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骨の勇者は肉が欲しい  作者: 芳井食品(芳井暇人)
神様多忙につき……!
24/59

アルマ・バルベリーニの手記(3-2)

 ◆


 アッシャー山に向かうにつれて深くなる雪は、わたくし達一行にとって、実に迷惑極まる代物であった。

 幸いな事に、トオル殿の分身体とも言える骸骨騎士スカルナイトは食事をしない。故に、持ち運ぶ食料が減り、にも拘らず荷物を持つ人員が一人増える形になったので、アズナブイの元に辿り着くまでの日数が多少延びても、大きな問題には至らなかった。


 食事を摂る必要が無いにも関わらず、肉を咀嚼し、葡萄酒を皮袋に流し込みたがるトオル殿とは随分と違う。まったく、分身体は無口で不気味だが、考えてみれば、此方の方が余程頼もしいのではないか、と思ってしまうな。

 

 とはいえ、山の麓に辿り着くまでに丸三日を要してしまったことは、大きな誤算であった。

 村人達による情報では、火竜アズナブイはアッシャー山の山頂近くにいるという。だが、竜人ドラゴニュートが指定した期間は一週間である。それ以内に村人達は答えを出さねばならないのだ。

 そうするとわたくし達は、少なくともあと三日以内に山を踏破し、アズナブイを打ち倒さなければならないのだから、考えてみれば難儀な事である。


 さて、そうなると火竜アズナブイの居所についてだが、村人から得られた情報は、酷く大雑把なものであったといわざるを得ない。

 何しろ、これ程大きな山だ。一口に山頂と言っても、アズナブイの居所を探すとなれば、それなりに時間を取られるであろう。ゆえにアッシャー山に生い茂る木々、そこに宿る木霊に、エルフであるヤッファがアズナブイの詳しい居所を聞いてくれた。


「……火竜……どこ?」


 一本の古木、その太い幹にヤッファが触れ、声を発した時、”ざわ”と針葉樹の葉が揺れた時は驚いたが、サラスが笑顔で状況を説明をしてくれたから、わたくしは飛び上がらずに済んだのだ。


「今、木霊が場所を教えてくれているよ! アズナブイは俺たちもキライだー! って言ってるねー」


「アズナブイ、大きな穴にいる……濃い煙がある……火口付近……私……案内する」


 ヤッファの説明は大雑把過ぎて良くわからなかったが、本人は場所を正確に理解したようだ。それならば問題はなかろう。


 その後、”ずんずん”と雪の中を歩き、崖とも思える程の断崖さえ上ってゆくヤッファ。まるで後続の事を考えていない歩みっぷりだが、サラスはもちろんの事、もっとも鈍重そうに思えたウルフィスさえ苦もなく付いて行けるようである。

 わたくしは、このパーティーは、やはり本物だと確信した。


 ちなみに、トオル殿の分身体などは、パーティー中最も重装備であるにも関わらず、山を登り始めたとたん、宙に浮き始めた。

 しかも、パーティー全員の荷物を持ってくれる程に優しい。もう、この骸骨騎士スカルナイトこそがトオル殿で良いではないか、と、わたくしが思い始めたとしても、当然であろう。


