エルフですか?
◆
「黄金仮面ーー! 世界を救ってええ!」
旅立ちの時、俺は予想以上にパチカデの英雄だった。
自分の有名さ具合にびっくりした。
黄金色に輝き、陽光を反射する俺は、何処までも神々しい。うん、俺は骨でも満足出来る男。やってやろうじゃないか。
しかし、制限時間の関係で、街を出たら白骨に戻る。その様はまるでシンデレラのよう。
「アルマさまーー! お美しいーー!」
俺と同じ程に、銀髪の騎士は国民に人気があった。
微笑を浮かべ、ゆっくりと歩き沿道に並ぶ国民に手を振る姿は、間違いなく姫というよりも勇者であった。
まあ、実際に勇者なのだし、別に俺は彼女の人気に嫉妬したりしない。
実年齢三十一歳の大人っぷりを舐めるな。
一方で、フィリスはと言えば、白いローブを目深にかぶり、静かに樫の杖を持って歩いている。
「お穣ちゃん! ケガすんなよぉ!」
「わはは、破壊神の加護があるからな! ケガしたら悪化しちまう!」
どちらかというと、彼女にはヤジが飛ぶ。
まあ、破壊神の扱いというのは、所詮こんなものだ。
大神官等と言っても、愛される神の僕のみがチヤホヤされるのだ。半ば悪神扱いのユリウスの神官など、他国に行けば石を投げられるというのだから、これでも大分良い待遇なのだろう。
こうして、俺たちは王と謁見した翌日には、騎士団を従えて街の外門までの道のりを歩み、魔王討伐を誓うパレードを行ったのである。
季節は冬が迫り、集まった人々の吐き出す息は白く、皆が寒さに耐えてまで、勇者の一行を見送ってくれているのだ。
高く澄んだ空は、そんな彼等の意気に答え、俺たちの前途が明るい事を示しているかのようであった。
◆◆
「不死公……」
王都から街道を北へ半日程進み、迷いの森と呼ばれる森林地帯に足を踏み入れた俺たち一行。
眼前では木々が歪み、木漏れ日が四方から輝く中、木立の影から響く声があった。
俺を侮辱する声だ。
藪から棒に失礼だよ! あんな化け物と一緒にしないでくれるかな!
だが、俺がそう思う内にも視界が揺らめき、前後左右、或いは上下までもが混乱する。
「これが、迷いの森? 宇宙? なんだこれは?」
「幻術です。ここは妖精の領域! トオルさま、お気を付け下さいっ!」
言うが早いか、フィリスは複雑な文字が描かれた樫の杖を前に出し、呪文を唱え始めた。
「破壊の炎よ、天地を引き裂き吹き荒れよ! 爆炎輪陣!」
フィリスが一息つくと、俺たちの周囲には炎の壁が現れた。
「結界を張りましたっ!」
鋭い眼光を周囲に配り、額に玉の汗を輝かせるフィリス。
炎が大気を巻き上げて、フィリスの緑色の髪もふわりと揺れている。
確かに、炎の円の内側にいる俺たちに幻覚作用は無くなったようだ。が、これは明らかに結界というより森を破壊している、やり過ぎだろう。
「ふっ、出て来い妖精。我々は魔王を討伐しに行くだけだ。お前たちに迷惑をかけるつもりなど無い」
凛と澄んだ声で、アルマが幻術を仕掛けた者に問いかける。しかし、フィリス曰くの結界のせいで、僅かに頬が汗ばんでいるので色っぽい。
……俺のハアハア心に灯が燈る寸前だ、アルマと二人きりになりたい。
いや、それよりも相手はエルフだと? それは、俺が学生の頃に憧れた存在だ。まさに、あのエルフだろうか?
改めて、俺は妙な幸福感に酔いしれていた。ファ、ファンタジー。
ちなみに、俺は特性として料理上手を獲得する過程で、炎属性防御中も獲得している。故に、熱くないし、汗も出ない。いや、汗が出ないのは骨だからなのだが、とにかく、この状況は余裕なのだ。
俺は、得意の魔力感知の範囲を広げ、三百六十度、距離は約五十メートル程度まで見える様にした。
少なくとも、エルフの声は聞こえたのだから、ここまで感知範囲を広げれば、絶対に居所は分かる。
そこだっ!
俺は、銀の錫杖を翳して、青いレーザービーム的なモノを出す。
それは、俺が属性反転を用いている時ならば、雷光の如き速度で敵を貫く代物だ。しかし、今はというと……。
如何せん、不死骸骨と銀製品は相性が最悪である。
へろへろと流れた青い光線は、一応敵対者に当たったようだが、大した効果を表していない。
「……痛っ」
こんな声が聞こえたが、それは結界との相乗効果であろうか? とりあえず、しっぺ程度の威力はあったのだろう。
だが、次の瞬間、大量の水が周囲に現れて、炎の結界はかき消されてしまった。
「森を汚すなど……許さない……人も不死公も……」
「落ち着きぃ、ヤッファ」
辺りに白煙が上がっている。急速に消された炎が水蒸気を巻き上げ、鎮火しきれない木々からは煙が上がっている。周囲は、一面が白く濁り、くすんだ匂いに満たされていた。
ていうか、先に突っかかってきたのになんて言い草だろう、このエルフさんは。
おじさんは、怒ったぞ! ぷんぷん!
