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属神ですか?

 ◆


 湖の膨大なエネルギーを取り込んだ俺の力は、いつもより溢れんばかりだ。

 というより、俺自身の力が漲る。なんというか、借り物ではないような、そんな感じだ。


 湖上で両腕を広げ、鎧を漆黒のローブに変換すると、黄金に輝く俺の眼窩から、頭蓋骨に溜まっていた水が”ぴゅーっ”と流れ落ちた。


 せっかくかっこ良かったのに、色々台無しだ。水から出るところから、やり直しを要求する。


【やめなさい。遊んでいる場合ではありません】


【個体名:八坂 徹

   類:闇

  種族:神族

  科目:破壊神

  信仰:ユグドラシル

  称号:神王《ユグドラシルの器》  

 従属神:戦神フィリス 風竜神ヤッファ 水竜神サラス 

 主装備:銀の神錫  副装備:魔剣星砕き 東海の鎧 西海の冑 北海の篭手 南海の脛あて

  特性:不死 再生 全属性防御極大 料理上手EX

  特効:魔力無限 自家製味噌作り 酒醸造 燻製作り 野菜栽培 家畜飼育 慈愛EX 協調性

  レベル:526】


 俺の脳裏に、思念体さんからの情報が投影された。

 なんだか、俺、えらいことになった。類は完全に闇になるわ、科目は破壊神になるわ、称号が神王になるわ……レベルにいたっては、一気に500を超えていた。

 ていうか、フィリスも神になってるし。でも、戦神? 破壊神の大神官が戦神って、おかしいぞ。あまりにも凶悪すぎるだろう。


【おかしくはありません。貴方の世界における位階は、我々に次いで、第二位階に上りました。先ほど取り込んだ魔力は、すべて八坂徹、貴方個人に帰属します。また、その力は、従属神を含めれば、私に匹敵しうるものになりました。

 しかしながら敵の力は現在、その貴方と私を足しても、未だ上回っています。これは、敵が魔剣、魔槍、魔杖、魔弓を開放した為だと推測されますが、これはあくまでも想定外の事態であり、故に、早急に黒竜の下へ向かう事を推奨します】


 なるほど、漲り溢れる力は、俺個人のもの、ということか。ということは、これからは属性反転させなくても、かなりの力を行使出来るって事だな。


 だが、それでも魔王には及ばないのか……ていうか、魔剣とかの開放って何だよ? 聞いてないぞ。


【魔剣や魔槍は便宜上、私と敵対する場合、その様に呼称するに過ぎません。我々が使えば、聖剣や聖槍と呼ばれます。

 これらは、かつて別次元から飛来した武器であり、扱う事を禁忌となして魔界に封じたものです。また、これらを扱える悪魔達など、かつては存在し得ませんでした】


 それを使える悪魔達が、魔王の配下になっていた、という事か。


【いいえ。魔王が彼等にその力を与えたのでしょう。フィリスが人の身でありながら、神にまで進化を遂げたように、魔王――もう一人の八坂徹にも、同じ力があると考えられます】


 ――ってさ、そんなんじゃ、もう、勝ち目が無いじゃないか。


【いいえ。此方にはアルマの聖剣があり、《調停者》の協力があります。四柱の竜の力を得られれば、あるいは】


 あるいは、ってレベルね。

 俺は、思念体さんの声が、初めて震えている事に気が付いた。

 これは即ち、この世界――ユグドラシルが崩壊を恐れている、という事に他ならない。そう思えば、かえって冷静になった俺だ。

 何しろ俺は、別の世界からやってきたのだから、元来が他人事である。

 もちろん、そうは言っても最善を尽くすつもりだ。だって、勇者になるつもりでこの世界へきたのだから、当然だろう。


 俺は、地上に降りて項垂れるアズナブイを見つめ、状況を察した。

 俺の従属神にサラスが加わり、そのサラスが、水竜神だったことと、今のサラスの容姿を見れば、一目瞭然である。


「アズナブイ。ええと、サザーラントは、サラスの中、だな?」


「そうだっ! こんな事になるならっ! こんな事になるのならっ!」


 悔しそうに、その身を震わせるアズナブイは、小さな拳を握り締めている。

 

 竜って、意外と器用なんだな、と俺は思ったが、感心している時間も無い。


「アズナブイ、気持ちは分かるが、黒竜の所に案内してくれ。なるべくなら、俺も助けたいと思っているんだが、最悪でも、その力を敵に渡すわけにはいかないだろう」


 目を細めて、怒りを顕にしているアズナブイだが、それでも《調停者》の端くれには違いない。流石に、《ユグドラシル》と《深淵》の戦力差には気付いている様だ。”ぐるる”と、一つ唸ったが、黒竜がいる座標をすぐに教えてくれた。


 俺は周りを見回して、悔しそうに奥歯をかみ締めているウルフィスに目を留めた。


「どうした? すぐに行くぞ?」


「俺は、ここに置いてってくれ。役に立ちそうも無い」


 その言葉に、エフリースの褐色の耳が僅かばかり下がった。

 見れば、ウルフィスの服が一部破れ、血で汚れている。しかし、その下の皮膚を見れば、ドワーフらしい逞しい腹筋が覗いているのだから、傷は完治しているのだろう。


「わ、私も残ります。先ほどの戦いを見て、とてもではないけれど、お力になれない事がわかりましたから……」


 胸の前で手を組んで、モジモジとするエフリースは、元ゴブリンとは思えない程に女らしい。なんて可愛いダークエルフに育ったのだ! と思った俺に、ヤッファのジト目が突き刺さった。

 くう、この小娘、俺の心が読めるのか?