 もっとも、わたくし達の中で最もトオル殿を信奉しているヤッファに言わせれば、


「……これは、トオルさまの器……思し召しは感じるけれど……決してトオルさまではない……」


 という事らしい。


 一応「ご神体の一部」ということで、ヤッファ、サラス共に敬意を持って接しているようだが、あくまでも「物」として見ているようだった。


 ウルフィスの方はもっと単純で、日々、朝晩と骸骨騎士スカルナイトを拝んでいる。

 なんでも、骸骨を見ると心安らかになるそうだ。

 破壊神の信徒というものは、どうにもわたくしの理解を超えていた。


 ◆◆


 アッシャー山の中腹を越えた辺りから、雪が消え、代わりに煙があちこちから立ち昇っていた。

 煙は硫黄の匂いを伴って、或いは有毒ではないか? とさえわたくしは考えていた。しかし、わたくしの不安は、容易く骸骨騎士スカルナイトに取り払われた。


「硫化水素濃度……0.35PPM。人、及び亜人の生命活動に影響ありません」


 言葉の意味は分からなかったが、トオル殿と同じ能力があるのだとすれば、冑の奥で赤く光った眼窩により、何かを計測したのだろう。


 わたくしは、以前トオル殿に聞いた事がある。


「俺は見ただけで、あらゆるモノを数値化出来る! フハハハハ! 俺に惚れ直しただろ、アルマ?」


 ある時、トオル殿がこんな事を、大威張りでわたくしに語ってくれた。たしか、数値を計測する場合は、眼窩が赤く光る、とも。

 もちろん惚れ直す以前に、わたくしはトオル殿に惚れてすらいないのだが、しかしその言葉は、今、思い出せば、このような場合に、自身の言動を信じさせる為であったとすれば、合点がゆく。


 確かに、わたくしはあの時、激怒した。だから今、印象に残っているのだから。


 そういえば、あの時のトオル殿は、


「よし、今日は特別に、二人の戦闘力を測ろう! アルマは96のFだ! 最高! フィリスは81のB……もっと頑張れ!」


 とも言っていた。あの時はあまり深く考えなかったが、戦闘力というものは、一体何であろうか? わたくしとフィリスの間にそれ程、差があるとも思えないのだが。

 もっとも、示された数字が純然たる強さで、記号が魔力のランクだとすれば、納得もいく。悔しいが、最上をAとするならば、フィリスのBは納得である。

 同時に、人の強さの最大値を100だと考えれば、わたくしは96なのだから、自信を持って良いのかもしれないな。


「ふっ。なんだかんだと言いながら、トオル殿はフィリスに対して、厳しくも優しいのだな」


 トオル殿の真実の思いに近づいたかと思えば、わたくしの心に小さな針が刺さったような痛みが走る。


 __わたくしがフィリスに嫉妬を? そんな、馬鹿な__


 ともかく、わたくし達は、なんとか山頂に到着し、アズナブイが住まうという火口を目前にする事ができた。

 途中、幾度か竜人ドラゴニュートに遭遇したが、身を隠したり、幻惑魔法をヤッファやサラスが使って、見つかる事なく辿りつけたのは重畳であった。


 霧深く、視界の悪い山頂で、ごつごとした岩肌に手を添え、アズナブイの巣穴__火口まで下りる横穴に足を踏み入れた瞬間である。

 巨大な赤い塊が、一瞬にしてわたくし達の頭上を覆っていた。

 その羽ばたきは、辺りの霧を巻き上げ、払い、消し去り、ついで上げた咆哮が、わたくし達の耳を劈く。

 わたくしは、持てる全ての勇気を振り絞り、上空にある一点__真紅のドラゴンを見上げた。すると、咆哮を上げていた大きな口の中央に、太陽のような、輝く光の玉が生まれ、弾けた。


 わたくしの視界はそれで真っ白になり、次に気がついた時には、横穴からの爆風で体を吹き飛ばされていた。

 

 岩場に体を打ち付けてしまったのは不覚だが、ドラゴンとはこれ程のモノであったのか。そう思えば、相手にとって不足はない。

 だが、間違いなくバルバロッサよりも強いであろうドラゴンに、わたくしはどう対抗すべきか考えた。


 結局のところ、やるしかない、と覚悟を決めただけである。生身でアレに勝てるはずがない、ならば、わたくしも「神」を降臨させるまでのこと。


「ア、アルマ殿? 本気でアレと戦うのか?」


 冷や汗を額に貼り付けたウルフィスが、震える声でわたくしに問うてきた。

 さもあろう。いかに金戦斧ゴールデンアックスが強力でも、ウルフィスの鎧は魔獣の皮をなめしただけのもの。先程の攻撃を喰らってしまえば、生きている事さえ出来ないだろう。

 わたくしとて、むろん怖い。多少鎧の強度が上だとしても、焼け石に水、という程度の事である。

 

 だが__

 

