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骨の勇者は肉が欲しい  作者: 芳井食品(芳井暇人)
骨は敵ではありません!
4/59

何者ですか?

 ◆


 俺は食卓につくと、肋骨に皮袋を引っ掛けた。

 フィリスに食べ物をこぼすな! 等と怒られるのも癪なので、自前で胃袋を作ったのだ。

 もちろん、入念に咀嚼もする。そうして皮袋に落ちたものは、家畜の餌にしたり、作物の肥料にしたりも出来るので、あながち全てが無駄になるという訳でもない。


 程なく、フィリスも食卓に現れた。

 テーブルを前に質素な椅子に腰掛けて、手早く神への祈りを捧げるフィリス。破壊神へは、壊された食物が自らの血肉になることを感謝するのだという。つまり、破壊神の教えでは「食」即ち、生命の破壊と同義なのである。


「トオル、街で黄金に輝いていたりしないだろうな?」


 俺の自慢の味噌汁を啜り、舌鼓を打ちながらも、フィリスの視線はやや険しい。

 もはや彼女には、俺を聖なる骸骨と崇めるつもりなど無いのだろうか?


「……ふっ」


 俺は、そ知らぬ顔をして羊肉のソテーを切る。

 我ながら、良い焼き加減。馥郁たる肉の香りが、俺の一つだけの鼻腔を擽るようだ。

 そして、ゆっくりと咀嚼する。うむ。美味い。

 俺は味を確かめると、肋骨にぶら下げた皮袋へと肉を落とした。


「黄金仮面とは、誰の事じゃ? そして、白骨の邪神とは何者じゃ?」


 フィリスの声は、剣呑だった。だが、同時にその目には涙も溜めている。

 俺は、食事の手を止めると、改めて正面に座るフィリスを見据えた。


「ふむ。正義の使者、黄金仮面、か? 弱気を助け強気を挫くそうだな。俺も、その様な方に是非お会いしたいものだ……」


 まあ、本当の事を言ってしまえば、フィリスに心配をかける。

 ここは適当に誤魔化しておこう。


「正義の黄金仮面殿は、今日、羊肉を持っていたそうじゃ」


「へ、へぇ」


 俺は、虚ろな目を中空へ向け、煽る様に葡萄酒を飲む。皮袋にどぼどぼと酒が注がれると、フィリスが咎めるような目線を向ける。

 目線だけではなく、実際に咎められた。


「もったいないじゃろうがっ! お前は生ゴミを作って何がしたいんじゃ!」


 俺は、フィリスの怒声を聞き流し、三ヶ月ばかり前の事に、思いを馳せた。

 

 あの日、俺は窃盗犯の男を見つけた。

 その時、俺の義侠心に火がついたのだ。

 俺は、逃げる窃盗犯を追った。逃げる男は、ナイフを振り回しながら、俺を振りきろうとしていた。しかし、俺はその男に追いつき、幾度かナイフで切られながらも何とか取り押さえたのだ。

