生きていますか?
◆
ドワーフ達の誤解を解いたのは、アルマである。
彼女がナカーシック王家の紋章が描かれた長剣をドワーフの隊長に見せると、容易く彼は非礼を詫び、自らの砦へ案内する、と申し出たのだ。
無論、俺が破壊されていたので、フィリスは「ぐるる……」と、暫く獣のような唸り声を上げて、更なる交戦を望んでいたが、
「トオル殿も可哀想に。このような寒空の下、無残に遺骨をさらす事になろうとは……」
こんなアルマの言葉で我に返ったフィリスは、一先ずドワーフの件は捨て置いて、俺の回収に走ったのである。
フィリスが涙を流しながら、俺の遺骨を拾っている。
本当なら俺が生きていることを伝えたいのだが、結構な勢いでバラバラにされてしまった為に、骨伝道会話が出来ないのだ。
しかし、外界の音は聞こえるし、魔力探知は出来るから状況は分かる。
(俺、生きてるんですが……)
声にならない思いを中空に念じた。
すると、ドワーフの隊長に未だ殺意を向けていたヤッファが、半開きの目を俺に向けて小さくガッツポーズをしたではないか。
同時に、サラスも俺の残骸を見て微笑んでいる。ナイフをしまい、ドワーフの隊長に一瞥をくれて俺の下に走り出す。
何故か、彼女たちには俺の思いが通じたらしい。
ヤッファとサラスも俺の骨拾いを手伝い始めた。
「ト、トオルさまに触るなっ! 大体、なんなのじゃ! いきなり二人して成長しおって!」
俺の破片を大事そうに抱えるフィリス。
しかし、双子と思しき妖精に向ける眼差しは、相変わらず厳しい。
「トールさまのおかげぇ~」
サラス、成長したら、ギャルっぽくなった気がするぞ。
「トオルさま……死んでいない。破片は一つ残らず集めて……」
ヤッファ。成長しても、相変わらず言葉が足りない。
「そ、そんなことはわかっておるっ! ほれ、おぬしらも手伝うのなら、トオルさまをこの袋に入れよっ!」
ヤッファの言葉を聞いてフィリスは満面に笑みを浮かべたが、鼻水が出まくっているので、可愛いのに汚い。
ああ、ほら、俺の大腿骨に鼻水がっ! もうっ!
こうして俺は一つの袋に収められ、フィリスに背負われる事になったのである。
何となく、壺に入れられなくて良かったと思うのは、考えすぎだろうか?
◆◆
小高い山の中腹にある木造の砦に、俺たち一行は案内された。
周囲に堀を作り土壁を盛り上げて、小さいながらも要塞化してある様だが、ドワーフの出城的なものだろうか?
「さっきはすまなかった、改めて自己紹介をさせてもらおう。
俺はポタリア王国戦士団、第二団団長のウルフィスという者だ」
「うむ……わたくしはナカーシック王国、王妹のアルマ・バルベリーニ……光の勇者だ」
「わたしは、破壊神ユリウスが大神官、フィリスじゃ。世界の魔を破壊すべく、勇者と共に旅をしておる」
「……ヤッファ」
「サラスだよぉ! ドワーフってやっぱり足短いねっ、キモっ!」
自己紹介なのに、何故か喧嘩を売るサラス。だが、ウルフィスは目を逸らし、聞こえないフリをしている。案外、気弱な男なのかもしれない。
砦内の一室に俺たちは通され、アルマ、フィリス、ヤッファ、サラスは暖かいお茶を提供されている。
一方、袋入りの俺は部屋の隅に荷物らしく置かれ、暖を取る術さえ無い。
まあ、いい。頭蓋骨を最初に直そう。頭が出来ればしゃべる位は出来るようになるはずだ。
ドワーフの戦士団長は、一口お茶を飲むと、気を取り直したようにアルマに質問をした。
「では、勇者殿は北の魔王を討伐に?」
「うむ。それで、ポタリアの中枢を通らせて頂こうと思って、迷いの森を抜けて参ったのだ」
「ふむ……」
ウルフィスは、固そうな茶色い顎鬚を太い指で扱きながら、厚い瞼を閉じる。
「通れんのです、今は……」
「通れない?」
アルマは首を傾げて訝しむ。
赤い瞳でウルフィスを刺すように見つめると、諦めたようにドワーフの戦士は重い口を開いた。
「今、洞窟には魔王配下の三魔将が侵攻しておってな。
北からはバルバロッサとバルアロム。この南にはバルバリアがいて、既に洞窟内の七割程が制圧されている。
実は……俺はバルバリア迎撃の任にあったのだ……しかし敗北を喫して洞窟を追われ、それでも進撃を止めようとここに城砦を築いて戦っている、という次第……。
王に会わす顔は無くとも、せめて魔族に一矢報いようと、今日、不死公に戦いを挑んだと思ったら、この有様……情けない話だ」
眉間に指を当てて、苦悩を語るドワーフ。
しかし、さすが破壊神の大神官たるフィリスは、他人の苦悩ごと破壊する怒声を発した。
「だから、トオルさまは不死公等ではないと言っておろう!」
あえて言おう。
今の話のポイントは、そこではない。
ついでに、実際に俺は不死公だ。何気に、ウルフィスの見立ては正しい。すまない、フィリス。
「まあ、不死公ならば、魔将にも等しい存在であろう。貴殿の気持ちは分かるが……あれはそういった邪悪なモノではないのでな……」
アルマ……俺をモノ扱いとは、いくら美人でも許さないぞ。後で覚えていろ、ヒイヒイ言わせてやるからな。
と、俺は袋の中で、妄想劇場に興じていた。だって、退屈なんだもん。
「だが、話は分かった。ここを通る為には、魔将バルバリアを倒さねばならんのだな?」
アルマは一口お茶を啜ると、事も無げに大変そうな事を言い放つ。
「なっ。確かにそうだがっ……だが、貴女はバルバリアの強さを知らんから……!」
「わたくしは、バルバリアを知っている……。バルバロッサも、バルアロムも……な。
だが、相手がいかに強くとも、戦わなければならぬ時がある。
ふっ……ドワーフの戦士は、たった一度の敗北で全てを諦めるのか?」
「う、うむむ……。諦めた訳ではない」
「ならば、魔将を倒すのに、わたくしに力をかしてくれるかな?」
「と、当然だ! むしろ、此方から頼む! 勇者どの!」
どうやら、話が勝手に纏まったようだ。
しかし、話を聞いていると、勝算が無いと言わんばかりだけど、大丈夫なのか?
うーん。そう思っても、俺もバラバラだしなぁ。
せめて思念体さんと話が出来る程度に、早く回復しないかなぁ。
「あーしらは、戦わないよ」
「……命令、ないから……」
お茶をおいしそうに啜るエルフ達。
場の空気とか、そんなものは一切読む気が無いような発言だ。
「ふん。エルフの力なんぞ、借りるかっ!」
鼻息荒く、ドワーフの戦士はエルフを見据えて言い放つ。
「まあまあ、ウルフィス殿。私は協力をさせて貰おう。そもそも、トオルさまも救世が目的で旅をしておられるのだし、私が貴方を手伝う事を認めて下さろう」
フィリスがドヤ顔でエルフ達を見下している。
如何にも、俺の事をより理解しているのは自分ですよー的な、嫌味ったらしい視線だ。ある意味では、限りなく破壊神の大神官らしい振る舞いだと言えよう。先ほど生まれかけた優しげな人間関係を、早くも破壊しようとするのだから。
しかし、きょとんとした妖精の二人は、いっそ尊敬の眼差しでフィリスを見つめていたのである。




