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81.お呼ばれ

『なんのことだ?』

『惚けても無駄ですよ? 雷放つ犬なんか他にいませんよ』

 ここに6匹もいるが……まあ、兄弟達になすりつける訳にもいかん。

『アルスさん、ちゃんと謝った方が……』

『わかってるわかってる。マクルシオンの事だろ? そうだ、俺がやった』

『謝ってない……』

 キョーコが呆然と呟いた。


 そこで、村長さんがミリルフィアが来たと聞いて飛んできて立ち話もなんだから、と席を勧めたが、急ぎますから、とミリルフィアがやんわりと断った。


『じゃあ、事の次第は移動しながらにしましょう』

『え、どっか行くのか?』

『逃げない方がいいですよ? もっと面倒なことになりますから』

 俺が逃げの体勢に入る前にミリルフィアに釘を刺された。くそ、付き合いも長くなってきたから行動パターンを読まれ始めている……!

『一緒に城に来てもらいますよ? 申し訳ないけどエスタちゃん、キョーコちゃんも』

『はい』

『わかりました』


「ミリルフィア様」

 俺たちが観念して馬車に乗り込もうとしていると、フィーナが声を掛けてきた。そりゃそうだよな、飼い犬が拉致られそうになってる訳だから……。

「フィーナちゃん、勝手にごめんね。本当はもっとゆっくりと話しを進めるつもりだったんだけど……アルス君が昨日とある貴族と喧嘩したことは知ってる?」

「はい、聞いています。昨日きつく叱りました」

「そう……その件でちょっと城でお話しを聞きたいってことになってるのよ。だから少しアルス君達をちょっと借りるわね?」

「アルスのした事で呼ばれたなら私も行きます」

「ヴォウ!?」

 フィーナなに言ってんの!?

 俺だけじゃなく、その場に居た全員が驚いた。特にサレアさんは顔面蒼白だ。


「フィ、フィーナちゃん、大丈夫、安心して? 処罰するとかそんな厳しい話じゃないの。」

「はい、これは私の我儘なのです。私は、飼い主としての責任を果たしたい……駄目でしょうか?」

「ん、ん~……」

 ミリルフィアが頭を抱えている。フィーナがこんなことを言い出すなんて予想外……いや、そうでもないか。元々しっかりした筋の通らない事は嫌いな質だもんな。昨日も散々思い知ったところだ。だが、この件に関わってはいかん! 難癖つける気マンマンの貴族に会いに行くなんてもっての外だ!


「ワンワン! ウォオン!!」

「アルス、ごめんね」

 ちょっと!? 誰かなんとかして!

『どうするべきだと思う?』

 ミリルフィアが弱った、と眉をハの字にして聞いてくるが……

『どうするもなにもない! 連れてくなんて選択肢はあり得ん! 駄目駄目駄目! 却下!』

『あぁうるさい! あんたがどう言うかなんて知ってるから黙ってなさい!』

『いいや、黙らないね! いいか、フィーナは……!』

 ぐっとフィーナに首を抑えられた。

「アルス、今、我儘言っているでしょう? 大人しくして」

 な、なんで……? 俺はお前の事を心配して……!

「私も同じぐらいアルスが心配なの」

 う、ぐ……!


『凄い子ね……エスタちゃん、キョーコちゃんはどう思う?』

『フィーナちゃんを連れて行った方がアルスがキレる可能性が高くなる気がするわ。ちょっとでもフィーナちゃんが馬鹿にされたら跳びかかっていきそう』

『確かにそうですね』

 お、お? いいぞ、連れて行かない流れか?

『ですが、フィーナちゃんがいれば最悪の事態は避けられると思います。いくらアルスさんでもフィーナちゃんが止めるのを振りきって暴れたりしませんから』

『おい、こら、エスタ! なにいって』

 またフィーナに首を抑えられた。いや、ちょっとちょっと!

