表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/59

アルマ・バルベリーニの手記(4-1)

 ◆


 わたくしは、フィリスとリリスの戦いに見惚れていた。

 わたくしは、勇者であるまえに騎士である。そのわたくしをして、フィリスの戦いは美しかった。

 破壊と再生を繰り返す戦いは、間違いなく消耗戦なのだが、それが何だというのだ。戦いとは、そもそも双方が消耗する事で成り立つのだから、削り削られる力が強大であればあるほど美しいのだ。


 ましてや一騎打ちである。わたくしが目を奪われるに十分な戦いだ。にも拘らず、黒髪の悪魔がフィリスの背後から迫った。それは、あまつさえ大剣を携えた、騎士のいでたちをした悪魔である。


 ――不遜だろう。


 わたくしは、フィリスを守るという大義名分を怒りに置き換えて、ジェシカという名の悪魔の剣を弾いた。


 しかし、悪魔の力は強く、剣速こそ互角であったものの、すぐにわたくしは追い詰められた。


 トオル殿の見ている前で、わたくしは三合しか打ち合えず、剣を取り落としてしまった。


 ――無様だった。


 正直、わたくしは、いっそのこと悪魔に止めを刺してもらいたいとさえ願った。

 だが、トオル殿がすぐにわたくしとジェシカの間に割って入り、わたくしは一命を取り留めたのである。


【アルマよぉ。そろそろ限界じゃねぇか?】


 雪の中で項垂れるわたくしに、内面から問いかけてきたものは、ヴェルキンだった。

 光の神と呼ばれ、かつて闇の神ユリウスと戦い、互いを封印しあったという。

 その人物像は、豪放磊落で勝手気ままな性格、加えて女癖も悪かったというから、何故、このような男が光の神なのか? と、かつてのわたくしは悩んだものだった。

 

 しかし、今にして思えば、光だからこそ、何者にも束縛されない自由さが必要だったのだ。

 

(ヴェルキン……もはや、わたくしは貴方に縋るしか無いのか)


 リリスと戦うフィリスを視界に納め、ジェシカを抑えるトオル殿を眺めやり、わたくしは内心に呟いていた。


 それにしても、普段はわたくしの深層下に眠っているはずのヴェルキンが、これほどまでに表層に現われるとは、どうしたことであろうか?

 わたくしは、ヤッファに抱えられながらも、疑念に首を傾げる。


【ユリウスの野郎が、消えたんだよ】


 ユリウスが、消えた?


 わたくしは、内面に対して強く疑念を抱いた。

 破壊神――或いは闇の神ユリウスと言えば、ヴェルキンを封印していた存在だ。そして、それはトオル殿を加護していたはずでは――?


【簡単な事だな。破壊神として――つまり、闇の神として、トオルの力が上回った。つまり、破壊神トオルに、ユリウスは喰われたって事だ。

 だから、今の俺様は、俺様の意思であんたの身体を奪う事も出来るんだが――】


 わたくしは、ヴェルキンの説明に、背筋が冷えた。

 ユリウスもヴェルキンも、元は人間の身でありながら、神格――フィリスの様な半神ではなく、純粋な神の格を与えられた程の者である。

 そのユリウスをトオル殿が取り込んだ、という事ならば、今のトオル殿はどれ程の神格を持つというのだろうか?

 いや、分かっている。


 ――主神級――


 だが、その力を持ってしても、魔王には未だ及ばないという。


(ヴェルキン――貴方がわたくしの身体を支配すれば、悪魔共に勝てるか?)


 わたくしは、光の粒子となった白竜フォームがヤッファを選んでいる姿を見つつ、ヴェルキンに問うた。


【さあ、な。確かにユリウスの封印が消えた今、かつての力を取り戻してはいるだろう。

 が、俺の力は、どうもトオルってヤツには到底及ばんなぁ。ヤツの属神のフィリスってヤツと同じく位か……。

 にしても、だ。フィリスってのはすげぇな。半神デミゴッドの中じゃ最強だろうぜ】


(で、では……!)


【慌てるな。取引といこうじゃねぇか。アルマ、てめぇは、悪魔共と戦いてぇんだろう? 反面、俺はそんなこと、知ったこっちゃねぇ。が、最後の封印であるこの身体――アルマ、てめぇの事だが。これを奪っても、所詮は女の身体だ。これは確かに強えぇが、これじゃあ、俺が女を楽しめねぇ】


(何が言いたいのだ?)