【レベルが34になりました。特効:魂喰い《ソウルイート》を覚えました】
おじさん、怒ったらレベルが上がったよ。
もう、経験値の概念がさっぱり俺にはわからないんだけど。
まあ、そんな事は今はいい。
俺は基本的に目で見ている訳ではない。だから、視界が白く濁って塞がれても、当然の事ながら相手を見ることが出来るのだ。
そんな中、無用心に進む耳の尖った二つの影。
彼等も何らかの方法で俺たちを認識出来るのだろう。だが、俺が自分たちを認識しているとは思っていないらしい。だから、わりと無造作に近づいてくる。
俺は、見えているぞと言わんばかりにフードを捲り、彼等の進行方向に合わせて歩みを進めた。
「……!」
「……ッ!」
二つの絶句。そして、四つの紺碧のような瞳が俺の眼窩に注がれる。
【敵対者の魂を食べますか? 対象者、前方二名 Y/N】
なぬ? 俺に新たな能力が? さっきのヤツか……うん。まあ、お仕置きをしたいけど、これをやったら二人は死ぬのかな? 殺す程でもないしなぁ……。
【魂をいくらか残して捕食することで、敵対者を支配下に置く事も出来ます。魂を食べますか? Y/N】
ふむ。そういう事なら、多少食べてみよう。
【90%:完全支配 80% 支配 70% 強制支配 60% 部分支配 50% 敵対意思破棄】
ふおおおお。完全支配とかも出来るのか。
なら、頭にきたし、やってみよう。90%でっ!
「う……」
「……な、なん……だ?」
俺の口元に青白いモノが入り、意図せず呑み込んだ感覚に囚われた。
そして、眼前に蹲る二人の金髪長耳さん達。苦しんでいるのか?
だが、次の瞬間には、”きらきら”とした蒼い瞳で俺を見上げていた。
「ご主人さま……」
「なんなりとご命令をっ!」
暫くして視界が回復すると、フィリスとアルマが俺の下に駆け寄ってきた。
しかし俺の置かれた状況を、彼女達が察せるはずもない。
何しろ、俺のローブに二人の幼女が縋りついているのだ。
それを見て、フィリスは緑色の瞳を潤ませて幼女達を羨ましそうに眺め、アルマは、ただ呆気にとられていた。
「……ご命令を」
と、ローブを握り締めながら言うのがヤッファ。
「先にめーれーもらうのは、あーしだよぉ!」
間延びした声で、骨だけの足に纏わり付いているのが、サラス。
ヤッファは常にジト目な女の子で、サラスはくるくる動く長耳が特徴的な女の子。二人に共通なのは、陽光に煌く鮮やかな金髪と、秋の大空よりも澄んだ水色の瞳だった。
そして、俺はそんな二人の魂を90%食べてしまった鬼畜的骸骨おじさんだ。
「ト、トオルさま……あぁう……」
そのまま、何故か二人に負けじと俺に縋りつくフィリス。最近、彼女の行動はかなり変だ。もしや、俺に恋愛感情を持ってしまったというのか? まったく、モテる男は辛い。まあ、一年も共に暮らしたのだ。きっと今まで抑えていたものがあふれ出したのだろう。出来ればそう思いたい。
アルマの方は、俺を呆れ顔で見ていただけだが、そのうち何かに納得した様に、声を上げて笑い始めた。
「ははは! 敵を懐柔するとは、やるな。
なあ、トオル殿。良かったらその二人に、この森の抜け方を聞いてくれないか? ははは」
そう、俺達は北へ進み、既に魔王の一人に支配されてしまったという街を目指していた。しかし、海路は強大な海の魔物が住んでおり、陸路で西や東からこの森を迂回すれば時間がかかりすぎる。だから、危険を承知で迷いの森へと歩みを進めたのである。
が、迷いの森はその名に相応しく、俺たちを迷わせる事に成功した。
そして、この顛末へと至るのである。
「な、なあ、ヤッファ、サラス。キミたち、歳は幾つかな?」
「……九十八歳」
「九十九歳だお!」
よし、オッケーだ。俺はロリコンではない! 断じてっ!
「ところで、この森の出口は?」
「……こっち」
「あーしについてきてっ!」
こうして魂食い《ソウルイート》を身に着けた俺は、意気揚々と幼顔のエルフ達に頼み、美女二人を従えて、悠々と森を抜けたのである。
【個体名:八坂 徹
類:闇魔
種族:不死族
科目:不死公
信仰:破壊神ユリウス
称号:魂の支配者
主装備:銀の神錫
特性:不死 再生 闇属性無効 聖属性防御効果小 剣技強 格闘強 物理攻撃防御中 炎属性防御中 料理上手
特効:魔力無限 自家製味噌作り 酒醸造 燻製作り 野菜栽培 家畜飼育
レベル:34】
勇者という存在とは正反対に進んでいそうなステータスに俺が気付いたのは、どっぷりと日の暮れた後の事であった。
そして、エルフ達の不当と思えた非難は、実は正鵠を射ていたのである。
俺は、不死公に進化していたのだ。
先にドワーフを出すかエルフを出すかで迷った結果、エルフでした。




