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骨の勇者は肉が欲しい  作者: 芳井食品(芳井暇人)
骨は敵ではありません!
5/59

旅に出ますか?

 ◆


 神殿のある丘を下り、窪地にある市街を抜けて王宮のある丘へとたどり着く。

 このナカーシック王国の首都パチカデは、八つの丘と、その間を埋める盆地で成り立っているのだ。

 王宮へと至る門では、槍を構えた衛兵が迎えてくれた。

 流石に大神官だ。フィリスは衛兵に最敬礼をされながら、宮殿内に通された。

 俺はというと、フードの奥を除かれそうになったので、、銀製の錫杖を翳して”イヤイヤ”をする。照れ屋さんだからだ。


「その錫杖はっ?」


「そうだ、神錫だ。即ち、こちらのお方は、破壊神ユリウス様である。下がれ無礼者がっ! 跪けっ!」


 衛兵を説得するフィリスの言い様が酷い。

 これで俺が破壊神じゃないってバレたらどうなるんだろう? 打ち首だろうか? まあ、今更首を打たれても死なないので、問題は無いが。 

 フィリスの剣幕に押された衛兵が、さっさと俺を通してくれる。

 まあ、俺の顔を覗き込んだ兵士が悲鳴を上げていたけれど、それはこの際気にしないでおこう。イケメン効果と思えば、悪い気もしないし。

 それにしても、銀の苦手な俺に銀の錫杖とは、神になるのも辛いものだ。持っているだけで”ぷるぷる”する。


 俺たちは特に待たされる事もなく、謁見の間に通された。

 俺が神だということで、最優先にされたのだろう。ある意味で、非常に肩身が狭い気持ちになる。

 

 豪奢な玉座に座る王は、まだ若い。俺とそんなに歳も変わらないだろう。見たところ二十代だが、俺だって、生前は二十代に見えたはずだから、断固として同世代だと言おう。

 もっとも結果として現在が「見た目は骸骨、中身はおっさん」なのは俺としても遺憾に思う。否定はしきれない。

 しかし、目の前の男は国王という重責の為だろうか。若そうな見た目とは対照的に黒い目は淀み、死んだ魚のようである。ある意味で、この男も死人みたいだな。

 まあ、空洞眼の俺にそんな事を思われているとは、夢にも思わないだろう。


 真紅の絨毯の上、居並ぶ廷臣に囲まれながら跪くフィリスと俺。

 目深に被ったローブのお陰で、俺が骨だとはまだ気付かれていないようだ。


「余がナカーシックの王、ウィンメーグ三世である。

 ……大神官フィリスよ。そなたと共におるのが黄金仮面、ということだが?」


「はい、陛下。こちらのお方こそ私が召喚いたしました破壊神ユリウス……そして、巷で噂の黄金仮面にございます」


 フィリスの言葉が終わると同時に俺は属性を反転させ、金色に輝く。

 すると、先ほどまで重くて仕方がなかった銀の錫杖がとたんに軽くなり、扱い易くなった。

 さらに、俺はフードを捲り、自らの髑髏を顕にすると、立ち上がり王を睨みつける。(目は無い)


「ナカーシックの王よ。王の分際で神を呼びだそうなどと、無礼ではないのか? このような事をするよりも、街の治安を守る方が優先ではないのか?」


 俺は、出せる精一杯の低音で王に語りかけ、昨日抱いた怒りをぶつけてみる。

 

 そんな俺の反抗的な態度に、周囲に居る廷臣や騎士は警戒感を顕にした。

 しかし、王は平然と、黄金に変わった俺を見やり、口元を歪めている。


「怒っているのかな、破壊神どのは? 

 所詮我が王国は滅び行く定め。余は、無礼を承知で、せめて黄金仮面に縋ろうとおもったのだが――」


 はて? 俺は話の展開がわからなかった。

 一国の王が、黄金仮面を頼ろうと思った、と? 確かに街ではそれなりに名が知れたかもしれない。だが、それもコソドロ相手であったり、その辺の暴漢相手であったり、弱小の妖魔を相手にしてのこと。多分、勇者という者には遠く及ばず、騎士や魔術師にも負けるのではなかろうか?


