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骨の勇者は肉が欲しい  作者: 芳井食品(芳井暇人)
神様多忙につき……!
20/59

ジューシーですか?

 ◆


 オーガ達は、いとも簡単にゴブリン村の防衛線を突破している。

 ていうか、そもそも村の外周としての柵は、ドラゴンに破壊されていて用を成さない。その上、ゴブリン達は最初から戦意など喪失して、皆、一様に項垂れているのだから、もはやオーガに立ちはだかるのは、俺とフィリスとゴブリーンだけでだった。


「……不死公リッチー、それにダークエルフ……人間? おかしな組み合わせダナ」


 一際背の高いオーガが俺を見下ろして言う。

 

 鬼と言っても、別に角がある訳ではないようだ。

 ただ、その巨体に相応しい槌矛を担いでいる姿は、どちらかと言えば巨人と言った方が正しいだろう。けれど、これがこの世界のオーガ


 武装は槌矛を覗けば、獣の毛皮を身に纏っている程度で、文化の程度はゴブリンよりも多少上といった程度だろうか。

 

「帰れ! さもなくば!」


 俺は意を決して声を発した。

 出来れば、戦いたくないというのが本音である。

 何しろ、あんな槌矛で殴られたら、俺は砕けてしまう自信があるのだ。冗談じゃない。


「さもなくば、ナンダ?」


 くっ。魔物として上位であるこの俺様に向かって、なんて口の聞き方だ!


「さもなくば! 我がしもべ共が貴様等を討つ!」


 イラッとした俺は、背後に控えるフィリスとゴブリーンを肩越しに見る。

 当然ながら彼女達は既に臨戦態勢。

 フィリスは上位の破壊呪文を詠唱中だし、ゴブリーンも剣を抜き放ち、中腰になって身構えていた。準備は万端だ。

 しいていうなら、俺が尻込みしているだけであろう。

 なんで俺の武器は銀の神錫だけなんだ! 力が抜けて仕方がないぞ! 贅沢は言わない。もっと、なんかこう、剣とかが欲しい。カッコよくなりたいんだ!


【魔法戦闘において、剣は不要です。が、欲しければ差し上げましょうか?】


 なんだか思念体さんに溜息をつかれた気がするが、まあ良いや。ていうか、剣があるなら最初からクレ!


 瞬間、俺の身体は眩いばかりの光に包まれた。

 ローブが裂け、俺の白皙の裸体が顕になり、回転する俺の体。蒼い鎧、篭手、脛あて等も身体を覆ってゆき、最後に銀の鞘も輝かしい長剣が、腰のベルトに装着されて完成だ。


 まるで、魔法少女の変身のようだったが、出来上がったフォルムはきっと最高だろう。

 

「ファーハハハ! 無論、貴様の相手は俺がしよう!」


 これだ! 俺は直感的に思っていた。淡い蒼い光を帯びた全身鎧フルプレートメイル! そして、白銀に輝く魔力を帯びた長剣。これこそが、勇者の姿! ついに俺の時代が来たのだ。


 しかし、無常にも振り下ろされる敵の一撃が、俺の脳天を直撃した。


 当然ながら、大海の如き鎧にも、冑にも罅一つ入らない。が、衝撃が俺の骨格に伝わり、足元から砕け散る。


「はうあっ!」


 俺の叫びはゴブリン村エフリースに木霊し、フィリスの怒声が鳴り響いた。


 瞬間、フィリスの頭上から灰色の矢が周囲に放たれ、五十人はいたかと思われるオーガ達の半数近くを打ち倒す。

 さらに、放たれた矢の様に、ゴブリーンが、俺を攻撃した巨大なオーガに斬り込んだ。

 

