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濃縮ですか?

 ◆


 俺と敵対する骨は、別次元から来た俺だ。

 正直、「フザケンナ」と言いたい。

 だけど、それはきっと向こうも同じ思いなのだろう。

 さっきから闘っているというのに、


「ダルくねぇ?」


 なんて惚けた事を平気でほざいてくる、魔王であるところの俺。

 もっとも、俺の方はそんな問いかけに答える余裕が無かった。


 アルマはジェシカと切り結び、フィリスはリリスと戦っている。

 ウルフィスはバルバロッサと戦い、サラスはおっさん化したバルアロムと、冷や汗を垂らしつつ戦闘中だ。

 エフリースは、バルバリアにお茶を出されて、恐縮しながら茶を啜っている。


「あ、どうも。私みたいなゴブリンにはお構いなく……」


 うん。地竜神エフリースの心は、どうやら未だゴブリンだった。

 ではなく、確かに広く華麗な謁見の間に、純白のティーテーブルは映えるよ? でも、ここで茶を出すバルバリアにはびっくりだよ。

 お前だけバル三兄弟の中で、異質の不真面目さだ。

 そこにエフリースの生真面目さが加わって、完全におかしな事になっちゃったじゃないか、もう。


「なあ、勇者。俺達も茶でも飲まないか?」


 そう言いながらも、超高速の五連撃を俺に決める魔王トオル。

 俺に余裕が無いのは、この実力差のせいだ。

 正直、俺のクセに、ここまで魔王が強いとは思わなかった。

 まず、魔王の左拳が俺の鼻面にヒット。

 それで仰け反った俺の身体を、魔王の華麗な右足払い。

 左足首を砕かれ倒れた俺に、漆黒の剣が容赦なく十文字に振るわれて、すっぱり斬れる両鎖骨。あばらだって、無事ではない。

 最後は、駄目押しの火魔法で荼毘にふされた。

 

 俺のダメージ的には、鼻骨骨折、左足首粉砕骨折、両鎖骨断裂、からの炭化である。

 死ぬって、マジで。

 いや死んでるけど。


「悪いな、魔王。俺、今、胃袋もってないわぁ」


 それでも、俺は無限の魔力を総動員して粉砕された足を回復させると、宙に舞った。

 炭化は、自動再生で何とかなるレベルだったので、すでに俺の身体は黄金の輝きを取り戻している。

 中空に舞うと、白骨の魔王を見下ろしつつ、俺は神錫を振りかざして、珍しくも呪文を唱えた。


「聖なる刃、今こそ降臨せよ。悪しき者どもを地に伏せ、世に平安を齎したまえ。聖波覇サンタ・オンダ!」


 俺は聖属性最強魔法(思念体に教えてもらった)を、全身全霊で放つ。

 俺の背には後光が刺して、その左右にキューピット的な可愛い天使が降臨、ファンファーレを吹く。

 

 舐めているのか? と、初めて放つ最強魔法に俺は疑念を抱くが、効果は絶大だった。

 次の瞬間、魔王の足元に青白い魔方陣が現われて、清浄な光がその身体を包んだのである。


「グオオオオオオオアッ!」


 勝ったか――?


 だが、油断は出来ない。

 俺は神錫の形状を、自分の使えそうな武器に変わるよう念じた。

 一気に近づいて、とどめをさすためだ。


 が、しかし。


 俺の神錫は、あろう事かバズーカに変わりやがった。

 うん、そうだよね。

 二十一世紀の日本に生きていて、なんか強そうな武器を! なんて念じたら、剣にはならないね。


【……劣化ウラン弾を仕様しています。貫通力も高く、貫通後も焼夷効果も見込めるため、まさに最強の武器です】


 思念体の解説は尤もだ。

 要するに対戦車砲なのだから、魔王でもイケるんじゃないかっていう話だろう。

 でも、劣化ウランて……核ではないですか?

 その後の生活に問題がでるのでは?


