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システムですか?

 ◆


 黒竜ギアスの話は、俺達に衝撃を与えた。

 もっとも、元々魔王を完全な悪と思っている者は既にいないのだから、いまさら感もある。

 とはいえ、より世界について深く知っているだろうアルマやフィリスは、ギアスの話で《ユグドラシル》に対する疑念を、より深めたようだ。


 と――それは一先ずおいて。


 地竜山の大空洞にフィリスが力を使って家を建てたので、みんなでその中に入る。

 とりあえず、休息は大切だ。休息をとりつつ、思念体を問い詰めてみよう。

 思念体の答えによっては、俺も考えを改める必要があるかも知れない。

 

 それにしても、どうして岩や土だけで、モルタルや煉瓦を使っているかの様な家が出来るのかが思議だ。しかし、あえてそこはフィリスにつっこまない。

 一日だけとは言え、快適に過ごせればそれで良いのだ。


 部屋は、神の間、食堂、広間、各自の寝室が五部屋で計八部屋だ。寝室の数がおかしい。ヤッファとサラスが同室なのだろうか? いや、違うだろう。どうせフィリスは俺と寝る気なのだ。この程度のこと、つっこまない。

 設備としては、風呂があっても、トイレは無い。

 流石にこればかりは、つっこんだら負けだと思いつつも、聞いてしまった。


 俺は建物内を一通り見て回ると、食堂に戻ってフェリスに言った。


「フィリス! トイレがないよ!」


「わ、私の様な美少女は、排便せぬのです!」


 ……美少女が排便とか言うなよ。そして、理由はそれか? 多分、忘れただけだろう。


「そうだとして、アルマとかが困るだろ」


 いや、いっそアルマが困って外でするなら、覗きたい。そう考えると、トイレなんか無くて良いかもしれない。何しろ、俺にも必要ないのだし。

 色々想像したら、ドキがムネムネしてきた。無いけども。


「アルマさまなど、外で野獣の様に用を足せば良いのです」


 丁度、食堂にいたアルマに、フィリスが声を掛ける。

 なんだか、俺もフィリスの意見に賛成したくなってきた。頑張れ、フィリス。


「ガオー! ……い、いや、わたくしは野獣ではないが……まあ、外でして困るものでもないしな。別に構わぬよ」


 そう、実はこの世界にトイレはあんまり無い。

 王宮や太守の館なんかにはきちんと設備があるが、庶民は大体その辺に穴を掘っての垂れ流しだ。

 だから、村や街はけっこう臭い。

 そしてアルマは姫だけれど、勇者でもあり旅をする事になれている。故に、見られなければ平気と考えているらしい。


 フフフ、今日は、アルマが用を足すとき、こっそり後をつけちゃおうかなぁ。

 うん、何者かに彼女が襲われたら危ないからね。フフフ、護衛だよ。


 ていうか、アルマ、今何をした? ボソッと最初に言った言葉……フィリスの冗談に乗ったのか? あのアルマが?

 ……今、少し俯いて赤面している所を見るとそうなのだろう。

 凄く可愛い。

 でも、スルーされて恥ずかしいんだな。


 俺は、そっとアルマの側に行き、肩に手を乗せた。それで余計にアルマは俯いたが、そんな仕草がとてもいじらしい。


「トイレ作ったよー!」


 その時、髪色が蒼へと変わったサラスが入り口を勢いよく開けながら叫んだ。

 

 ……なんだ、と?


 俺が慌てて外に出ると、しっかりとした外観をもつトイレが出来上がっていた。

 公園の公衆便所級の大きさで、なのに神殿っぽい。

 無駄に入り口の柱が凝っていて、螺鈿細工風、とでも言えばよいのだろうか? 様々な色や形の紋様が柱の中に浮かび上がり、とても綺麗だ。

 そして中に入れば滔々と水が流れ、あらゆるものを浄化してゆく。

 所謂、水洗便所だった。


 うむ。サラスは水竜の力をこんな所で惜しげも無く発揮した訳だな。


 直後、俺の後ろにアルマが現われて、嬉しそうな声を上げていた。


「トオル殿! これは凄い! これがトイレだなどと、信じられぬな!」


 言いながら、俺の側に顔を寄せるアルマ。

 笑顔がイイ! 最高だ! トイレを覗こうとしてスマンカッタ!


