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20.お土産

 草が俺に蹴飛ばされて澄んだ朝露を振りまいた。

 草むらを抜けて、山道に出る。

 どんどん山道を下ってこの前蛇とやりあった場所を通り過ぎ、村に入った。

 まだ夜が開けたばかりなので、人通りは無い。

 村の地図はばっちり頭に入っているので迷わない。朝靄の中、最短距離を行く。

 程なく、目的地に着いた。

 木製の簡単な門をくぐる。

 少し歩いて、止まる。


 よお、キッシュ。久しぶりだな。


 俺は墓地の端にひっそりと置かれた丸い石に話しかけた。

 目の前の墓石には何も刻まれてないが、この下にはキッシュが眠っている。

 俺は咥えていた土産をそっと下ろした。

 どうだ、俺が初めて獲ったウサギだぜ。

 お前みたいにスマートにいかなかったけど、なんとかなったよ。

 ズルは使ってない。今日の俺は猟犬だぜ。

 これから精進するからさ、見守っていてくれ。

 このウサギはお前にやる。俺の故郷じゃ、節目節目に食い物を供えるんだよ。 

 お前が腹空かせてるかもしれないと思うと、落ち着かなくてな。

 まあ、俺の勝手だ。妙に思ったらすまん。

 そうだ、フィンの事、聞いてるか?

 ちゃんと生きてるぞ。ここに埋まってないから察してるかもだけどな。

 あのブラコン妹が付きっきりで……お、噂をすれば、だな。

「アルス……?」

 振り向くとリィザが墓場の入り口で目を丸くしていた。

 よお、ブラコン。なんだかんだで久しぶりだな。

 朝一でキッシュの墓参りとは感心じゃないか。

「そのウサギ……」

 ああ、首尾よく獲れたんでな、見せびらかしに来ただけだぞ。

「……」

 リィザは無言で俺の前にしゃがみ込み、俺を撫でた。

 おい、よせ。なんか勝手に色々想像して勝手に感動してるだろ、そういうのはよせ。

 リィザはなおも俺を撫で続ける。

 くっ……あ~なんか遠吠えしたくなってきたぜ。

 全力でいくからな、耳塞いどけよ。

 

 俺は空を見上げ、大声で吠えた。

 俺の声は明け方の空に吸い込まれて消えた。

 この世界にも天国はあるのかな。そんなことを考えた。



 俺を探しまわってたらしいフィーナが、俺の遠吠えを聞いてすぐに駆けつけてきた。

 あ~、しまった。もうちょっと寝てると思ったんだけどなぁ。

 いらん心配をかけてしまった。

「もう! アルス! なんで言うことを聞けないの!?」

 うわぁ、めっちゃ怒ってる。

 ここのところ大怪我したり、すぐに脱走したりで心配かけっぱなしだからなぁ。

 え、いや、反省してます。マジで。あいたっ!

 フィーナの怒りのチョップが俺の頭に炸裂した。そのまま頭を掻き抱かれる。

「もう、ずっとこうしてようかな」

 それは幸せな提案ですなぁ。 

「すぐにどこかに行っちゃうし……」

 泣いていたらしい潤んだ緑の瞳が至近距離から俺を見つめている。

 いや、本当にスイマセン……悪気は無かったんです。

「フィーナ、あまり責めないでやって。アルスはキッシュへ贈り物をしてくれたのよ」

 あ、リィザ、おい。フォローは嬉しいけど、そういう方向性はちょっと!

「そう……キッシュに、贈り物……」

 フィーナが墓の前に横たわるウサギを見て、声を震わせた。

 もうそういうのはいいから! さ、帰るよ!

 俺は堪らず墓場から逃げ出した。

 フィーナが慌てて追いかけてくる気配を感じる。


 じゃあな、また顔を出すよ。

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