眼福ですか?
◆
俺は神の間から浴場へと向かった。
浴場からは、なにやらキャッキャと声が聞こえる。
すりガラスを挟んだ先に、大理石的な輝きを見せる湯船と、八畳くらいの身体を洗う空間があるが、なんて豪華な風呂を作ったのだろうか。
フィリスに感謝だ。
しかし、浴場にいるのはヤッファ、サラス、エフリースの三人。フィリスはいないようだ。
自分で作ったくせに、フィリスは入らないのだろうか?
いやその前に、三人が浴場にいる状態で、俺が入って良いのだろうか?
そんな事を考えつつ、既にローブを脱ぎ、裸になっている俺。
入る気満々である。
「あ……トオルさま……」
「トールさま?」
「破壊神さま!」
三者三様、股間を手ぬぐいで隠して浴場に入った俺に声を掛ける元エルフ達。
約一名、元はダークなエルフだったが、今はそろって竜神だ。
そして、俺が股間を手ぬぐいで隠す意味は、限りなく無い。
湯煙の中、互いの背中を擦りあう元エルフ達は、白い肌が二人、褐色の肌が一人。しかし髪は、金、蒼、黒とカラフル。瞳はヤッファだけが青と、エルフの原型を保っている。
まあ、サラスとエフリースは金色の瞳だから、神々しいというか猫みたいというか、不思議な印象だな。
だが、そんな事はどうでも良い。
何しろ皆、裸なのだ。
皆、少女と称してよい姿かたちだから、肉体はある程度貧相だ。しかし、そこがまた良い。
その中でも、一人サラスだけはちょっと成長しているのだろうか。ヤッファよりも少し大きな胸が、存在感を示している。
エフリースは褐色の肌が妙にエロい。腰が一番くびれているから、成長したら、きっと良いプロポーションになるだろう。ふふふ。
「お、俺も一緒に入ってよいか?」
「……トオルさま……抱いて」
「ん……いーよ!」
「おっ、お背中流します!」
俺は、浴場の入り口で一応聞いてみた。
三人が嫌がるなら、ムリに入っていってもつまらない。
それに今なら湯煙のせいで、あまり彼女達の細部まで見ることは出来ない。だから、欲望を抑えるギリギリのラインが今である。
だが三人の答えは等しく、俺の入浴を認めてくれた様だ。
ヤッファの答えなど、一緒にお風呂に入ることを通り過ぎて、おかしな所に至っている。
しかし非常に残念ながら、俺はヤッファを抱く事が出来ない。何故なら、大切なモノがないからだ。
切なさに打ちひしがれそうになる。
サラスは僅かに思い悩んだようだが、他の二人の反応から反対しなかった様だ。
サラスはもう、俺を男と思っていないんだな。
それはそれで切ない。
エフリース。俺はその反応を待っていた。
背中というか、背骨を洗ってもらいたい。
軟骨がないから、骨と骨の間に魔力を通して潤滑しているのだが、埃が入り込むのだ。
出来れば今日、それを除去したい。
埃のせいで可動範囲が狭まっては、明日の決戦に影響するだろう。
こんな事を考える俺って、どこかプラモデルみたいだな……。
考えていて悲しくなってきた。
◆◆
俺が浴槽に身を沈めると、右半身をヤッファが、左半身をサラスが、下半身をエフリースが丁寧に洗ってくれる。
洗い場で拭いてくれれば良いのに、と思っていたのだが、まあ極楽の上に至福なので文句は無い。
「フハハハハハ」
思わず浴場に響く俺の高笑い。
ヤッファを右手で抱き寄せると、俺の額に唇を近づけたヤッファ。
俺の頭蓋骨に、ヤッファの柔らかい唇が触れた。
左手でサラスを抱き寄せたら、微妙に拒否られた。
やっぱりコイツ、ウルフィスと良い感じなんじゃないだろうか?
俺の支配から抜け出したから、ヤッファと同等の進化を遂げなかったと考えれば辻褄が合う。
それにしても、ヤッファもサラスも白い肌が見事にお湯を弾いて、素晴らしい。
もちろん俺の股間に顔を埋めて腰骨を洗うエフリースだって、最高に良い。
褐色の肌に絡む黒髪がとてもエロティック。
将来、妖艶な女になるとみた!
しかし、せっかくエフリースが俺の股間に顔を埋めているのに、大切な棒がないよ?
俺の大切な棒……。
まあいい。やっぱり切なくなるから余り考えないでおこう。
「なあ、みんな。世界のシステムについて、考えてみたか?」
俺の身体を洗い終えた美少女三人は、それぞれの位置で浴槽に身を浸している。
そんな彼女達に、俺は唐突な質問を投げかけた。
「フォームを吸収した時に……ある程度。システムは……自分を守る為に世界を幾度も作り変えている……んっ」
俺に身を寄せたまま、ヤッファが口を開く。
ほんのりと桜色に染まった頬が、少女なのに色っぽい。
俺は、余りにヤッファが可愛らしかったので、思わず彼女の肩に回していた手を伸ばして、まだ小さな胸に触れた。
ヤッファから、小さなうめき声が漏れる。
うっひゃーーーー!
