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骨の勇者は肉が欲しい  作者: 芳井食品(芳井暇人)
勇者さまご一行です!
15/59

勝利ですか?

 ◆

 

「お、追え! この機に乗じて敵を殲滅するのだっ!」


 退き始めた魔軍を眺め、声を嗄らして叫ぶアルマが俺の視界に入った。最初はほっとしていたくせに、勝ちと決まれば強気になるなんて、現金なモンだな。


 俺はゆっくりと地上に下りて、立ち上がったアルマの肩を叩いた。


「不要だ。それに、全力で遣り合えば、こちらもタダでは済まない」


 黄金に輝く俺は、今や荘厳。アルマが俺の言う事を聞かないはずがないのだ。

 それに、今や悲鳴を上げて逃げ去る魔軍を追って、何の得があるというのだろう? 俺たちは勝ったのだ。

 何より、今の俺の口調はカッコイイのだから、アルマはメロメロになるはずだ。


「だが、今叩かねばっ! 奴等が再び体制を整える前にっ!」


 しかし、アルマは血走った瞳で、自らの肩に置かれた俺の腕を振り払う。

 彼女の鎧や頬にも砂埃が付着して、幾度も地を這わされたであろう事が見受けられた。だからこそであろうか、今、という勝機を逃したくない思いが、アルマには強いようだ。

 その思いの強さ故に、身長一八〇センチのナイスガイな俺よりも、本来、僅かに小さいはずのアルマが妙に大きく、俺の眼窩に浮かんでいたのである。


 あれ? 俺、気圧されてね?


「だ、駄目だ。

 俺がこの姿で居られる時間は、そう長くはないのだ。今、迂闊に深追いしても、ドワーフの死体が増えるだけだってばっ! それに、アルマだって守ってあげられないかもしれないよっ!」


「……くっ!」


 俺は、美しくも狂気に歪んだアルマの顔を見据え、後ずさりながらも、こっそりと本音を話す。

 俺の属性反転は、未だ制限時間アリ。永遠に無敵ではないのだ。

 どうやら通常時でもそれなりに強い様だが、あくまでも、それなり。多分、アルマなら、俺を余裕で倒せる程度の力だろう。という事は、追ってみても、俺が通常に戻ってしまえば勝ち目がないのだ。

 だから、俺のこの発言には眉間に不快の皺を寄せながらも、アルマは理解を示すより他なかった。何しろ、俺だけが唯一バルバロッサと戦えるであろう事は、アルマが一番よく解っているはずなのだ。


 フィリスも、慌てて俺の側に駆けつける。

 なぜか”ハァハァ”と荒い息をして、俺を見る目が一段とエロいが、一体どんな精神攻撃を受けたというのだろう? 

 俺に近づくと、両手を広げ、全身で飛び込んでくる姿勢である。アルマは咄嗟に避難したが、俺はこのまま抱きつかれるのだろうか? まあ、別に良いけども。


「やめろ、無礼者っ!」


 浅黒い肌のゴブリーン(ダークエルフ)が、フィリスの面前に立ちはだかる。そして、容赦無く彼女の足を払い、埃に汚れたローブを掴み、背中から地面に押し倒す。

 ゴブリーン、大外刈り一本! 旗があったら上げてみたい程、見事なダークエルフの体術であった。身長体重が恐らく拮抗しているからこその、妙な対決感があったのかもしれない。

 しかし、成長途中に見えるゴブリーンや、ヤッファ、サラスと同じ程度の身長って、フィリス……ちょっと可哀想だな。一五〇センチ位しか無いんじゃなかろうか?

 もちろん、背中から地面に落とされたフィリスは、一瞬息が詰まったらしく、涙目だった。


「くっ……はっ! わ、私は何を? お、おのれ、魔将め! 私に精神攻撃を仕掛けるなどっ!