【つまり、俺の力をお前に貸してやるって事だ。その代わり、この戦いが終わったら、お前の身体から俺を解放しろ! ……俺は男に戻りてぇ。

 嫌とは言わせねぇぞ。これは、てめぇに出来なくても、トオルって神なら造作もねぇ事だろうからな】


(ま、まて。力を貸してくれるというのは有り難いが、わたくしの頼みを、トオル殿が簡単に飲んでくれるだろうか?)


【飲むさ。トオルって神は、てめぇの身体を相当に気に入ってるぜ! 色仕掛けでも何でもすりゃあ、簡単だ!】


(ば、馬鹿なっ!)


 わたくしは、顔から湯気が出るほどに赤面したと思う。

 トオル殿がわたくしの身体を気に入っているなどと……

 わたくしは、フィリスの様に華奢な身体ではないし、ヤッファの様に可愛らしくも無い。確かに、国では美しいと持て囃された事もあるが、それは女らしさと同義ではないのだ。

 

 そんなわたくしを、トオル殿が――


【どうする? てめぇに覚悟がねぇなら俺は諦めて、てめぇの身体を勝手に使うぜ?】


(い、いや、分かった。約束する。ヴェルキン、以後、わたくしに力を貸して欲しい)


【了解だ。交渉は成立だな】


 こうしてヴェルキンは、意識の半ばをわたくしと共有した。

 すると、ジェシカに飛ばされた時に痛めた肩も、背中も、嘘の様に痛みが無くなり、身体がとても軽くなった。

 視界も、いや、もはや視界と呼べるモノではなく、全方位の事象が手に取るように分かる様になったのである。


「アルマ、次に行こう」


 ヤッファが白竜の力を取り込み終わると、早々にトオル殿はわたくしに告げた。少し、呆けている様に見えたのかもしれない。

 わたくしは頷き、トオル殿の転移に従った。


 ◆◆


 次は、青竜を説得に行く、という事だった。

 しかし、どうやら悪魔はドラゴンを狙って攻撃をかけてきている様だ。となれば、青竜とて危ういかもしれない。

 そんなわたくしの予測は、当たった。


 トオル殿と共に転移を終えると、そこは既に青竜サザーラントと悪魔達の戦場だった。

 巨大な湖上を舞台に、巨大な青い竜と、金髪碧眼の美しい悪魔が戦っている。

 その様を見たトオル殿は、すぐさまサザーラントに加勢する為に飛んだ。

 しかしそれを抑える為、トオル殿の目の前にバルバロッサが現われたのである。


 わたくしは、歓喜した。


 今、わたくしは内心に問いかける。


(早速だが、ヴェルキン、力を貸して欲しい)


【ああ、てめぇのヤル気ってのが、ビンビン伝わってきてるぜぇ! いっちょ、やってやれやぁ!】


 力が溢れてくる様だった。

 わたくしは、人馬の姿をしたバルバロッサに向けて歩みを進め、聖剣レーヴァデインを抜き放つ。

 今ならば、聖剣を聖剣として扱える気がした。

 

「長くは持たん。が、わたくしが持たせている間に、青竜を助けてくれると有り難い」


 わたくしは、バルバロッサに足止めをされているトオル殿に声を掛けた。

 そもそも、サザーラントに加勢するに当たって、彼はわたくしの名を呼ばなかった。

 彼にとって、既にわたくしは横に並ぶ資格が無いという事らしい。それは、先ほどの失態を思えば、当然の判断だろう。

 だから、わたくしは今、戦い、バルバロッサを破らねばならない。

 そうでなければ、トオル殿は再び、わたくしに背中を預けてくれないだろうから。


【おいおい、てめぇ。変な女だとは思ってたが、骨に欲情してやがんのか?】


(なっ! なっ! よ、よ、欲情などではないっ!)


 わたくしは、全力で踏み込み、剣を横になぎ払った。

 バルバロッサは後方に飛び、わたくしの剣先をかわしたつもりだった様だが、そうはいかない。


 聖剣は、空をも断つ。


 バルバロッサの鎧は砕け、その胸からは鮮血が迸った。

 

「ふむ。魔にその身を落としても、血は未だ赤い様だな……」


 わたくしは、内心の言葉に赤面しつつ、眼前の敵を見据える。

 剣先をバルバロッサの巨体に据えて、わたくしはもう一度、駆けた。

  

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