【皆、神格を得ています。自然代謝によって、放射能を浄化出来るでしょう。それに、魔王を弱体化するには最適な武器かと】


 うむ。そういう事ならいいだろう。

 ていうか、なんて出鱈目な身体なんだ、みんな。

 まあいい。だったらこのバズーカは、純然たる破壊力。使用を躊躇う事も無い。


 俺は、未だ聖なる光が輝く場所へ向けて、バズーカの照準を合わせた。

 うん、バズーカを肩に乗せる、漆黒のローブを纏った黄金骸骨って、どうなのだろうか?

 ちょっとだけ、あまりのミスマッチに切なくなったが、俺は自分を軍人と言い聞かせ、トリガーを引いた。


 ――ドムンッ!


 勢いよく砲口から火花が散って、真っ直ぐな線を描き、劣化ウランの弾丸が飛ぶ。

 そして再び轟音がなり、火柱が立ち上った。

 

 不思議なもので、骨を貫通した、という確かな手ごたえを感じていた。

 これが、世界と認識を共通させる事により、世界経由で構築された武器を使った感覚なのだろうか。

 それにしても、あっさりと鉄を精製してバズーカを作ったり、ウランを抽出したり、これも魔法かよ。

 あれ? 濃縮したウランから、あえて思念体は劣化ウランを抽出したということか?

 それとも、既にあった鉄を魔力で錬成してバズーカを作り、こちらも何処かに保管してあった劣化ウランを転移させた、ということだろうか?


 ――どちらにしても、俺は閃いてしまった。劣化ウランがあるならば、劣化していないウランもあるはずだ。だったら最悪の場合――


 だが、それもこれで魔王が無傷ならば、の話。

 そもそも貫通時に千二百度を超えたであろう劣化ウランの弾頭は、そのまま炸裂して、魔王を聖なる光もろとも飲み込んだのだ。

 それで無事の筈が――ない。


「フハハハ。火葬だ! 魔王!」


 俺は轟々と燃え盛る火柱を見据え、勝利を宣言した。

 むしろ、これで決まって欲しいという思いからかもしれない。

 だが魔王の魔力に変化は無い。相変わらずの無限だった。

 やはり俺の思いも虚しく、魔王の元気な声が響く。


「ファーハハハ! そんなもので、俺が倒れるか、勇者よ!」


 俺は背筋に悪寒をおぼえた。

 いや、正確には背中にスジなどないから、背骨だが。

 

 ともかく、魔王がズタボロになったローブを翻して、俺の正面に浮いていた。

 そして、大口を開けて笑っているのだ。


 聖属性最強の魔法が効かず、高火力の武器を持ってしても、魔王にかすり傷すらつけられないのか。

 そんな絶望に打ちひしがれながらも、俺は正面を見据えた。

 するとそこには、腹部をごっそりと失った魔王の姿がある。

 腹部を失うということは、骨にとって致命的だ。

 もちろん、内臓や筋肉はもとより無い。

 だから、俺達が指す腹部とは、肋骨の一部と背骨なのだ。

 つまり背骨が切断されると、肉を持たない俺達は、上半身と下半身を分断される。

 だが俺の正面に浮く魔王は、それでも微妙な位置で骨を保ち、再生を続けていた。


(なんだ、劣化ウラン弾は効いていたのか。だったら、完全な核攻撃なら勝てるか? いや、その前に、まだ試せる事もある。

 高温の攻撃よりも低温で攻めてみてもいいか)


【低温には限界があります。また、魔王を凍結させるにしても、ある程度、弱らせなければならないでしょう】


(やっぱり、核攻撃は必須なのか?)


【それも推奨しかねます。個体、八坂 徹に可能な攻撃は、魔王にも可能と考えられます】


(それは、魔王に俺と同じ発想があった場合、だろ?)


