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骨の勇者は肉が欲しい  作者: 芳井食品(芳井暇人)
骨は敵ではありません!
3/59

裸エプロンは好きですか?

 ◆


 フィリス・デ・ラ・ロッソは、緑の瞳でまじまじと俺を眺め、溜息をついた。きっと、俺の見事な白さに見惚れているのだろう。カルシウム万歳、だ。

 しかし、金の骸骨だと怪しいし、白い骸骨だと、ホントにまんまだな、俺。


「……しかし、不気味じゃのう。そうだ。ちょっとまっておれ……」


 不気味だったようだ。

 フィリスは、青ざめた顔で部屋の外に出て行ってしまった。


 そういえば、ここはどこなのだろう。

 白を基調にして作られた柱が何本も立ち並び、ギリシャかどこかの神殿のようだ。


 あ、神殿か。フィリスは神官だと言っていたし。

 だとすると、彼女の神殿、なのだろうか?


「退屈だな」


 フィリスが戻るまで、俺は自分を改めて観察してみることにした。

 手足はまさにカルシウムの塊だ。

 人の骨ってこうなってるんだなぁ、と、俺はしみじみ思っていた。

 その辺のロボットよりも複雑だよ。

 それにしても、鏡があれば、顔も見れるのに。

 

 しかし、俺のイケメンマスクが全て失われている事を思えば、あまり見たく無いかもしれない。

 俺は、本当に目が無いのか確認する為に、ちょっとだけ眼窩に指を入れてみた。


 うん、空洞、節穴だ。

 

 そこで俺は”はっ”っとした。


 手を、頭蓋の頂上に当てて、左右に動かしてみる。

 良かった……髪の毛はないようだ。


 もしも髪の毛があったら、うっかり「ソウル〇ング」と被る所だった。

「ソウルキ〇グ」か……。

 まあ、学生時代バンドをやっていた事もあって、楽器ならば弾けない事も無い。歌う事にも自信はある。

 暇だし、歌ってみるか……。


「らーらーららー。まーまー! わたしの~おは〇の~ま~えで~なっ、なかっ、ガタガタ!」


「何を不気味なことをしておる!」


 俺が眼窩に指を入れたり、頭を”こりこり”したり、歌を歌ったりしていると、フィリスが服やマントを抱えて現れた。


「これを着ろ。そうすれば人に見えるやも知れぬ」


 俺は、服を言われるがままに着てみた。

 服は、灰色のローブである。一応は神官衣らしいが、灰色なので、なんとも怪しげになっている気がする。


「フードを被って手足を隠せば、何とか……」


「そう?」


 やっぱり、何か魔法を使いそうな、不死の魔物になった気分だ。フィリス、わざとじゃないのか?


「……ふむ、邪悪だのう。ずっと金色ではいられないのか?」


「……」


 俺は、思念体に聞いてみる。確かに、白骨でいるよりは金色の方が、どうにか人に受け入れてもらえそうだ。


【個体、八坂徹やさかとおるの現在のレベルでは、属性反転は一回につき六六六秒となります。再反転が可能になる為には、五〇〇秒の時間が必要です】


 うむ。

 反転する回数に制限は無いようだが、多少の縛りがあるようだった。

 それにしても、俺のレベルってなんだろう。敵と戦えば、経験値でも獲得して上がってゆくものなのだろうか?


【レベルとは、個体による習得技能の総合値です。個体:八坂徹やさかとおるは転移したばかりの為、レベル1となります。ただし、転移前の記憶を継いでいる為、レベル27までの上昇速度が早まります】


「……ずっと金色でいるのは、無理かな」


 俺は思念体の回答を、ざっくりとフェリスに伝えた。


「うむ……困ったのう。では、人前に出るときはフードで顔を隠せ。いや、出来ればあまり人前に出ないでくれるとありがたいが……」


 フィリスが、酷く浮かない顔をしている。

 まあ、気持ちは分からなくも無い。彼女の望んでいたのは、人間の勇者なのだろう。それなのに現れたのは意味不明の骨だ、可哀想に。


 しかし、同情はしないぞ。真なる被害者はこの俺なのだから。


 ◆◆


 あの日から、一年が過ぎた。


 フィリスの神殿は、小高い丘の上にある。

 その丘には他に十の神殿があり、それぞれが護国の為に、勇者召喚の儀式を行っているという。

 

 十の神殿には、十の神が祭られており、フィリスが神官を務める神も当然そのうちの一柱である。

 それは、破壊神ユリウスという名の神であった。


 破壊神ゆえに人々からは人気が無く、為にフィリスの神殿には、フィリス以外の神官がいなかったのだ。

 それが、俺には幸いだったのかもしれない。何しろ、大っぴらに人に見られる機会が、この一年間というもの、訪れなかったのだから。

 

 だが、何故か破壊神の神殿には邪神が住んでいる。などと言う根も葉もない噂が、街では広がっているらしい。フィリスは、最近、随分とその件について悩んでいるようだった。


 空が茜色に染まり、今日も一日が終わろうとしていた。

 この時刻、フィリスは夕の祈りの為に神殿の最深部にいて、俺は、キッチンに立つ。それが、ここ数ヶ月に渡る暗黙の了解であった。俺の神聖さは、一体何処へ消えたのだろう?