 それにしても、最近アルマが俺に対して妙に積極的だ。もしかして、本当に俺に気があるのだろうか?

 もしかしてだけど。

 もしかしてだけど。

 俺って本当は、男前なんじゃないの?


 ……しかし、トイレの中に設えられた大きな姿見に映し出された自分の姿をみて、俺はちょっとがっくりした。

 やはり骨が映っていた。これが俺だ。

 真っ黒いローブを着込んだ、不気味な骨。

 男か女かも、これだけではわからない。

 はぁ。


「ト、トオル殿、ちょっと外に出ていてはくれまいか? わ、わたくしは、ここに用事があるのだ」


 俺がトイレをうろついていると、アルマが肩を叩いてきた。

 

 ああ、そうか、そういうことか。


 俺は、軽く右手を上げると、フィリスの作った邸に戻る。


 室内もウィル・オー・ウィスプの光が満たし、暗いという事は無い。

 食堂には既にアルマ以外の全員がいて、目の前に軽い食事を出して夕食の準備をしていた。

 多分、俺が戻るのをまっていたのだろう。

 どうやら俺の席は、上座のようだ。

 俺を頂点にして、右にフィリス、ヤッファ、エフリースと並ぶ。左には、アルマ、サラス、ウルフィスと並ぶようだ。

 俺は、トイレからアルマが戻るのを待って、皆に話しかけた。

 

 ◆◆


「――ヤッファ、サラス、エフリース、ウルフィスはそれぞれドラゴンから新しい力を得たと思うが、把握できているか? それからフィリス、戦神の力の使い方は? アルマは……急に強くなったのは、どうしてだ? 

 最終決戦に向けて、互いの力を理解していた方が良いと思う。丁度良い機会だから、今、話し合っておこう」


 俺は、俺の目の前に置かれた水や干し肉、それから乾燥パンを皆に渡すと、言った。

 この期に及んで無駄な夕食を摂ろうとは、流石の俺も思わない――というより、別に旨くないモノを食べても本当に無駄なので、食べないだけだ。

 俺の手放した食料はフィリスの手を流れ、ヤッファとエフリースに渡った。

 パンをヤッファが、干し肉をエフリースが得る。水は、パンを口に入れすぎたウルフィスが飲み干していた。


「……私の力は、風……だけではなく、大気そのものを操る……だから……」


 ヤッファはそういうと、手の平に載せたパンを圧縮して見せた。

 どうやら、パンの中にある空気を消して、気圧を利用して潰したようだ。

 そして、俺のパンは無駄になった。ヤッファ……食べ物を粗末にしてはいけない。


「――なるほど。俺は火だが――応用すれば、触れるモノの温度を上げることも……あちっ」


 ヤッファに続いて話し始めたのは、ウルフィス。自分の水を熱湯にしている。バカだろう。

 ともかく、どうやら俺が話さなくても、皆は活発に話をする様だ。

 俺は皆の話を聞きながら、内心で思念体を追求する事にした。


(システムっていうのは、何なんだ? 思念体、お前さんがこの世界を守ろうとしていることは理解しているが、そもそも、この世界が何なのか、それを答えてくれないか?)


【それを説明すれば、長くなります。

 今から五億八千年ほど前――西暦と呼ばれていた時代。人類――ホモサピエンスは、自らと似せた生命を生み出す為の実験装置を作りました】


(ご、五億て?)


 俺は気が遠くなる思いがした。やっぱり話を聞く気になれない。ストーップ! 

