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19.死闘

 イノシシはキッシュの胴体に牙を食い込ませると頭を振り上げ、後ろに放り投げた。

 キッシュは悲鳴も上げず、その血で宙に弧を描きながらイノシシの向こう側に転がった。


 てめぇ……!


 頭の芯が灼熱する。


 バヂヂッ! ヂヂヂヂヂヂ……


 体が電界を帯びるのがわかった。

 体のあちこちで火花が散る。


 ぶっ殺してやる。


 俺は一直線に駆けた。


 あと半歩というところで、イノシシの姿がまた掻き消える。

 

 いい加減、ウザいんだよ!!

 

 体中に全力の電撃を纏う。


 バヂンッ!!


 俺の横腹を突こうとしたらしいイノシシが鼻面に電撃を食らって、後ずさった。

 こんなことができるなら、最初からやっとけよ、俺。くそっ!!


 イノシシは蹄を踏み鳴らし、すぐ馬鹿みたいに突っ込んできた。

 

『ピカッと光ったら蛇が死んじゃったんだよ』


 あの時は、どうやった? こうか?

 口を開き、上顎と下顎から力をぶつけ合わせ、炸裂させた。


 バァン!!!


 大きな音と閃光、辺りが一瞬真っ白に染まる。


「ギィ!?」


 残った左目を光でやられたイノシシが悲鳴をあげた。

 隙だらけだ。

 俺は左手をイノシシの鼻面にぶち込み、あらん限りの力で放電した。


 バヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂッ!!!


「……ッ!ッ!!」


 イノシシがビクビクと震え、声にならない悲鳴をあげる。

 鼻面は焼けただれ、焦げ臭い不快な匂いが辺りに満ちた。


 不意に力が抜け、放電が止まる。

 脱力したイノシシがその場に崩れ落ちた。

 あれ、なんでだ……?

 電界が消え失せるのを感じた。

 力を込めてみるが、ビリッともしない。

 これは、打ち止めってことか……? 流石に無限に電撃放てるわけじゃないって訳だ。

 そんなことより、キッシュ、キッシュは無事か?

 体が泥になってしまったかのようにダルい。が、寝込む訳にはいかない。

 右手を引きずりつつ、キッシュのところに歩いていく。

 キッシュはさっき投げ飛ばされたままの姿で横たわっていた。

 肋骨辺りが大きく裂け、出血している。辺りにぞっとするほど大量の血が飛び散っていた。

 おい、生きてるか?

 傷を舐め、顔を舐めていると、キッシュはゆっくりと目を開けた。

 よかった生きてるな。生きてるなら、リィザのところのババ様に俺の時みたいに治してもらえばいい。

 そうだ、人を呼んでこないとな、フィンも手当をしないと……

「ヴォウ!!」

 急にキッシュが死にかけているとは思えない声で鳴いた。

 それと同時に背後で膨れ上がる殺気。

 嘘だろッ!?

 咄嗟に跳ぼうとするが、その前に俺の左脇腹に牙が食い込んだ。


 次の瞬間、激痛に呻く暇もなく、宙に放り投げられ、叩きつけられる。

 俺の下敷きになったフィンの狩人道具が軋んだ音を立てた。

「ググ、ギィ……」

 汚らしい声出しやがって、なんてしぶとさだ。

 鼻は炭化し、右の牙は欠け、体のあちこちに電撃による火傷を負い、血を流しているが、イノシシはまだ生きていた。


 喉から血の味が溢れてくる気配があったが、なんとか飲み込んだ。

 左脇腹が、心臓の鼓動に合わせて激痛のリズムを刻む。

 左手、左足に体重をかけるとその分左脇腹の痛みが増し、痺れて手足が引きつる感じがする。

 右手はさっきから動かないので、杖のように使って体を支えている。

 まともに動くのが右足しかない。

 その右足で地面を蹴りつけ、地面を転がり、突っ込んできたイノシシをかわした。

 起き上がるだけで、激痛で気を失いそうだが、ちょっとでも動きを止めると牙の餌食だ。

「クフッ! ケフ……!」

 咳をすると血の味がした。息がしづらい、頭がクラクラする。

 イノシシが振り向くと同時に牙で薙ぎ払ってくるのが見えた。

 もう、いっそ牙を食らった方が楽なんじゃないか?

 いや、なに考えてんだ! ここで俺が死んだらキッシュとフィンも死ぬ。それにフィーナが悲しむだろうがッ!

 倒れこむようにしてなんとか牙をかわす。

 死ぬ訳にはいかない。電撃をなんとかあと1発、撃てないか?

 向こうも瀕死だ、攻撃の速度も頻度も、俺の電撃を食らう前とは比べ物にならないぐらい緩いものだ。

 なんとか急所に入れれば……!