 男と、視線が絡み合った。

 男は、俺の眼窩を青ざめた顔で覗き込むと、目を見開いて恐怖に慄いていた。

 しかし、男は尚も俺に抵抗を試みてきたのだ。

 肋骨を蹴られた俺は、三本程骨が折れてしまった。

 痛みはないし、動きにも問題はないが、それがダメージである事には変わりなかった。

 そこで思念体が言ったのだ。


【属性反転を使えば、傷を即座に修復する機能が得られます。属性反転しますか Y/N】


 俺の答えは決まっていた。

 確かに、黄金色に輝くと共に、肋骨は瞬時に再生していた。

 さらに驚くべき事に、属性反転をすると、身体能力そのものも向上したのだ。

 俺は、すぐさま男を縛り上げ、フードを目深に被って、被害にあった店に向かった。

 当然ながら、俺は正体を知られる訳にはいかない。だから、商店主の礼を固辞しつつ、ローブを翻して急ぎ、神殿へと帰宅したのであった。


 以来、俺は人を助けるとき、属性反転を使っている。

 だが不思議なのは、その三ヶ月前を境にして、パチカデの街に犯罪が増えたように思えることだ。それどころか、ごく低級の魔物さえ見る事がある。

 無論、小鬼オーク妖鬼コボルトよりも位階の低い幽界と現界の狭間にいるような妖魔なので、何をした所で人に直接的な危害などは及ばないのだが……。


「……そう、だな」


 俺は、もう誤魔化せないと感じていた。

 それに、悪い事をしている訳ではない。まあ、悪いといえば、目立ってしまった事は申し訳ないが、人助けなんだから、仕方ないだろう。

 ならば、フィリスだって許してくれるはずだ。


「ハーッハッハッハ! ばれてしまっては致し方ない。私がその、黄金仮面だ!」


 俺が椅子を蹴って立ち上がると、ほぼ同時に何も乗っていない銀の皿が俺の頭蓋に直撃した。


「な、なぁ!?」


 俺の頭部がぐらりと揺れて、落ちる。

 中々の攻撃力だ。加えて、銀製品にはとことん弱い俺の体が災いした。


 ”ごろんごろん”と、頭が取れてしまった。その拍子に、頭蓋の内側に、先ほど切った肉が落ちる。


 ああっ! 俺の頭に羊肉がっ!


 俺は、頭蓋骨の内側から肉を拾い、胃袋(皮袋)に入れた。それから、内側を丁寧に拭く。何も入っていないから、掃除もしやすいのだ。

 うん、今度から風呂では取り外して洗おう。内側も意外と汚れている事に、俺は気がついたのである。


「何をするんだ、フィリス!」


 いや、今はそれどころではない。フィリスが緑眼に怒気を湛えて俺を見ているのだ。

 俺は小脇に髑髏を抱えて、フィリスに問うた。

 おっと、揺れた拍子に肋骨にぶら下げた袋が外れそうになった。危ないから取り外して、テーブルの上に置こう。


「先程、国王陛下からの使者が来たのじゃ。

 お前に会わせろ、黄金仮面とは何者なのだ、邪神と同一の存在ではないのか、と」


 フィリスは、俺の側にあった皿を奪うと、猛然と羊肉を口の中に放り込む。せっかく切って食べやすくしたというのに、奪われてしまった。

 それにしても、フィリスは、よくもあれだけ食べて太らないものだと思う。


 ともかく、フィリスの怒りの理由はわかった。

 せっかく一年も俺を隠し通していたのに、俺が目立った事で国王に呼ばれたのだ。金色も白色も同一であれば、俺が不死骸骨スケルトンだとばれてしまうだろう。

 だとすれば――

 

「つまり、俺が国王に会ってしまうと、フィリスは黄金でもなんでも不死骸骨スケルトンを召喚したダメ神官という烙印が押されるんだな?」 


 俺の一言が、フィリスには効いたらしい。それとも、張り詰めていた糸が切れた、とでも言えば良いのか。

 頭を両手で抱えて、フィリスは叫んだ。


「そ、そうじゃ。別に、お前に罪が無いことなど分かっている。だが……、国王はそう見ない。

 勇者を召喚すべき大神官が不死骸骨スケルトンを召喚し、あまつさえ街中を跋扈させた、などと。 ……わ、私はもう終わりじゃ! もうダメじゃ! 破壊神ユリウスさま、私を破壊して下さいませっ!」


 あ、その考え、俺が死ぬ前のと似てるな、などと妙な共感を覚えつつ頚骨に髑髏をはめ込むと、俺は勤めて冷静な声を出した。(骨を振わせた)


「フィリス……だったらさ」


「うわあああああん……?」


 味噌汁を飲みながら、器用に泣き叫ぶフィリス。だが俺の言葉に反応して、そのどちらもが、止まった。


「逃げればいいさ。

 どうせ、街も荒廃しつつある。もっと安全な所にいって、一からやり直した方が良いんじゃないかな」


 俺は、自分の言葉に愕然としていた。

 どうして俺は、あの日、あの時、死を選んだのだろう? 冷静に考えれば、今の俺の考えこそが正しいものだ。

 別に、生きる場所に固執して死ぬ位なら、逃げたって良いのではないか?