 俺は、既に話を理解できる気がしなくなっている。なのに、思念体さん改め《ユグドラシル》は、堰を切ったかの様に喋り始めた。

 きっと、誰かに話したかったのだろう。友達の居ないユグドさんだもの、仕方ない。


【実験装置は箱庭と呼ばれ、太陽系第三惑星の同一軌道上に作られました。

 システム全体を維持、制御する自立型人工知能をオーディンと呼び、それを保守、管理するプログラムが私――《ユグドラシル》です。

 《調停者》即ちドラゴンとは、オーディンの防御ガードプログラムであり、私と対になるものでした】


(う、うん。

 え、ええと。つまりここは、人間が作った箱庭で、実験の目的は、新たなる知的生命体の創出、ということか)


 よし、ここまでは付いて行ってるぞ。


【――その通りです。

 人類は国家を統一し、一つの集合体として太陽系を離れ、生存圏を拡張させ続けました。

 しかしその中で、ある時、絶対に不可避のウィルスに侵され、種として存亡の危機に瀕しました。

 だからこそ、自らの遺伝子を元として、それに抗すべき知的生命体の創出をオーディンに託したのです】


(え、ええと。そしたら、託されたオーディンさん、五億年も何をやってたの?)

 

 俺は、ちょっとその自立型人工知能に腹立ちを覚えた。まさか、この人工知能、目的を忘れて五億年も遊んでたとか言わないだろうな。


【――人類の遺伝子には、不可避の災厄が埋め込まれていました。

 それは、ホモサピエンスを元にして生まれたエルフ、ドワーフ、その他全ての霊長類にも内在します。

 ――つまり、種として統一がなされ、一切の外敵がいなくなった時、自らを食い尽くすウィルスが休眠を終えて、その内側から霊長類に牙を剥くのです。

 ――そして、それをオーディンは《深淵》と名づけました】


(分からないぞ。もう、俺にはさっぱり分からない。もう、説明はどうでもいいから、皆の能力の説明を聞きたい。

 とりあえず明日、魔王と戦ってバーン! すれば良いと思うよ、俺は)


【《深淵》の存在に辿り着くのに一億年――しかし、《深淵》なくして人類たり得ず。その事に気付くのにさらに一億年の演算が必要でした。

 だからこそ、防御ガードプログラムたる《調停者》も《深淵》を明確な敵と定義し得ないのです】


(ああ、もう! なんかお前が苦悩してる事は分かった! そして、人類の為にやってる事も分かった! で、あと、残りの三億八千年は何してたんだよ?)


【世界を壊し、作り変え、生み出しては廃棄し、《深淵》を持たない霊長類の存在を追求してきたのです。

 ――結果として、霊長類と《深淵》の分離は成功しましたが、《深淵》は独自に自我を持ち、箱庭内の一部を魔界化しました。

 また、遺伝子を幾ら組み替えようとも、《深淵》を内在させる個体は存在します。

 例えば、フィリス。彼女は、内に強大な《深淵》を抱え込み、為に、オーディンによる強制干渉で切り離されました。

 ご存知の通り、その現象こそが、悪魔と呼ばれる存在を生み出すのです】


(なに? じゃあ、やっぱり《深淵》を倒すしかないじゃないか)


【はい。しかし倒しても、新たな《深淵》が、今の霊長類から生まれるでしょう。

 結局のところ五億八千年をかけても、人類から《深淵》の要素を皆無にする事が出来ないのです。ゆえに、深淵を倒すことさえも、その場しのぎに過ぎないでしょう】


 ――俺は居並ぶ皆の顔を見た。

 ここは、俺が生きた時代から遥か先の未来。

 俺達の遺伝子を操作することで生まれた子孫たち。

 そして、ここは箱庭。


 不意に、俺は理解した。


 何故、俺が念じただけで、転移できたのかも。魔法の理由も。

 これは、魔法じゃない。科学だったんだ。

 そして、並列世界を超えるフィリスの念は、オーディンの演算によって導き出された答えによって、俺をこの場に飛ばしたんだろう。


 だからこそ、俺の答えは限りなく正解に近くなるはずだ。


【個体、八坂徹――貴方のお考えをお聞きしたい】


(フィリスやアルマが本当に俺に救いを求めて、その為の演算を《ユグドラシル》がしたのなら――俺が倒すべきはオーディンで、皆をこの箱庭から解放すること――だ)


【では、私の敵にまわると?】


(お前はさんは、俺の敵になるのか? 思念体、お前さんは、オーディンの管理者だと言った。管理者とは、必ずしも管理する対象に従属している訳ではないだろ。しかも、《調停者》を自分と対を為す者、とも言っている。

 俺の勘が正しければ、オーディンが暴走している! 

