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骨の勇者は肉が欲しい  作者: 芳井食品(芳井暇人)
勇者さまご一行です!
7/59

ドワーフですか?

 ◆


 迷いの森をヤッファとサラスの案内で抜けると、すぐにゴツゴツとした赤茶色をした岩肌が現れた。

 彼方に見えるのは、山頂が白く雪に覆われたソーンロ山脈。あれを越えれば魔王が統べる大地に入るという事だが……。


「冬にあんな山を越えて行くのは自殺行為だと思うが?」


 自殺した俺が言うのもなんだが、冬の雪山で遭難したら洒落にもならないと思う。まして、俺が白骨で発見されたら、世間はさぞや疑問に思うだろう。


「雪山なのに、どうして白骨化が進んだのか? 或いは別の場所で殺されてから……」


 きっと、こんな憶測が飛び交うに違いない。この世界に新たなミステリーを作る気にはならない俺は、ちょっと慎重論を唱えていた。


「問題ない。ソーンロ山脈の地下にドワーフの王国が広がっていてな。そこを通れば山脈の北側に出られるのだ。間もなく、かの国へと至る洞窟が見えてこよう」


 アルマが陽光を反射して輝く銀髪を掻き上げながら、俺の疑問に答えてくれる。


「ドワーフ……」


「はぁ……。あーし、ドワーフ苦手なんだよねぇ」


 俺のローブの左右の裾を掴みながら、ヤッファとサラスが溜息をついていた。

 なんだか、森を抜けても去る気配がないのは何でだろう。

 彼女達は俺の半分程しか無い身長なのに、歩く速度も大人と変らぬほどで、息すら乱さず、当然の如く俺の側に侍っていた。


「こ、小娘ども……いい加減帰らぬか! そしてトオルさまから離れよっ!」


 そんな二人の小さな妖精エルフに、破壊神の大神官たるフィリスが唾を飛ばして怒鳴っている。

 とても大人気なくてみっともないが、フィリスは真剣な眼差しだ。


「……帰らない。トオルさま……次の命令を……」


「そーだよ。あーしらに命令出来るのはトオルさまだけなんだよっ!」


 ああ、そうか。魂を喰ったから、この子達は俺の支配から逃れられないのか。


「むっ、むぐぐ! トオルさまっ! 森を抜けたからには、妖精エルフなど用済みですっ! 早く帰れと命令をなさって下さいっ!」


 げに恐ろしきは女の嫉妬。

 幼女相手に嫉妬に狂うフィリスの緑色の瞳は、既に血走り赤緑色だ。

 このままでいては、フィリスの精神衛生上よくないだろう。

 真摯かつ誠実な上に優しさに富んだイケメン骸骨たる俺は、緑髪緑眼の美女に救いを差し伸べるに吝かではない。

 

 大体、ちょっと頭にきたとはいえ幼女の魂を喰ってしまったのは、さすがにやりすぎたと反省もしている。となれば森も抜けたことだし、魂を返して開放しても良いだろう。

 ていうか、魂の返却って、出来るのかな?


【個体、八坂徹が喰らった魂は統合され、現在の八坂徹を形成しています。故に、魂の返却を行えば、一時的に個体、八坂徹が弱体化します。返却しますか? Y/N】


 俺は迷わずに「はい」と念じる。

 何言ってんだい、思念体さん。元の俺の魂に戻るだけでしょうが!


 俺の口から青白い炎が現れ、それが幼いエルフ二人を優しく包み込んでゆく。

 二人はそれぞれ全身に青白い炎を漲らせたかと思うと、急速にその肉体を成長させ始めた。


【個体、八坂徹は魂の87パーセントを失いました】


 思念体の宣言と共に、俺の身体からがっくりと力が抜ける。

 え? 身体が重いんだけど?


