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骨の勇者は肉が欲しい  作者: 芳井食品(芳井暇人)
勇者さまご一行です!
8/59

生きていますか?

 ◆


 ドワーフ達の誤解を解いたのは、アルマである。

 彼女がナカーシック王家の紋章が描かれた長剣をドワーフの隊長に見せると、容易く彼は非礼を詫び、自らの砦へ案内する、と申し出たのだ。


 無論、俺が破壊されていたので、フィリスは「ぐるる……」と、暫く獣のような唸り声を上げて、更なる交戦を望んでいたが、


「トオル殿も可哀想に。このような寒空の下、無残に遺骨をさらす事になろうとは……」


 こんなアルマの言葉で我に返ったフィリスは、一先ずドワーフの件は捨て置いて、俺の回収に走ったのである。 


 フィリスが涙を流しながら、俺の遺骨を拾っている。

 本当なら俺が生きていることを伝えたいのだが、結構な勢いでバラバラにされてしまった為に、骨伝道会話が出来ないのだ。

 しかし、外界の音は聞こえるし、魔力探知は出来るから状況は分かる。


(俺、生きてるんですが……)


 声にならない思いを中空に念じた。


 すると、ドワーフの隊長に未だ殺意を向けていたヤッファが、半開きの目を俺に向けて小さくガッツポーズをしたではないか。

 同時に、サラスも俺の残骸を見て微笑んでいる。ナイフをしまい、ドワーフの隊長に一瞥をくれて俺の下に走り出す。


 何故か、彼女たちには俺の思いが通じたらしい。

 ヤッファとサラスも俺の骨拾いを手伝い始めた。


「ト、トオルさまに触るなっ! 大体、なんなのじゃ! いきなり二人して成長しおって!」


 俺の破片を大事そうに抱えるフィリス。

 しかし、双子と思しき妖精エルフに向ける眼差しは、相変わらず厳しい。


「トールさまのおかげぇ~」


 サラス、成長したら、ギャルっぽくなった気がするぞ。


「トオルさま……死んでいない。破片は一つ残らず集めて……」


 ヤッファ。成長しても、相変わらず言葉が足りない。


「そ、そんなことはわかっておるっ! ほれ、おぬしらも手伝うのなら、トオルさまをこの袋に入れよっ!」


 ヤッファの言葉を聞いてフィリスは満面に笑みを浮かべたが、鼻水が出まくっているので、可愛いのに汚い。

 ああ、ほら、俺の大腿骨に鼻水がっ! もうっ!


 こうして俺は一つの袋に収められ、フィリスに背負われる事になったのである。

 何となく、壺に入れられなくて良かったと思うのは、考えすぎだろうか?


 ◆◆


 小高い山の中腹にある木造の砦に、俺たち一行は案内された。


 周囲に堀を作り土壁を盛り上げて、小さいながらも要塞化してある様だが、ドワーフの出城的なものだろうか? 


「さっきはすまなかった、改めて自己紹介をさせてもらおう。

 俺はポタリア王国戦士団、第二団団長のウルフィスという者だ」


「うむ……わたくしはナカーシック王国、王妹のアルマ・バルベリーニ……光の勇者だ」


「わたしは、破壊神ユリウスが大神官、フィリスじゃ。世界の魔を破壊すべく、勇者と共に旅をしておる」


「……ヤッファ」


「サラスだよぉ! ドワーフってやっぱり足短いねっ、キモっ!」


 自己紹介なのに、何故か喧嘩を売るサラス。だが、ウルフィスは目を逸らし、聞こえないフリをしている。案外、気弱な男なのかもしれない。


 砦内の一室に俺たちは通され、アルマ、フィリス、ヤッファ、サラスは暖かいお茶を提供されている。

 一方、袋入りの俺は部屋の隅に荷物らしく置かれ、暖を取る術さえ無い。

 まあ、いい。頭蓋骨を最初に直そう。頭が出来ればしゃべる位は出来るようになるはずだ。


 ドワーフの戦士団長は、一口お茶を飲むと、気を取り直したようにアルマに質問をした。

 