【その発想が無いとは、言い切れません】


 煮え切らない思念体だ。

 それもそうだろう。核を使えば、思念体の拠り所である”箱庭”が崩れる恐れさえあるのだから。


「あー、雷帝よ、雷帝よー」


 俺と思念体が会議中だというのに、空気を読まない魔王が魔法を唱える。

 だが、その様は確かに魔王。風格だけなら一人前で、明らかに悪そうだ。

 漆黒のローブをはためかせた骸骨が、中空に浮いて胸元で印を結ぶ。

 漆黒の剣は、いつの間にやら腰の鞘にしまっていた魔王。


「人にして人にあらざるもの、魔にして魔にもあらざるなり。我、願う故に来たれ混沌の風よ。我、願う故放て雷帝の雷――雷光フォルゴーレだっちゃ!」


 魔王の呪文が詠唱されると、突風が俺の全身を包んだ。

 真紅に輝く魔王の眼下は、そこはかとなく恐ろしい。

 しかし、俺にはヤツが何をしているかが分かる。

 今、アルマの胸のサイズを確認したな、このやろう。真面目にやりやがれ。

 しかも「だっちゃ」だと? 絶対に俺と近い世界から来ているに違いない。

 

 ともかく、ヤツはまともな魔法が使えるらしい。多少、詠唱をアレンジするとしても。


【風系最上位呪文です。魔力を防御に集中しましょう。それでも、82パーセントの確立で、個体、八坂徹の肉体は全壊します】


 おい。思念体。

 ほぼ、ぶっ壊れるっていう事ですかい。

 そもそも、魔王にはウランなんて必要ないのかもしれない。

 ただ、呪文を唱えて自然の力を利用するだけで、俺を砕く力があるのだから、そりゃそうだ。

 俺は、それらを加工して、より強力な武器を生み出してから戦わないと、どうやら魔王には手も足も出ない。

 ならば、俺に拒否する権利は無い。ここは防御の一点張りだ。

 今、俺に漲る無限の魔力は防御に回され、骨太になった俺。

 かっこ悪いぞ。


 ――バリバリバリバリ


 俺の八方から雷光が迫り、直撃した。

 つまらない考えなど、一瞬で吹き飛んだ。

 雷の一撃ごとに、俺の関節ははずれ、骨が砕けてゆくのだから当然だ。

 

 まずい。

 このままでは、本当に消炭になる――そして負けちまう。


 周囲を見れば、アルマはジェシカと互角に戦っているし、フィリスはリリスを押しまくっていた。

 ヤッファだって、ガラントとかいう魔槍使いとギリギリだが互角に戦っているのに……俺は……。

 