「まずいぞ。囲まれている」


 俺が脱力の極にあるというのに、アルマの声が緊張感のある響きを帯びている。

 草花に囲まれている、という優しい意味では無さそうだ。


 アルマが純白のマントを翻して、長剣を抜き放っていた。

 フィリスも樫の杖を握りなおし、怒りを納めて周囲に警戒の目を光らせている。


 反面、俺は銀の杖が重く、うっかり取り落としてしまう程に憔悴していた。むしろ、魂の返却というか、あげちゃった感じだ。

 しいていうなら、レンタルしたDVDを暫く返さなかったら、驚く程の延滞金を請求された感じだろうか? これなら、新品が買えたよ! って、金額になっているようなものだ。

 忘れていただけですっ! と、言っても許してくれない店員は、きっと何処までも正しい。

 おっと、一体何の例えなのか、自分でも解らなくなったぞ。


「魔族の一党めっ! 殲滅してくれるっ! 

 戦士団、前へっ! 俺は不死公リッチーをやるっ!」


 周囲から、短身ながらも戦車のような体躯の人々が迫る。

 俺はよろける脚を絡ませながら、属性反転を試みるが、残念な事に思念体が反応してくれない。

 にも関わらず、眼前に巨大な戦斧を抱え、皮鎧を身に着けた屈強そうな男が迫っていた。


 ――ごわん、どかっ、ばきっ――


 振りかぶった斧を俺の頭上に一振り。斧を返され、俺の胴が分離して、最後に斧の平で押しつぶされた。


 俺は、ばらばらになりました。

 ばらばら殺人事件です。


「トオルさまっ!」


 フィリスの悲鳴が聞こえる。

 しかし、彼女も自身を守る結界を展開するだけで精一杯の様で、俺を救出する余裕はないだろう。


「なっ……トオル殿っ!」


 アルマも驚いた顔を浮かべている。それもそうだろう、俺の戦闘能力からすれば、本来、こんな所で負けるはずもないのだから。


 しかし、アルマは凄いな。二〇人位のドワーフ戦士を一人で捌いている。しかも、きっと殺さない様に手加減もしているのだろう。


「武器を収めよ! 私達は敵ではない。魔王を滅ぼしにきた勇者だっ!」


 アルマは、ドワーフたちにそう呼びかけていた。


「そっ、そうだ! そなた等、何をしたか分かっておるのかっ!? 今、そなた等が破壊した骨は、破壊神ユリウスさまなるぞっ!」


 フィリスの絶叫は悲鳴に近く、周囲の山々に木霊する程だ。

 ていうか、破壊神って言わない約束だったのに。きっと、気が動転したフィリスは、既に己を失っているのだろう。

 あと、破壊された破壊神って、ちょっと切ないんですが。せめて他の言い方をして欲しかった。


 そんな状況の中、俺から魂を返却された妖精エルフ達の変化が終わっていた。

 

 緑の簡素な衣服から伸びた手足もしなやかに、身長だけならばフィリスと変らない程になっている。


「引け、ドワーフども……引かねば我が主の仇、とらせてもらうぞ……」


 切れ長の目を、俺を倒したドワーフに向けて、すっかり大人になってしまったヤッファが言った。ジト目も美人がやると、妖艶に早変わりするようだ。


「あーし、あいつを許さない」


 腰のベルトに挿していた短剣を抜き放ち、ヤッファよりも、やや丸い瞳に怒気を滾らせてサラスが凄む。


 なぜ、開放されてないの?

 俺、魂を返してあげたはずなのに……?

 二人は相変わらず俺に対する忠誠心を持っているようだ。むしろ、強まったというか、支配していた時よりも自主的だ。


「ま、まてっ! 妖精エルフ! 人間っ! どういう事だ? 俺は不死公リッチーを倒したはずだっ! お前たちの敵意の意味がわからんっ!」


 砕けた俺の頭を踏みつけて、極太ドワーフが周囲に叫ぶ。


 百人近いドワーフ達を相手に縦横に暴れるアルマに脅威を感じ、決して崩れぬ結界を張るフィリスに驚き、今、敵意を向けてくる成長した妖精エルフを見て恐怖したのだ。

 そして、魔の眷属ではありえない者達を敵としたかも知れない疑念を、ドワーフ達の隊長は感じていたのだろう。

 少なくとも、俺の探知では、そんな風にドワーフの内心を量っていた。


 どうでもいいが、ドワーフの戦士よ。俺の頭蓋骨から足をどけてくれまいか。

 二つに割れていただけなのに、六つに割れちゃったんだけど。

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