 このままでは未来永劫、本物の世界が終わるまで、この世界は繰り返し続ける事になるんだ! それを、自立型なんちゃらが気付かない方がおかしいだろう!)


 ぶっちゃけ、頭脳の無いカラッポの頭では、殆ど全てが勘だった。

 しかし、遺伝子の中に組み込まれた自己崩壊プログラムが人類にあったとして、その除去を最優先させる、という考えはどこかおかしい。


【……もしも、本当に神が存在するのなら、かつてのホモサピエンスも実験体だったのでしょう。ですが、だからといって、箱庭で生み出した生命達を我々がいつまでも同じように扱って良い筈がない。

 私の演算では、ホモサピエンスの内に、自らを崩壊させる様なウィルスは認められませんでした。それは、他ならない、自らを崩壊させた貴方を解析して得た結果です】


(なあ、ユグド。前に俺達に見せた崩壊の映像。あれは、本当なのか)


【真実です。繰り返される世界は、無を基点として再構築されます】


 ふっ……。

 俺は、思念体さんの答えに、とても納得した。

 何がどうあれ、今の俺に選択肢は無いようだ。思念体さんと運命を共にするほか無い。


「――最後に、わたくしの能力だが――トオル殿の予測通り光の神ヴェルキンの力を借りることで、飛躍的に増加する。空も飛べるし、皆と比べて、そう劣るものではないと思う」


 俺が思念体さんとの対話を続けている間にも、皆は互いの能力について語り合っていた。

 実は、俺も適度に相槌をうったりして、会話に参加している。

 なんと俺は、聖徳太子もびっくりするくらいの勢いで、会話が可能なのだ。

 声の志向性さえはっきりさせれば、同時に三人と別箇の話をする事も可能、会話の処理能力もバッチリだ。

 もっとも、それは思念体さんのサポートゆえだから、俺自身が理解するにはタイムラグがあるけれど。


 ま、皆の能力を俺が把握できれば、連携のしようも色々あるというもの。

 明日に備えて、今日は早めに寝る事にしよう。


【個体名:フィリス・デ・ラ・ロッソ

   類:闇

  種族:神族

  科目:戦神

  信仰:トオル

  称号:破壊神の先槍 

 主装備:破壊の錫杖

  特性:不死 魔法攻撃大 直接攻撃大 魔法防御大 全属性防御大

  特効:魔力増大 詠唱破棄 魔力吸収 体力吸収

  レベル:421】


【個体名:アルマ・バルベリーニ

   類:光

  種族:半神

  科目:勇者

  信仰:トオル

  称号:光の勇者 

 主装備:聖剣レーヴァデイン

  特性:光神常時降臨 (光神特性:直接攻撃大 物理防御大 全属性防御大 物理攻撃回避大 再生)

  特効:(光神特効:魔力増大 詠唱短縮)

  レベル:421】


 他は……

 風竜神ヤッファ、レベル409。

 水竜神サラス、レベル242。

 火竜神ウルフィス、レベル196。

 地竜神エフリース、レベル175。


 ああ、何となく、ヤッファだけ姿が変わらなかった理由が分かった気がする。

 そういえば、もとからレベルが高かったから、同化というより完全に吸収したんだろう。


 俺は皆に解散を告げて、神の間に引き上げた。

 

 あれ? そういえばフィリスは風呂を作っていたよな?

 そう思うと、俺は居ても立ってもいられなくなり、浴場へ行く。

 戦の前の骨休めだ。骨だけに。フハハハハ……

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