 だが、ゴブリーンの攻撃は、巨大鬼の背後から現われた二人のオーガに阻まれた。

 逆に左右から刃を浴びせられ、一旦飛び退くゴブリーン。対して、崩れかけの俺。


 フィリスの攻撃に一瞬引き攣った表情を見せた巨大鬼も、自身を守った二人の鬼の活躍に気を良くしたのか、命令する声もどこか陽気である。


「人間の女を囲め! 近づけば敵ではナイ!」


 そう言いながら、フィリスに近づく巨大鬼。

 ゴブリーンも、巨大鬼の側近らしき鬼に囲まれて、フィリスの援護に回れない。


 ふっ……


「属性反転!」


 崩れかけた俺の身体は、一瞬にして再生し、黄金の輝きに満ちる。


 蒼き鎧を纏う黄金の骸骨――それが、俺。


「貴様! 俺に一撃入れた事は賞賛に値する! 名を名乗る事を許そう!」


 俺は、俺の横を走り去ろうとした大鬼に、大仰に問いかける。

 面頬は上がっていて俺の髑髏は、大鬼にも良く見えるであろう。ヤツは、身体を捻り、俺を見つめて絶句している。

 超絶的な俺の回復力と、圧倒的な黄金の威に怯んだのだろう。震える声で、問いに答えていた。


「ド、ドンベエ」


 今度は俺が絶句した。

 ドンベエ……だと? どん兵衛だと!? この世界には蕎麦もうどんも無い。なのに、ドンベエはあるのか……もしも俺に涙があったなら、滂沱の如き勢いで感涙に咽んでいたことだろう。

 俺は大鬼に、親近感を覚えていた。


「い、今なら見逃してやらん事もない。退け……退いてくれ」


 しかし、俺の親愛の情を含んだ声は、どん兵衛、いや、ドンベエには届かなかったようだ。ヤツは槌矛を振り上げて、俺に迫る。

 当然ながら、先ほどの俺は油断していただけだ。

 今回は冷静に剣を抜き放ち、手首を返して槌矛を弾き返す。

 そして踏み込み、ドンベエの喉元に剣先を突きつけた。

 

 造作も無い――所詮は戦闘力三〇〇〇のゴミ――


 だが、こんなオイシイ名前のヤツ……魂を喰らって俺の配下にしなければ……


【個体、八坂徹のレベルを凌ぐ相手に、魂の支配は無効です。敵個体ドンベエのレベルは47です】


 な、なんだと……?


 俺は、思念体さんの言葉に愕然とした。

 戦闘力とレベルはイコールじゃないのか。


【上位種族などは、たとえレベルが1でも下位種族の高レベルの戦闘力を遥かに上回ります。

 個体、八坂徹のケースがこれにあたります。また、個体ヤッファ、サラス、ゴブリーンも同様です】


 なんという事だ。

 ということは、だ。たとえば俺がフィリスの魂を喰らうとか、出来るのかな?


【不可能です。フィリスのレベルは現時点でレベル80です。付け加えるならば、人間の種族限界がレベル100です】


 ふぉおおお。

 俺には、フィリスを大人しくさせる術がないということか!


 俺の悩みが深まっている間にも、ゴブリーンは右のオーガの斧をかわし、左のオーガに踏み込んで剣を突き刺している。

 フィリスはすでに次弾を装填したかのごとく、周囲のオーガ達に狙いを定めていた。


 俺は、未だ躊躇っている。

 そのまま一気に剣で首を切り裂けば、大鬼は首と胴が分断されて、絶命する事は必死である。


 しかし――


 名前が、どん兵衛――ドンベエ――俺には斬れないっ! こんなジューシーな名前のオーガを斬ってはいけないんだ!


 僅かの隙であった。

 ドンベエは巨体を翻し、まさかと思える程の身ごなしでその場を立ち去った。

 むろん、ヤツに付き従うオーガも同様に、次々と村を離脱してゆく。

 しかも、フィリスの矢にやられたオーガも立ち上がり、去ってゆくのだ。なんという生命力だろうか。


 同時に、ゴブリーンはその場に膝をつき、肩で息をし始め、フィリスまでもが玉の汗を浮かべていた。しかも意外な事に、フィリスは肩口に傷を負っている。


 俺の逡巡が生んだ、無様な辛勝であった。


 危なかった。仮にドンベエを倒しても、場合によってはフィリス、ゴブリーンが倒されていた可能性もある。

 大鬼以外の他の個体も、見れば、戦闘力二五〇〇~二八〇〇と、粒揃いのオーガ達であり、馬鹿には出来なかったようだ。

 フィリス、ゴブリーンでも戦闘力ならば四〇〇〇程度。数が相手では苦戦するのも通り。

 仮にゴブリンを援護要員として使っても、彼等は戦闘力五〇程度なのだから、焼け石に水もよいところだろう。

 ならば、俺一人で攻めるべきか……いや、ダメだ。ぼっちは寂しい。

 これは、早急に対策を講じなければならない。


 ◆◆


 再びゴブリン村長宅に戻り、対策を協議する俺たち。


 正直、初戦でオーガを倒し、すぐさまドラゴン退治に出かけようと思っていたのだが、いきなり計算が狂った。

 思念体さんが、【不可能です】と、言っていた事を思い出すと、僅かだが悔やまれる。その通りだった。


 そういえば、俺としては腑に落ちない点がある。


 ドラゴンオーガは同盟を結んでいるというが、それは対等なのか? という点だ。


 村の様子を見ると、先にドラゴンに襲われていた形跡がある。

 ついで、オーガが来た。


 なぜか?