「……破壊神の神官など、この国以外で生きてゆけるものか……えっぐ、えぐっ。逃げられるものかっ……!」


 しかし、俺が自らを震えさせた渾身の言葉も、フィリスの心には届かないようだった。


 まあ、元はと言えば、フィリスが俺を召喚した挙句に隠した事が原因な訳で、自業自得とも言える。けれど、俺はこの一年、彼女の努力を見ていたのだ。

 健気に、この誰からも愛されない神に尽くし、祈り、神殿を守っていた。それが、父、母から託された願いだからだとしても、少女一人で背負うにはあまりにも大きな物のように、俺の目には(ないけど)映っていたのだ。


 ならば、俺は彼女が心を動かすであろう言葉を選ぶべきなのだ。


「フィリス……今まで黙っていてすまなかった。お前の日々の努力に免じて、正体を明かそう。

 我こそは破壊神ユリウスの化身なり……」


 真っ赤な嘘だ。しかし――


「えっぐ、えっぐ……え?」


 俺の言葉に、フィリスの嗚咽が止まった。

 骨である以上、俺が勇者と言うには無理がある。それは、流石の俺だって不本意だが分かることだ。もしも、俺の前に白骨が現れて、この国を救う勇者だ! などと言っても、ご当地ゆるキャラ程の説得力すら持たないだろう。


 しかし、破壊神ならどうだ?

 この姿なら……俺なら、少なくとも勇者と言われるよりも信じるだろう。

 それに――


「えっ、えっ……!」


 俺の目の前で、緑髪の少女が平伏している。


「そ、そんな。わ、私は、ま、まさかっ! いいえ、そうに違いないのじゃ。なぜ私ともあろう者が気付かなかったのか! 

 そのやせ細ったお体! 無い髪の毛……! トオル! まさか貴方がユリウスさまの化身であったとはっ!

 わ、私を試しておられたのですねっ!」


 椅子から飛び降りてまで平伏している美少女に、俺はかける言葉を失った。

 嘘なんだけど……とは、もはや言えない空気である。立場が一気に逆転してしまった。

 やり過ぎたかもしれない。


 破壊神ユリウスの姿とは、髪が無く、やせ細った中年……つまり、骸骨とイコールな部分が多いのだ。

 ちなみに、ユリウスは髪がまったく無くなっていたわけではなく、薄かっただけだという。だが、伝説が神話に変わるとき、髪の毛と肉が削げ落ちたそうだ。何とも不憫な神様である。

 故に俺の姿は不本意ながら、黄金に輝くという説明不能な現象がある以上、破壊神と言っても、実はまかり通るのだ。


「そうだ。俺がユリウスだ。王が俺に会いたいというのなら会ってやる。俺も、言いたい事があるのでな……まあ、今は食事を続けろよ……」


「かしこまりましたっ、我が神よ! 明日にでも王城に参りましょう!

 いや、ユリウスさま! この味噌汁は美味いですなぁ! 流石です! なんでも豆を破壊して作られたとか! いやぁ! 食が進みます!」


 茫然とする俺をよそに、フィリスはそのまま椅子に戻り、食事を再開している。


 とりあえず、フィリスの情緒は安定したが、肝心の俺はノープランだ。

 フィリスがこの国で生きる為に、俺は破壊神として王に会わなければならない。だが、何を言うべきだろうか?

 ただ、いくら国王でも、面白半分で黄金仮面や邪神と呼ばれるものを呼びつけようとするなんて、何とも我が侭じゃあないかね?

 まして、自分の膝元であるパチカデの街の治安すら守りきれていないのに、つまらん事を言い出して。


 それに、魔王と戦うにも勇者の力を借りなければ戦えない癖に、何を威張っているんだろう?

 俺は、まだ見ぬこの国の王に、なんとなく怒りを持ち始めていたのである。

 

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