 俺は、魔王の攻撃に晒されながら、無限の魔力を使って濃縮ウランを生成する。

 防御に徹すれば、或いは、この魔法を凌ぎきれるかもしれない。だが、それでは勝利など到底むりだ。

 だから俺は、一縷の望みをウランに賭けた。

 保管するのは、当然ながら虚数空間だ。

 ウランの濃縮と場所の確保に魔力を使っているため、俺は今、骨粗鬆症気味かもしれない。

 雷光が輝くたびに、砕ける黄金の骨は、いっそ輝いて美しい。

 だが俺の魂が持てば、最強無比の殲滅兵器が完成するはずだ。


「う、ぐぐ。やめろ、魔王。ダルいんだろ?」


「ダルイが、お前を封印しないと、俺の世界制服が成り立たないだろ」


 俺は、ウランを生成しつつも我に返る。

 この戦いでの勝利は、魔王と互角の勢力を保つ事。

 つまり、必ずしも魔王に打ち勝つ必要は無い。

 だが、他の悪魔達は排除しなければならないだろう。

 もしくは、魔王を排除して悪魔達を残すか、だ。

 或いは、この魔王は俺なのだ。ならば、説得も可能かもしれない。


 時間稼ぎの意味も込めて、俺は魔王に語りかけた。


 ◆◆


 俺が俺の不甲斐なさに涙しつつ(涙など出ないが)、ウランを生成しながら魔王の攻撃に耐えていると、それに気がついたヤッファの目が、丸く開かれた。


「トオルさま……いま、助けるから……」


 ヤッファはそう言った気がした。

 だが、俺は雷にその身を打ち砕かれながら、首を二度、振った。


 我に策あり――だ。

 だが、魔王は呪文に集中している為か、その後、何を言っても俺の問いかけに答えない。

 意外と薄情な男だ。


 ヤッファの方は、頷き、再びガラントに向き直った。


 ヤッファは黄金の髪を靡かせながら、相変わらずの短剣でガラントに立ち向かっている。

 いっそ、様々に形を変えるゲイ・ボルグを相手に、単なる短剣でそれ程戦えるヤッファは凄いのだろう。

 サラスが魔法のみで戦い、ウルフィスが肉体のみで戦っているのに対して、ヤッファは二人を合わせたような戦い方だ。

 いっそフィリスやアルマとも通じる戦い方、といえるだろう。

 つまり魔法戦闘、ときに格闘、といった感じだ。


「顔に似合わずやるな! どうだ、俺の女にならないか?」


 ゲイ・ボルグを頭上で二回転させると、槍先をピタリとヤッファに向けたガラントが言う。

 ガラントも金髪碧眼であり、一見するといけ好かないイケメンエルフだ。

 俺に肉と皮が備わり、鼻がちょっとだけ高くて唇が薄く、顔そのものが小さければ、きっとガラントにそっくりだっただろうが、残念ながら今の俺は骨。イケメンのイの字位しか残っていない。


「……ならない。私はトオルさまの女……それに……」


 さすがヤッファだ。

 彼女は、決してぶれない。

 ヤッファの涼やかな顔は、まさにクールビューティー。

 無表情でありながらも、あどけなさの残る流し目が俺を見る。


「それに、なんだ?」


 ガラントが、そんなヤッファに興味をそそられている。


 瞬間――ヤッファは残像を残してガラントの背後に迫り、その首筋を短剣で切り裂いた。

 首の左右を深く斬られたガラントは、しかし、不意に哄笑を始める。


「ハハハハハ! 驚いたぞ!」


 左手を槍から放し、自らの頭を掴むと強引に首を引き抜いたガラント。

 最初の流血こそ凄まじいものだったが、すぐに新たな首が生えてくる。


「……化け物……」


「それは、君もだ! ヤッファ・ドゥーエ! いや、ヤッファ・トレ、か?」


 △になってしまったヤッファの口からは、「おお……」という声が一瞬だが漏れた。

 振り向いたガラントの微笑が、美しかったからではないはずだ。

 その証拠に、ヤッファの頬を流れる汗は、冷たそうだった。

 だが、俺には意味の分からないトコロで、二人に共通する部分があったらしい。


「……あなたも? なの」


「俺はノーヴェだ。ようやくここまで辿り着いた」


 ”スッ”と空中へ移動し、ヤッファから距離をとりつつ髪を掻きあげたガラントは、猜疑の目を向けるヤッファに微笑を向け続けている。

 無造作に放り投げられた古い首は、酷く無念の形相をしているのだが。

 ともかく、リアルアン〇ンマンだ。

 新しい頭になったら、元気が出てきたらしいガラントは、槍を脇に挟み再びヤッファと対峙する。


「暴食、ではないの……?」


 ヤッファは、浮遊するガラントに問いかけた。


「暴食だからさ。世界をどうしたら喰らい尽くせるのか? その答えが、ここにある」


「……そう。だったら……」


 ヤッファとガラントは、その後、空中で激しく刃を交え始めた。

 だが二人は、どうもちょこちょこと会話をしているように見える。

 とはいえ俺も現状、そんなものに意識を集中している場合ではない。現在、雷攻撃絶賛受付中なのだ。


 よく、雷撃を喰らった人は骨が見えるという。

 だが、俺はもとより骨なのだ。

 そんな骨が雷撃を喰らうと、なんと砕けてしまうのである。


 俺は、ヤッファとガラントがこそこそと妙な会話をしている様を見つつも、電撃の衝撃に意識を手放しそうになっていた。


 でも頑張っている。

 かなりのウランが濃縮できた。

 いっそ、箱舟を三回は破壊できる分量だろう。

 だが、七回は破壊できる分量が欲しい。

 だから、もう少し耐えようと思った。

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