「では、勇者殿は北の魔王を討伐に?」


「うむ。それで、ポタリアの中枢を通らせて頂こうと思って、迷いの森を抜けて参ったのだ」


「ふむ……」


 ウルフィスは、固そうな茶色い顎鬚を太い指で扱きながら、厚い瞼を閉じる。


「通れんのです、今は……」


「通れない?」


 アルマは首を傾げて訝しむ。

 赤い瞳でウルフィスを刺すように見つめると、諦めたようにドワーフの戦士は重い口を開いた。


「今、洞窟には魔王配下の三魔将が侵攻しておってな。

 北からはバルバロッサとバルアロム。この南にはバルバリアがいて、既に洞窟内の七割程が制圧されている。

 実は……俺はバルバリア迎撃の任にあったのだ……しかし敗北を喫して洞窟を追われ、それでも進撃を止めようとここに城砦を築いて戦っている、という次第……。

 王に会わす顔は無くとも、せめて魔族に一矢報いようと、今日、不死公リッチーに戦いを挑んだと思ったら、この有様……情けない話だ」


 眉間に指を当てて、苦悩を語るドワーフ。

 しかし、さすが破壊神の大神官たるフィリスは、他人の苦悩ごと破壊する怒声を発した。


「だから、トオルさまは不死公リッチー等ではないと言っておろう!」


 あえて言おう。

 今の話のポイントは、そこではない。

 ついでに、実際に俺は不死公リッチーだ。何気に、ウルフィスの見立ては正しい。すまない、フィリス。


「まあ、不死公リッチーならば、魔将にも等しい存在であろう。貴殿の気持ちは分かるが……あれはそういった邪悪なモノではないのでな……」


 アルマ……俺をモノ扱いとは、いくら美人でも許さないぞ。後で覚えていろ、ヒイヒイ言わせてやるからな。

 と、俺は袋の中で、妄想劇場に興じていた。だって、退屈なんだもん。


「だが、話は分かった。ここを通る為には、魔将バルバリアを倒さねばならんのだな?」


 アルマは一口お茶を啜ると、事も無げに大変そうな事を言い放つ。


「なっ。確かにそうだがっ……だが、貴女はバルバリアの強さを知らんから……!」


「わたくしは、バルバリアを知っている……。バルバロッサも、バルアロムも……な。

 だが、相手がいかに強くとも、戦わなければならぬ時がある。

 ふっ……ドワーフの戦士は、たった一度の敗北で全てを諦めるのか?」


「う、うむむ……。諦めた訳ではない」


「ならば、魔将を倒すのに、わたくしに力をかしてくれるかな?」


「と、当然だ! むしろ、此方から頼む! 勇者どの!」


 どうやら、話が勝手に纏まったようだ。

 しかし、話を聞いていると、勝算が無いと言わんばかりだけど、大丈夫なのか?

 うーん。そう思っても、俺もバラバラだしなぁ。

 せめて思念体さんと話が出来る程度に、早く回復しないかなぁ。


「あーしらは、戦わないよ」


「……命令、ないから……」


 お茶をおいしそうに啜るエルフ達。

 場の空気とか、そんなものは一切読む気が無いような発言だ。


「ふん。エルフの力なんぞ、借りるかっ!」


 鼻息荒く、ドワーフの戦士はエルフを見据えて言い放つ。


「まあまあ、ウルフィス殿。私は協力をさせて貰おう。そもそも、トオルさまも救世が目的で旅をしておられるのだし、私が貴方を手伝う事を認めて下さろう」


 フィリスがドヤ顔でエルフ達を見下している。

 如何にも、俺の事をより理解しているのは自分ですよー的な、嫌味ったらしい視線だ。ある意味では、限りなく破壊神の大神官らしい振る舞いだと言えよう。先ほど生まれかけた優しげな人間関係を、早くも破壊しようとするのだから。

 

 しかし、きょとんとした妖精エルフの二人は、いっそ尊敬の眼差しでフィリスを見つめていたのである。



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