『アルスさんが戦争に行くって言った時、フィーナちゃんも同じような気持ちだったはずですよ』

『それとこれとは別だろ!』

『相手が危ない事をするのが心配で堪らないってことでしょ。一緒じゃない』

『こ、このキョーコてめぇ!』

『ミリルフィア様、お城は安全なんですか? フィーナちゃんが怪我をしたり、閉じ込められたりすることはありますか?』

『精霊に誓って、ありません。絶対にそんなことやらせませんよ』

『それなら……』




 俺はフィーナの右足首に巻き付くように丸くなり、全力で気を張って敵襲を警戒していた。

「拗ねちゃって、もう」

 ミリルフィアが呆れたように呟く。車輪が石を踏んだのか、馬車がゴトゴトと揺れた。


 結局フィーナを一緒に城へ連れて行くことになってしまった。

 サレアさんは娘が心配で卒倒しそうだったが、ミリルフィアが安全を保証します、と請け負うと落ち着きを取り戻した。

 ミリルフィアはココ村の人達に信頼が厚いからな……はぁ。


「狭くてごめんなさいね」

「いえ、大丈夫です」

 確かに座席が向かい合わせの馬車の中はそんなに広くなく、フィーナ、ミリルフィアと犬3匹が乗ると一杯だった。

 犬が揃って座席に座ってないからかもしれん。


「じゃあ、アルス君たちを呼ぶ事になった理由を説明します」

 フィーナもいるのでミリルフィアが口で話し始めた。

「お察しの通り、マクルシオン様の件です」

 ミリルフィアが様付けで呼んだので、フィーナが身を固くした。

「高貴な方なのですか?」

「ケッセルフの南に接するカルグナッツ領カルグナッツ家の長男です」

『もしかして、領主候補ですか?』

「次の領主、と言われている人です。カルグナッツは今回のオーグラドの侵攻でケッセルフと同じく被害を受けていて、私が掴んだオーグラドの秘密を聞きにいらしていたのです」

 なんて間の悪い……

『でも日本人の事を知ってましたよ?』

『捕虜のオーグラド兵から聞き出したようです。カルグナッツの認識は、不思議な力を使う犬は日本人という種族らしい、ぐらいでした』

「その、なんでそのような高貴な方が、街に出てアルスと喧嘩をしたんでしょう?」

 思わずいつもの通りに声を飛ばして会話をしたせいで、ミリルフィアが黙りこんだように感じたフィーナが、場を繋ぐように疑問を挙げた。

「なんでも、日本人の捕虜を取り返す為に敵が潜入しているかもしれないから、見回りをしていたそうです」

 うわ、嘘ついてるぞそいつ。

『日本人探知魔法で私を見つけたって言ってましたよ。嘘ついてますね』

『日本人探知魔法……? きっとシクシリスが作ったんですね。交渉材料にでもするつもりでしょうか……』

 ミリルフィアがそっとため息をついた。

「それでアルスを敵と間違えて喧嘩になったんですね」

「そういう事になりますね。マクルシオン様がその時の事を話すんですが、一方的な見方になっているかと思うので、アルス君たちにも話を聞こうってことになったんです。まあ、結構色々言われると思いますが、誤解を解けばわかってもらえると思います」

 色々ね……

『話を聞いてくれるんですね。あの、失礼かもしれませんが、貴族の方って、なんというか……』

 エスタがモゴモゴ言う。そうだね、相手の話なんか聞かずに一方的にこっちを悪者にしそうなイメージがあるよね。

「ふふ、アルス君たちが今回の戦争の鍵を握っている……とケッセルフ家は思っているから最大限便宜を図ってるっていうのが正直なところかな」

「え、そんなにアルスたちは凄いんですか?」

 フィーナが目を丸くして俺を見てきた。可愛い。

「この前のアッセンを守ったのが凄い評判なのよ~? 正に奇跡!って活躍だからね。それに加えて、日本人の捕虜、オーグラドの内部情報、と盛りだくさん。私も褒められちゃったぁ」

 ミリルフィアは、アルス君を見つけて私を派遣したリーディン叔父様の評価も上がったの、と嬉しそうに付け加えた。


『ねぇ、ミリルフィア様ってリーディン様のこと、好きすぎじゃない?』

『確かに時々アレ? って思うことはありますねぇ』

 女2人がコソコソと話しだした。

『何かと話しかけてましたし』

『叔父様叔父様!ってちっちゃい子みたいにねぇ』

『可愛いですよねぇ』

『聞こえてるぞ、こら!』

 ミリルフィアが2人の首根っこを笑いながら引っ掴んだ。

『きゃー!』

『ひゃー!』

 掴んだ方も、掴まれた方も笑ってる。仲の良いことで……

「……」

 飛ばした声が聞こえないフィーナは3人が仲良くしてるのはわかるのだろうが、蚊帳の外に置かれたようで少し寂しそうにしている。


 不意打ちで目の前にあるフィーナのくるぶしをベロンと舐めた。

「っ! ……もぅ」

 フィーナがビックリさせたお返しに人差し指で俺の額を小突いた。ちらりと顔を伺うと微笑んでいるフィーナと目が合った。あー可愛いなぁ。


 それから暫く俺とフィーナがじゃれ合っていると、馬車が止まって、外から扉が開けられた。

「ミリルフィア様、お帰りなさいませ」

「はい、ご苦労様です。……では、行きましょうか」


 さて、何があってもフィーナだけは守らないとな。 

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