 

 ふと、イノシシの2メートルほど向こうにうつ伏せに倒れているフィンと目が会った。

 意識があったのか。

 フィンは血を流しすぎたせいか、顔が真っ青だが、強い視線を俺に向けている。

 手には、市場で買った、俺お勧めのナイフが握られていた。

 その刃からは陽炎が立ち上っている。


「ヴォゥ!……ヴォウ!」

 イノシシに全力で吠えかかり、イノシシを中心とした円を描くように移動する。

 ほら、こっちだ! フィンに潰れた右目を見て貰えよ!!

 

 フィンは、ゆっくりと上体を起こすと、ナイフを振りかぶり、投げた。

 そしてすぐに、力尽きたように俯き、倒れる。

 ナイフは回転しながら飛び、イノシシの首に命中した。

 イノシシの皮膚の硬さを知っている俺からすると、刺さるとは思えない勢いだったが、ナイフの刃はイノシシの肉に滑らかに食い込み、肉が焼けるような音を立てた。


「ギイイィィィィィィッ!!?」

 イノシシは悲鳴を上げ、体をよじって暴れている。

 すぐに血を吐き、悲鳴が掠れる。

 そうだ、死んじまえ!

 イノシシがブルブル震え、血泡を吐き始めた。

 そして、



 イノシシの姿が掻き消えた。



 イノシシに刺さっていたナイフが地面に落下し、突き刺さる。


 ふざ、け……るなよ!


 イノシシはフィンの目の前に出現した。

 俺は気力を振り絞り、走った。地面に突き刺さっているナイフを走りながら咥える。

 イノシシは力尽きかけているせいか、すぐにフィンに向けて牙を振るわないが、フィンはピクリとも動かない。

 イノシシがフィンの頭に牙を撃ちこむつもりなのか、頭を大きく左に振りかぶった。

 間に、合わない……!

 イノシシの牙がフィンの頭に撃ち込まれる直前、キッシュがフィンの前に体をねじ込んだ。


 キッシュの体に深く牙が突き刺さった。


 俺の右足が地面を掻く。

 

 キッシュの体が牙に大きく裂かれ、吹っ飛び、転がる。


 イノシシが再び頭を振りかぶる。


 まにあった


 イノシシの黄色の左目がナイフを咥えて跳びかかってくる俺を捉え、驚きに震えるが、もう遅い。

 俺は頭を思いっきり振りかぶり、ナイフをイノシシの左目に突き立てた。

「ギッ!!」

 両目を潰されたイノシシは狂乱し、暴れようとした。

 生き汚いお前が即死しないのは、予想済み、だッ!

 俺はナイフを離さない。

 これが、最後の1回になってもいい、出てくれよッ!

 俺はナイフを噛み締め、必死に祈った。


 死ネ


 バヂン!!!


「ッ!!」

 咥えたナイフに渾身の電撃が疾走った。

 ナイフの刀身を伝った電撃を頭の中に食らったイノシシは、無言で身を強張らせ、崩れ落ちた。

 俺はイノシシが倒れきる前に、ナイフを抜き、転がり落ちる。

 ハッハッハ…と自分の呼吸音がやたら大きく聞こえる。

 イノシシは動かない。

 動かないが。

 俺はナイフをイノシシの胴体に突き立てた。

 ピクリともしない。

 よし、死んだ、な。

 達成感や歓びなどない、鉄臭い息を1つ吐き、思考を切り替える。

 

 人、人を呼ばないと……!


 下り道を辛いと感じたのは、この時が初めてだった。

 文字通り転がるようにして山道を下る。

 自分の怪我のことはとりあえず忘れることにして、村に急いだ。


 村に出た途端、ラゴ爺さんが近所のおっさん2人と歩いてるのに出くわしたのは今日唯一の幸運だった。

「ア、アルス!?」

 なんかこっち向いて驚いてるけど、いいからこっち来てくれ。

「ヴォウ!ヴォ…ゥ」

 ラゴ爺さん達3人に向かって吠え、山道を引き返して振り返り、また吠える。

 俺の様子にただ事ではないものを感じたのか、爺さん達は俺についてきてくれた。




 俺はキッシュの顔を舐めた。


 キッシュが浅い、途切れ途切れの呼吸を繰り返しながら、薄く目を開けた。


 安心しろ、フィンはおっさん達が手当してるぞ。


 俺はキッシュの顔を舐め続け、綺麗にする。


 深手だけど、助かるって、元狩人の爺さんが言ってる。信用してやろうぜ?


 鼻面でキッシュの乱れた毛を整えてやる。


 お前がフィンを守ったんだ。あんな化物みたいなイノシシからさ。すげぇよ、キッシュ。


 キッシュの瞳を覗き込む。俺の想いが少しでも伝わるように。


 主人を持つ身として、俺はお前を尊敬するよ。お前は、フィンの最高の相棒だ。


 キッシュの目がゆっくりと、閉じられた。


 ほら、フィンがおっさんに担がれて運ばれていくぜ。もう、安心だ。


 キッシュは自身の血溜まりの中で息を止めた。



 キッシュが死んだ。

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