 まあいい。今年の初めに仕込んだ味噌も、出来上がっている頃だ。 

 今日は、俺特製味噌汁をフィリスに振舞おう。和食だ。間違いなく、驚くだろう。


 俺は、昆布と魚の骨で出汁ををとった鍋に、自家製味噌を投入して味を見る。

 ちなみに昆布は、夏に俺が海で泳いでいたら、絡み付いてきたものを乾燥させた。

 あの時は、人に見られてとても焦ったものだ。


「白骨死体があがったぞー!」


 などと言われても、あながち間違っていないのだから、始末が悪い。

 転がって逃げたのは、今となっては良い思い出だ。


 おっと、味見をしたら、肋骨の間から汁が床にこぼれてしまった。

 だが、歯と歯の間を通る暖かな味噌汁が、魔力感知を通して俺の意識に伝わると、それが紛れもなく美味いものだと確信できる。


 床など、跡で拭けばいいのだ。

 俺は、味を感じるこの瞬間が好きなのだ。


 俺は今、裸にエプロンだ。

 窓から差し込む夕日を正面に浴びて、俺の影は、”ゆらり”とキッチンを伸びてゆく。

 

 ――生きているって、素晴らしい――

 俺は、この一年、そんな事を実感していた。


「ぎゃあああ! 邪神だああああ! 黄金仮面! 助けてええええ!」


「ん?」


 俺が窓を見ると、子供が二人、顔を覗かせていた。

 ふっ、裸エプロンを見たい気持ちは分かるが、覗きは良くないぜ、ボーイ。そして黄金仮面は、この俺だ。

 俺はニヒルに微笑むと、手にした「おたま」を少年に翳した。

 まあ、唇はない。

 人間には、”カタ”という音が聞こえた程度のものであろう。気持ちが伝わればオーケーなのだ。


「に、逃げろおおおお! ごめんなさいいいいい!」


 ふっ。他愛も無い……。

 俺は、逃げてゆく子供たちに一瞥をくれて、本日のメインディッシュの作成に取り掛かる。

 今日は、羊肉が安かったのだ。ソテーにしようと思う。

 フィリスには、あまり街を出歩くなと言われているが、日々の買い物位は仕方あるまい。それに、俺が買い物に行かないと、フィリスが飢える事になる。

 何しろ、彼女は一人でこの巨大な神殿を運営し、数多の人々の陳情、苦情も受け付けているのだから。

 もっとも、俺は街で多少の人助けをしてしまう事ならば、あった。

 先ほどの少年達も、実は俺が暴漢から助けたのだ。感謝の気持ちで、後でもつけて来たのだろう。困ったものだ。お陰で俺のセクシーな姿も見られてしまった。


 それにしても、破壊神ユリウスというのは、破壊神というだけあって戒律は酷く緩い。

 まず、食べてはいけないものなど、無い。どころか、何でも食べる者に加護が与えられる。

 最も、与えられる加護は、基本的に「破壊力」なので、善良な人はあまり望まない様だ。

 それだけに神殿に訪れる者の大半は犯罪者か、その予備軍。そうでなければ被害者であったり、無力な弱者である。だから必然的に信仰する者は少なく、質も低く悪いのだ。となれば当然に、神官のなり手などいない状況であったのだ。


「フィリス、夕食ができたぞ」


 俺は、神殿の最深部で神に祈りを捧げる美しい女神官に声をかけた。

 

「ああ、すぐに行く」


「先に食べているぞ……」


「……お前はこぼすだけだから食うなと、何度言ったら分かるんだああああ!」


 まったく、フィリスときたら、俺が味を楽しめている事を未だに理解していないらしい。こめかみに青筋まで浮かべて、美人が台無しだ。

 

 ふっ、と鼻でわらい、白亜の神殿にエプロンを投げる俺。

 いつにもましてハードボイルドだが、その理由は決まっている。


「今日は、俺とお前が出会って一年の記念日だ……だから、腕によりをかけたんだぜ……」


「だったら、せめて食わずに待ってろおおお!」


 どうやら、フィリスは照れているようだ。

 それもそうだろう、俺はこの一年で成長した。

 レベルも32になり、破壊神の加護を受け、もはや、そんじょそこらの骨じゃない。乙女が恋焦がれても、仕方が無いことだ……と、思いたい、三十一歳の不死骸骨スケルトンな俺だった。


 【個体名:八坂やさか とおる

    類:闇魔

   種族:不死族

   科目:不死骸骨スケルトン

   信仰:破壊神ユリウス

   称号:食卓の守り手

  主装備:包丁 鍋

   特性:不死 再生 闇属性無効 聖属性防御効果小 剣技強 格闘強 物理攻撃防御中 炎属性防御中 料理上手

   特効:魔力無限 自家製味噌作り 酒醸造 燻製作り 野菜栽培 家畜飼育 

  レベル:32】


 俺は、思念体に頼んで自分のステータスを確認した。

 間違いなく、良い主夫になれると思うんだ……。

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