 ……うう……トオルさま……」


 そう喚きながらも、中空に右腕を彷徨わせるフィリス。

 大神官の威厳とやらは、いったい何処にいったのだろう。とりあえず、俺が、哀れなフィリスに手を差し伸べると、彼女は気絶してしまった。


「……見え透いた嘘……起きて……大神官さま……大体、魔将はもういない……」


 しかし、早速俺の側に現われたヤッファに、容赦の無いツッコミを入れられるフィリス。どうやら、俺の手を離したくなくて気絶したフリをしたらしい。

 もう、フィリスの場合、どこまでが精神攻撃でどこからマトモなのか、さっぱり解らない。

 いや、まさか精神攻撃を食らったせいで、フィリスの妙な箍が外れたとか? あり得る話で怖いぞ……。


「神サマ、おかえりー!」


 サラスが近づいてきた。そして、さり気なく俺の漆黒ローブを掴み、照れ笑いを浮かべている。

 白皙の頬が僅かに桃色に染まって、長い耳が”ぴこぴこ”と動く様が、何とも可愛いらしい。だが、気絶しているフリをしているフィリスの体を、足で”つんつん”するのは良くない事だと、今度教えてあげなければ。


 最後に、丸太の様なドワーフ戦士ウルフィスが、面目無さそうに頭を掻きながら近寄ってきた。

 バルバロッサに手も足も出なかった事が、大分悔しいのだろう。でも気にするな。元からお前には何も期待していないからな、はっはっは。

 だが、茶色い毛皮にも、彫金の鮮やかな銅鎧にも、果ては内側に着込んだ深緑色の衣類にも、黒ずんだ血痕を付けているのだから、多少は労ってやろうかな。


「ウルフィス、俺たちの勝ちだ。頑張ったな」


「……う、うぉぉおおおお! この勝利を、破壊神トオル様に捧げよぉぉおお!」


 僅かの沈黙の後に上げたウルフィスの雄叫びは、ドワーフ達の咆哮を呼び起こし、再度の勝ち鬨となってローンソ山脈を駆け抜けたのである。


 う、うるさい……。


 ◆◆


 その後、ソーンロ山脈北側の麓を奪還したドワーフ達は、洞窟周辺に新たな陣を張って警戒をしている。

 一応、俺たちはこの日、天幕を一つ借りて、この地で休息を取る事にした。

 それは、ドワーフ軍にも俺たちにも、安全を考えればその方が良いだろう、というドワーフ王ライガルの提案でもあったのだから、無下にも出来ないというものだ。


 鎧を外してみれば、アルマもウルフィスも打撲や裂傷が体中にある。いくら治癒魔法を使ったからといって、すぐに完治するものではない。

 まして、アルマに至っては、右腕の骨と鎖骨が折れていたのだから、よくもそれで追撃だ! なんて言えたもんだと関心してしまった。

 

 夕方、完成した天幕に入り、ささやかな夕食に興じていた時の事である。

 鎧を脱ぎ、包帯でぐるぐるになっていたアルマが、レンズ豆のスープを左手で器用に口に運びながら、俺の足元に蹲るダークエルフの少女を見やり、おずおずと口を開いた。


「そ、その……ずっと聞こうと思っていたのだが、その子は一体?」


 食卓の下、俺の座る椅子の横に蹲るゴブリーンは、食器を地面に置き、手づかみで干し肉やパンを食べている。

 俺としても、どう教育したものか? と悩んでいた所なので、アルマの発言は実にありがたいのだ。

 何しろ、今の今まで、皆、見なかったフリをしているというか、視界に入れてもあえて追い出すような素振りを見せていたのだから。


「うむ、ゴブリーンという。俺が名づけた」


「ゴブリーンにございます」


 しゃがみながら、食事を掻き込むゴブリーン。言葉遣いは丁寧になったが、作法などは一切解らないようだ。

 ゴブリン兵の武装をしたダークエルフの少女が、全員の足元で犬の様に食事を取り始めたら、そりゃあ不思議に思うだろう。聞きたくなるアルマの反応が正常だと、俺は思う。


「ゴ、ゴブリンなのか?」


「いや、ダークエルフだ」


「つまり、なんなのだ?」


「だから、ダークエルフのゴブリーンだ」


「意味がわからんぞ!」


 しかし、俺とアルマの会話は、不毛だった。

 だが、事実なのだから、これ以上に答えられる事などあるだろうか。


 それにしても、ゆったりとしたアルマの緋色の着衣の隙間から覗く純白の包帯は、彼女の体をどれ程覆っているのだろうか。同じ白色なのに、俺はアルマの体に纏わりつくことは出来ないのだろうか。