 もしかしたら、オーガドラゴンに脅されているのかもしれない。


 そう考える方が、辻褄が合う気がした。


ドラゴンは、オーガと比べて、どのくらい強いんだ?」


 気になった事を、俺は村長に尋ねる。

 すると、村長は俺の強さにビビリまくっているのか、プルプルと白髭を震わせながら答えた。


「クラベモノニナリマセヌ! ドラゴン、コワイ! トオルサマモ、コワイ!」


 なんで俺まで、とも思ったが、まあ良い。


【たしかに鬼族オーガも、ドラゴンに貢物をしているようです。その為に、この村が襲われています】


 なるほど、思念体さんが確認してくれたようだ。となれば、話は早い。倒すべきはドラゴンだけなのだから。


 とは言え、俺がドラゴンを討伐に行っている間に、オーガに村を襲われたのではたまらない。その対策の方が大事だろうな。あと、俺は一人でドラゴン退治は嫌だ。怖いよりも、寂しい。

 

 そして、喧々諤々たる議論の後(主に俺と思念体さんの)、ついに結論は出たのである。


 ゴブリン戦士二〇人をダークエルフに進化させ、村の防衛に当てる。

 進化させる事で身動きが取れなくなるであろう俺を保護する為に、一週間程、村人も含め、全員で洞窟に避難する。一週間もあれば、俺が全快する計算だった。

 次に、避難した洞窟はフィリスの結界で世界から隔離する。

 俺が回復したら、俺とフィリスでドラゴンを討伐する。

 その間のオーガ対策は、ゴブリーンが指揮するダークエルフに任せる、と。


 おい、なんで俺、身動き取れなくなる前提なんだよ……思念体さん……


 ちなみに、思念体さんによると、ゴブリーンは虚数空間から脱出する為に、二段階ほど種族としてのレベルが上がっている。

 つまり、上位ダークエルフと呼べる存在なのだそうだ。

 だから、普通のゴブリンを普通のダークエルフにする程度ならば、二〇人でもイケる! と思念体さんから保障されたのである。

 

 ただ、フィリスがやたら羨ましがって、


「わたしにも恩寵を!」


 などと五月蝿かったので、仕方なく俺の魂を分け与えたら、けっこうごっそり持っていかれたので、結局、俺が復活するのに十日も要した事は、大変な誤算であった。


 そのせいで、なんとフィリスが半神デミゴッドなった。なんか色々とヤバイ事になってるが、本人が気付いていないので、放っておこう。

 

 まあ、そのお陰で俺も、レベルがかなり上がっていたんだけどね。


【個体名:八坂 徹

    類:闇魔

   種族:不死族

   科目:不死公リッチー

   信仰:破壊神ユリウス

   称号:破壊神トオル

  主装備:銀の神錫  副装備:聖剣星砕き(スタークラッシャー) 東海の鎧 西海の冑 北海の篭手 南海の脛あて

   特性:不死 再生 闇属性無効 聖属性防御効果小 剣技強 格闘強 対物理攻撃防御中 対炎属性防御中 料理上手

   特効:魔力無限 自家製味噌作り 酒醸造 燻製作り 野菜栽培 家畜飼育 思いやり 協調性

  レベル:52】


【個体名:フィリス・デ・ラ・ロッソ

    類:闇聖

   種族:半神族デミゴッド

   科目:破壊神の使途

   信仰:破壊神トオル

   称号:大神官

  主装備:樫の魔法杖 聖者のローブ

   特性:不死 再生 闇属性無効 聖属性無効 格闘強 対物理攻撃防御大 対魔法防御大 料理下手

   特効:破壊神の魔力補助 自己犠牲 献身 自爆 思い込み 

  レベル:80】





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