とは、俺の心の声。
もう、死んでも良い。いや、死んでた。
「あーしはヤッファ程には分からないけど、どの道この世界には崩壊しか無い、っていうところは理解したよ。……でも、だからといって今崩壊したら困るから」
「今……というか、私達という個体がいるこの世界のこと? サラス姉さま」
「そ-ね。ただ、同一個体が生まれる可能性もあるから何とも言えないけど、ね」
俺がヤッファをこちょこちょしていると、サラスとエフリースがブツブツと会話を続けていた。
「わ……私は……三度目……の、個体……はわっ、はわわっ」
ヤッファも会話に参加したかったようだ。しかし俺のつんつん攻撃により、妙な声が出てしまう。
ヤッファ! 可愛いぞ! ヤッファ!
「わ、私にも破壊神のお情けを下さいませ。トオルさま」
ヤッファが恍惚の表情を見せていると、何かを勘違いしたエフリースが俺の左側に寄って来た。
うむ、苦しゅうない。
エフリースを抱き寄せると、俺は彼女の褐色の胸を左手で押し包み、”むにむに”してみる。
うむ。ヤッファよりも確かなさわり心地である。これでアルマがいたら最高だな。
しかし今はこれで良い。右にヤッファ、左にエフリース。死んで悔い無し、今の俺。
サラスは呆れた目つきで俺達を眺めているが、それでも俺の正面にいて裸だ。
目の保養には十分。
ウルフィスに美味しくいただかれる前のサラスを、しっかりとこの目に焼き付けておくとしよう。いや、目は無いが。
――ドガァァン!
その時、浴場の入り口が壊された。
すりガラスだって粉々だ。
「トオルさまぁぁ! 何をしておいでかぁぁ! 笑い声が聞こえるからと来てみればぁぁ!」
バスタオル的な布で胸元あたりまでを隠しつつ、巨大なハンマーを振り回すフィリスがそこには立っていた。
振り向いた俺は、慌てて立ち上がりフィリスに弁解をする。
「ち、違うんだ、フィリス! お、俺は風呂に入りたくて」
「……トオルさま……気持ちよかった……」
浴槽でぐったりするヤッファの視線は、トロンとしている。
それが、フィリスの怒りの炎に油を注ぐ。
「はい。トオルさまの指使い、私、夢を見ているようでした」
エフリースまでもが余計な事を言う。
「あーし、見られただけで気持良かったよ!」
サラス! お前はもはや楽しんでいるだろう!
フェリスの振り上げた巨大ハンマーは、しかし水平に振りぬかれた。
そして分離する俺の上半身と下半身。
見事に腰で上下に分かれてしまった。
達磨落としで叩かれる側の気分がわかった。
しかし、わかったところで嬉しくない。
壁に激突した俺の上半身に、振り下ろされる無常なハンマー。
せっかく綺麗にしてもらった骨々が、無残に砕け散った。
けれど、流石に頭蓋骨は無事だ。
よくハンマーを振りぬいたのに無事だったものだ。あえて残したのか? フィリスは。
残った俺の下半身を、無造作に掴んだフィリス。
やはり縦にハンマーを一閃。下半身も完全に砕かれた俺である。
もう少し敬意を持って扱って欲しい。
そして徐に壺を召喚すると、バラバラになった俺を魔力で集めて壺に入れる。
骨壷ですか? ……ひどいっ!
呆気にとられるヤッファ、サラス、エフリースをひと睨みするフィリス。
「おぬし等、早く眠らぬか! 明日は決戦じゃというのに、このような場で戯れるでないっ!」
「……はい、大神官さま」
「はーい!」
「大神官さま、流石です」
三者三様、怯えた表情を浮かべて浴場を後にする竜神達。
竜神さえも怯ませる戦神の一撃には、破壊神たる俺さえも慄くのだから、仕方ない。
「ねえ、フィリス。俺はどうなるの?」
俺の頭蓋骨だけを抱えて、浴槽に向かうフィリスは、三人を追い払って何処か嬉しそうだった。
「トオルさまは、これから私と一緒に入浴です」
「もう十分入ったしさ、ほら、俺の体、全部壺の中じゃない?」
「本体は此方で御座いましょう?」
そういうと、俺の頭蓋骨を愛しそうに撫でるフィリス。
「ああ、でしたらこうしておきましょう」
フィリスは浴槽を指差し、少しだけ動かした。
すると浴槽のお湯が移動して、俺の骨壷にも湯が満ちた。
うん、ふんわりと暖かい。
そしてフィリスは俺の頭蓋骨を抱えて、ゆっくりと浴槽に身を浸したのだった。




