えていく。


「パイロットが必要だ。アカウントを持っている者は戦闘機に搭乗して戦ってほしい。援護だけで構わん。今はとにかく頭数が必要なんだ!』

 自分でも何を言ってるんだと思う。でも、動かずにはいられなかったのだ。

 騒ぎを聞いて他のHF乗りや戦車乗りも集まってきた。その中には荒城や天空橋の見知った他のプレイヤーの顔も見える。


「俺達はアトラスを落としに行く。でも、この基地を守る戦力が足りなくなってしまう。戦車部隊だけでは敵の戦闘機型を落とせない。協力してくれ!」

 ひとしきり言い終えたところで、周囲から声が上がり始める。


「俺も戦うぞー!」

「動画のニュース見てたわ! HFなら初期アカウントだけならある。私もやる!」

 群衆の中から掲げられた手のひらがいくつも見えた。散発的ではあるが、確かに戦う覚悟を持ってくれた仲間がいる。その事実に、いつの間にか視界が妙に霞んでいた。


「泣くのはまだ早いぞ、少年」

 瞼を擦っていると、基地司令の男が俺を見つめていた。


「君のような存在が……我らには必要だったのかもしれんな」

 司令官は翼から降りる俺に手を貸し、そんな事を言ってみせた。

 自嘲気味に笑っているが、多分俺も同じ顔をしている。彼の優しく垂れ下がった皺塗れの瞳。それはどこか、長束が俺を見る時の顔に似ていた。


「我々は決して他の者達に死を負わす事は出来ない。立場なんて下らんものに囚われているんだ。しかし……群衆は君のような英雄の言葉にこそ感化されるのだ」

 そう言って司令官は軍帽の鍔を整えながら歩き出す。


「司令官……どこへ?」

 副官らしき男がその後を追いながら尋ねる。


「格納庫だよ。私はここから指揮を飛ばす事しかできない。だが、彼らに協力する事ならできる。戦闘機がまだ格納庫にある筈だ。全機出せ。君も手伝いたまえ」

「……はっ!」

 歓声の数が多くなる。人の波が二つに割れ、司令官はそこを悠々と歩いて行った。


「やったぜ、ハルト! これならいけるぞ」 

 荒城や他のパイロット達が俺の肩を次々と叩きまくる。狂気乱舞に湧き立つ人々。

 しかし、その喧騒の中、俺は司令官の背中をいつまでも眺める事しか出来なかった。


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