「ウルフィス、我を斬れ」


 その時、足元でアズナブイがぶっきらぼうに言い放った。感情が一切乗らない言葉であった為、皆が言葉の意味を理解するのに、数秒掛かった程だ。


「もう一度言う。我を斬れ、ウルフィス。そして、我の力をその身に纏え。そして、エフリース。そなたは、そなたは……我が妹、黒竜ギアスの力を……受け取れ」


 俺は、小さなアズナブイの瞳に涙を見つけた。

 予想はしていた事だが、アズナブイに言われた座標に意識を向けると、既に、大きな力が弾けた後の様だった。

 残滓として、何かが漂っているのが分かるが、恐らくそれがギアスの残骸だろう。


「ア、アズナブイ? それは、俺にお前を殺せ、と言っているのか?」

 

 ウルフィスの声は、怒気が感じられる。ふざけるな、という言葉が続きそうだった。だが、アズナブイは、微塵も動揺を見せずに言葉を返す。


「そうだ。我は、この姿では役に立たぬ。このままでは、《調停者》としての役目を果たせぬのだ」


「では、なぜ私が黒竜ギアスさまと?」


 エフリースは首を傾げていた。

 別に、アズナブイの件はともかく、ウルフィスとギアスでも良いのでは? と思っている様だ。


「ギアスを、ウルフィスの様なむさ苦しい男に託せるかっ!」


「ブハハハハ!」


 俺はアズナブイの言い分に、思わず笑ってしまった。

 実にもっともな言い分だ。そういう事なら、これ以外の選択肢はないだろう。


「笑うな! それに、我がウルフィスを選ぶ理由は、もう一つあるのだ!」


 ようやく、アズナブイの発言が本気である事を全員が認識した。

 小さなアズナブイは、神々に囲まれて、厳かに言った。


「ウルフィスは、我の為に危険に身を晒し、傷を負った。だが、それを理由にして、我を責める事さえしない。その気高き心に、我は感服した。故に《調停者》として、ウルフィスに力を授ける事にしたのだ」


「アズナブイ……オマエが暴走してたから封印したんだぞ。そのクセ、よく偉そうに、そんな事が言えるな」


 アズナブイの熱弁を、俺は冷ややかに打ち破った。

 小さな竜の赤い頭をコツコツと叩きながらも、俺は少しだけ悲しかった。

 なんだかんだ、俺はアズナブイをペットの様に思っていたのだ。いざ、居なくなると思うと、切ない。


「や、やかましい! これ以外、魔王を打ち倒す手があるのか?」


「ない、な」


 思念体さんも、それが最良の選択だと太鼓判を押している。

 もしも、アズナブイが暴走して力を求めず、共に魔王と戦ってくれていたらと思うと、俺のカラッポ眼が熱くなる。


「だ、だが、俺がアズナブイを斬るなど……」


「ウルフィス、やれ! お前に、アズナブイは斬られたいんだよ!」


 理由を聞き、それでも躊躇うウルフィスを、俺は一喝した。

 俺は、アズナブイに背を向け、ウルフィスに全てを託す。

 皆もそれに習い、全員がウルフィスとアズナブイから背を向けた。


 暫くすると、ぬかるんだ大地を力強く踏みしめる音が聞こえた。それから斧と肉、骨がぶつかる嫌な音が響く。

 悲鳴は聞こえなかった。

 それから、辺りは荘厳な気配に包まれて、大きな力が弾け、一つ所に集まった。


 ――終わった。


 皆がそう感じて振り返ると、燃えるような赤毛に変わったウルフィスが立っていた。

 背丈も、ドワーフとはいえない程に高くなっている。俺と同じ位だから、アルマよりも高いという事だ。

 鎧も、アズナブイの力で再構築でもしたのだろう。これも同じく真紅の輝きを放つ、全身鎧に変わっていた。

 右手に下げた黄金色の斧が、刃先に血を滴らせていたが、それが多分、唯一アズナブイの残骸だろう。ウルフィスが頭上で斧を一振りすると、それも霧の様に消えた。


「……ウルブイ?」


「ウルフィスだ! 俺だけ変な名前にしないでくれ! トオル様!」


 俺は、この男を何と呼べば良いのか分からなかったので、とりあえず新たな名を付けた。ウルフィスとアズナブイがくっついたのだから、これで良いだろうと思ったのだ。しかし、俺の好意をウルフィスは断固拒否したのである。つれないヤツだ。

 それにしても、アズナブイとウルフィスがくっついてイケメンになるなんて、ちょっとズルい、と思った俺だった。


 もちろん俺の属神に”火竜神ウルフィス”が加わっていた。


 そして俺達は、最後の竜が待つ地へと向かう。

 もっとも、そこで待つものは、既に竜の魂だけである。

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