 ア、アルマの包帯になりたい……。


 そう思い、”ハアハア”しながら干し肉を租借していたら、うっかり下に落としてしまった。胃袋の設置を忘れていた様だ、迂闊な俺である。

 最近は、フィリスに全て任せていたからな。

「復活したから、自分でやるよ」なんて言わなければ良かった。


 しかし、それを迅速に拾い、食べるゴブリーン。残飯処理はお手のもの、か。


「まあまあ、トオルさまに間違いなどあろう筈もない。ダークエルフとて、人の眷属。エルフもドワーフも似たようなものじゃ」


「おいこらぁぁあ! そこの大神官ーー!」


「……フィリス……死ね……」


「あ、あーしが、ダークエルフと一緒……」


 盲目的に俺を信じるフィリスは、なんとか俺を弁護しようと口を開いてくれたのだが、ドワーフ戦士に罵声を浴びせられ、ヤッファには頭からスープをかけられ、サラスには干し肉を投げつけられていた。


 なるほど、皆の見て見ぬフリの理由が解ったよ。

 ダークエルフは忌避される種族だった、と。ションボリだよおお!


「何をするんじゃ、ごるぁぁああ!」


 しかし、ブチ切れたのはフィリスである。彼女は食卓を蹴り、食べ物が宙に舞い上がった。そして椅子から即座に飛び退き、大神官の杖を握りしめ、極大の呪文を練り上げようとしている。


 ヤッファは腰から短剣を抜き放ち、神速をもって大神官に走りより、ジト目を向けてフィリスの心臓を一突きする。


 サラスは、スプーンを握り締め、虚空に飛ぶレンズ豆のスープを物欲しげに眺め、そして、器を見事にキャッチした。しかし、中身は既にばら撒かれた後であり、サラスは無念そうな表情を浮かべていた。


 ウルフィスはフィリスが蹴り上げた食卓が顔面に直撃して、赤くなった鼻を擦り、アルマは、痛む鎖骨に顔を顰めつつ、なんとか食料を持って避難に成功していた。


 俺はといえば、椅子に座って身動きも取れず、茫然としてゴブリーンと共に様子を窺うのみ。

 いや、ゴブリーンは茫然としていないな。むしろ、食うのに忙しい感じか。アレか? もう余裕か? 余裕なのか?


 なんだろう。犬を拾って帰ってきたら、家族会議で、「ウチでは飼えません!」と言われている感じなんだけど……。

 唯一賛成してくれたお母さん、娘に心臓刺されてますけど、大丈夫でしょうか?


 しかし、ヤッファに心臓を一突きされたはずのフィリスは、なんとその体がゆらりと揺れて、消えてしまう。恐らく、最初の魔法は分身、そして転移であったのだろう。

 そしてヤッファの背後に立ち、杖で”こつん”と金髪の頭を一つ叩くと、フィリスはこう言った。


「激情に駆られて破壊を行うのは、愚か者じゃ。真の破壊とは、衝動ではなく、真理……しかと心得よ。

 ……何より、破壊神の加護は、人も魔も、万物分け隔てるモノではないないのじゃ。者共、ゆめ忘れぬ様に……」


「はっ……さすが大神官さま……」


「あーし、その、ごめんなさい」


「お、俺も間違っていた。申し訳ない、大神官……」


 完全に激情で動いたはずの大神官が、したり顔で説法している。しかも、結構な説得力があったらしいから、恐ろしい。

 大丈夫だろうか、このカルト教団は……。


 しかし、つぶらな瞳のゴブリーンは、美味しそうに干し肉を咀嚼し、幸せそうな笑顔を浮かべたままであった。


「皆様、よろしくお願い致します」


 改めて挨拶をしたゴブリーンに、皆は視線をやっと正面から向けた。

 その時、誰しもが思ったであろう。

 ゴブリーンは可愛いな、と。


 だから、ゴブリーンは皆に勧められて、やっと椅子に座り、テーブルの上に食器を置いたのである。


 そう、人は解り合えるのだ。だから人は素晴らしい!


 え? ああ、俺は骨ですけど、何か?


 そして、俺はまたしてもレベルが上がった。

 なんだか、今更人間として大切なことを学んでいる気分なんですが……だって、新たな特効スキル【協調性】って、さぁ……どうなのかね?


【個体名:八坂 徹

   類:闇魔

  種族:不死族

  科目:不死公

  信仰:破壊神ユリウス

  称号:破壊神トオル

 主装備:銀の神錫

  特性:不死 再生 闇属性無効 聖属性防御効果小 剣技強 格闘強 物理攻撃防御中 炎属性防御中 料理上手

  特効:魔力無限 自家製味噌作り 酒醸造 燻製作り 野菜栽培 家畜飼育 思いやり 協調性 

  レベル:38】


次話から新章になります。

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