「うむ。やらねば人々を救う事が出来ぬゆえ」


 立ち上がると、わたくしは決然とウルフィスに答えた。


「……相手は魔王ではない。わたくしが一人で相手をすることもやぶさかではない。皆が嫌であれば、ここで待つがよいぞ」


 空で咆哮を上げるドラゴンの巣穴を目指して、歩みを進めつつ、わたくしは皆に問うた。


「ハハハ。すまん、アレが倒せないようなら、魔王なんて到底無理だ。さっきの台詞は忘れて欲しい」


 後ろから聞こえるウルフィスの声は、いつもながらの重厚さを取り戻していた。同時に、岩を蹴ってすすむ力強い足音が響く。


「……トオルさまの気配がする……」


「え? あーし、わかんないんだけど?」


 ヤッファには、一切怯えた様子が無かった。ただ、トオル殿を今、ここで感じるとはどういうことであろうか?

 サラスの声は、いつもながらの間延びした調子で、緊張の欠片も無いようだ。

 二人は軽やかにわたくしと肩を並べて、洞窟を進む。


 トオル殿の分身体に至っては、わたくしが先に入ったと思っていた横穴の奥で、既に長剣を抜き放ち、ドラゴンを見上げている。


 わたくしも、骸骨騎士スカルナイトに遅れまいと走り、巨大なドラゴンアズナブイと対峙した。


 だが、その場でわたくしは異様なモノを見た。


 純白の大神官衣を血に染めた、鎖骨から上と右腕が無いフィリスが、横たわっている。

 ”それ”をわたくしがフィリスと認識した理由は、二つある。一つはわたくしの足元に転がっている樫の杖。もう一つは、それの脇にに散っている緑髪の残骸だった。

 わたくしは、フィリスと取り立てて仲が良かった訳でもない。けれど、まさかこのような場所で、このような形で再会する事になろうとは。


 わたくしは、崩れ落ちそうになる膝を、唇をかみ締め、押しつぶされそうになる心で、何とか支えた。

 わたくしの両目から、計らずも涙が零れそうになった、その時である。


 血溜まりの中、フィリスが”もぞもぞ”と動きはじめた。


「だっしゃああああああああ!」


 フィリスの死体が動き、立ち上がった。

 あろうことか、頭と腕が生えている。

 破れた衣服がはだけて乳房が顕になりそうな所を、新しく生えた右腕で隠す辺り、蘇っても一応は乙女なのだろう。しかし、彼女の両目は怒りに燃えて、激しくうなり、ドラゴンを見据えて動かない。


「爬虫類如きが、トオルさまに何をしたあああああ! 貴様、もはや許さぬ! 生まれてきた事を呪いたくなる程の苦痛を与え、殺してやるぞっ! 覚悟するのじゃああ!」


 言うや否や、フィリスの体は黄金の輝きに包まれた。そして、輝きの中で彼女は、純白の衣服に黄金の鎧を纏い、フレアスカートを履いて戦乙女と化してゆく。


 言っている事は酷いが、行った事は凄まじい。それは、紛ごうこと無き神の御業__再生と構築__に他ならないのだ。


「フィリス! 貴女は、神なのか?」


 わたくしは、剣を落とし、膝をおっていた。

 眼前で繰り広げられる奇跡は、わたくしの想像を遥かに凌駕していたのだから、当然だろう。まさか、トオル殿だけではなく、フィリスまでもが神であったとは。


「私はトオルさまの使途にして第一のしもべ、大神官フィリスなり! アルマさま! 基本ですぞっ!」


 しかし、フィリスの答えは、やはりいつものフィリスでしかなく、決してブレることが無かった事を追記しておこう。 

 

「フィリス! 無事だったのかっ! くそう、着替えを見逃したっ!」


 そして、トオル殿の分身体と思われた骸骨騎士スカルナイトが、フェリスを見つめて、大仰な身振りを交えて驚いていた。

 有体に言えば、急に下品になったのだが、どういうことだろうか?

 どちらにしても、ドラゴンと戦うにあたって、頼もしい戦力が揃ったことは間違い無いようである。

 

小説のキーワードに「恋愛」と入れたらダメだろうか……

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