【個体:八坂徹は、現界、魔界において最強になる資質を備えています。思念体と同一である以上、同種以外のモノに敗北する事は、本人が望まない限り不可能です】


 俺の疑問に、思念体さんが答えてくれた。

 自信を持って、お兄ちゃん! と妹にでも言われたと思っておこう、やる気が出るからな。


【……私のヤル気は下がります】


 おお……世界の意思たる思念体に俺は今、全力で否定された。


「どういうことだ?」


 しかし、後には引けない。もはや平伏などせずに、腕組みをして王の言葉を待った。しっかりと神様らしく振舞う事にしたのだ。

 殴られそうになったら、きっとフィリスが全力で守ってくれるだろう。それに、思念体の言を信じるならば、俺は殆ど無敵のはず。

 ちょっとだけ思念体さんのモチベーションを下げてしまったが、まあ、何とかなるだろう。


「絶え間なく魔界の門から注ぎ困れる魔素により、この一帯の魔物共も活性化しておる。我が国で平和なのは、もはや王都パチカデだけだ。

 それとても、わが宮廷魔術師団が日夜結界を張り続け、その境界を騎士団が守ればこそ維持出来ているに過ぎん。

 そして、魔王を討伐すべく向かった勇者達一行は、悉く返り討ちに遭っているのだ」


 王の言葉に、廷臣の一部が涙ぐむ。

 だが、これも王の手の込んだ演技かもしれない。何しろ、そんな話は初耳なのだ。


【真実です。個体、八坂徹。今、現界は魔界に寝食されています。それ故に、魔王を討伐し、魔界の門を閉じなければ、この世界の主たる上位種族、人間、ドワーフ、エルフが殲滅されるでしょう】


 ふむ。俺の疑問に思念体が丁寧に答えてくれた。

 今まで思念体には基本的に、味噌作りや酒造り、料理を教えてもらっていたが、もっとこんな話を聞いておけば良かった。

 思念体さんは、クックパッドではなくグーグルだったのだ。


「――そこで、だ」


 王の言葉を継いで、凛とした声が謁見の間に響いた。

 俺の後ろから、靴音を響かせて歩み寄る者が居る。

 その者は、俺の横に並ぶと涼しげな微笑を浮かべて、「はじめまして」と小さく言った。


「破壊神ユリウスさま。わたくしは騎士アルマ・バルベリーニ。ウィンメーグ陛下の妹にして創造神に選ばれし勇者です」


 なんとも、美人さんだ。

 白銀に輝く鎧を身に纏い、その上には卵形の締まった輪郭が乗っている。輪郭を覆うのは銀色に輝く髪であり、赤色の瞳は輝きに満ちていた。

 可愛い系のフィリスと美人系のアルマに挟まれて、俺は無意味に幸せだった。

 

「頼みの件だがな、余の妹……新たな勇者と共に、魔王を討ち果たして欲しいのだ、黄金仮面……いや、破壊神殿」


 俺は、無い目を白黒させた。

 そういう事だったのか、うっかり多幸感に酔っていた。

 ではなく、フィリスが「もう終わりだぁ」等と言うから、すっかり俺も勘違いしていた。

 世界は平和でなく、魔王の脅威はすぐ側まで迫っていたのだ。

 王は平和の維持に努力していたし、勇者だけでなく俺にも頼るという事は、藁をも縋る思いであったのだろう。だから、ウィンメーグは自らの絶望を皮肉で包み、冷笑していたのだ。

 つまり、事態はそれ程に深刻になっている。

 

 俺は、自らの内側からこみ上げるモノを感じていた。

 勇者として呼ばれてから三六六日。ついにこの日が来たのだ――


 もちろん、俺は勇者として戦うのではない。破壊神ユリウスの化身として、黄金仮面として戦うのだ。

 勇者と呼ばれたい気がしていたが、まあ、それも我慢しよう。こんな美人と一緒なら、きっとムフフな展開があるのではないか? ムフフ。


 鼻息の荒い黄金骸骨であるところの俺は、鷹揚に国王に頷き、大きく胸を叩いたのである。

 

「……よかろう。アルマ・バルベリーニ殿、よろしく頼む。ハーッハッハッハ!」


 こうして俺は女騎士に伴われて、魔王討伐という名の旅に出ることになった。

 

 余談だが、フィリス・デ・ラ・ロッソも神官として俺達の旅に同行する事になった。


 「ト、トオルさまのいらっしゃる所でしたら、たとえ地獄の底までも!」


 こんな風に言われては、フィリスの同行を許可しない訳にもいかなかったのだ。

 昨日までは散々下僕のように扱っていたのに、今ではすっかり俺を神として崇めている。

 ちなみに、フィリスは俺のことを「ユリウスさま」と呼びたがったが、違和感がありすぎたので却下した。それに、旅の途中で破壊神の神官に破壊神の名で呼ばれるなど、多分色々と面倒になるので、ちゃんとトオルと呼んでもらう事にしたのである。

 

 

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