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骨の勇者は肉が欲しい  作者: 芳井食品(芳井暇人)
勇者さまご一行です!
13/59

ペットですか?

 ◆


 俺は常闇の空間で、瞑想するかのように座禅を組んでいる。


 「ZAZEN」それは「和の心」

 そんな事を言う意味は、コレといって無い。


 上下もなく、無限に広がる様に思える闇の中、俺の身体は、ただ漂っているようだ。


 とはいえ、ここは何処だろう? ここも所謂いわゆる異世界なのだろうか? また飛んだのかな、俺。


【ここは、現行世界の虚数空間です。破壊神ユリウスの力の一端かと】


 ほうほう、ユリウスは凄いね。しかし、虚数空間なんて俺は知らんぞ。


【存在を消失させる負の力、その拠り所として、この空間があるのでしょう。存在しても、しない世界。失われているにも関わらず、確かに存在する場所。それが虚数空間です。出ますか? Y/N】


 よく解らないけど、俺はこの世界からも簡単に出られるのか。それなら、もうちょっとアルマ達の戦いを、ここから観察しても良いだろう。

 皆がピンチになったら出て行こう。やっぱりヒーローは登場するタイミングこそ命なのだ。

 頑張れ、バルバロッサ! あれ? 俺、敵を応援しちゃった!


「ヒ、ヒイイ! クライ、クライ、ミエナイ、ミエナイ!」


 俺が再び外の世界に意識を向けようとした時、足元から怯えたような、声にならない叫びが聞こえてきた。


 ふむ。ゴブリンが怯えたように蹲り、暗闇の中を回転している。さっき俺と一緒に吸い込まれたヤツだろう。


「どうした?」


「ヒ、ヒイ!」


 俺は、ゴブリンの脳に直接語りかけた。

 この空間では、本来、音など伝達しないのだ。俺がゴブリンの声を聞き分けられるのも、高度な魔力探知を持つが故のこと。所詮、ゴブリンに同じ事は望めない。


「コ、ココハドコ?」


「虚数空間だ」


「キョスウクウカン?」


 ゴブリンは戸惑っている。それもそうだろう。俺だって虚数空間? 何それ美味しいの? 状態だ。ゴブリン如きに解るなら、俺は人間を辞めてやる。

 あ、人間は既に辞めていた……うわぁぁん。


【ゴブリンが、こちらを認識出来るようにしますか? Y/N】


 うん、そうしてもらおう。思念体さん、結構気が利くよなぁ。


 すると、俺の周囲三メートル四方が白い箱状に広がり、不気味ながらも光のある空間が出来上がった。当然、重力もあり、上下が生まれる。


「オ、オフウ……」


 ゴブリンが、床に落ちて尻餅をつく。


 粗野な皮鎧にボロボロの短剣。使い捨て感丸出しの軟弱兵士、そんな格好をしたゴブリン兵である。

 しかし、ヤツは俺を見ると、奥歯をガチガチと鳴らしながら平伏するではないか。


不死公リッチーサマ! オタスケ、オタスケ、シタ! アリガタキッ!」


 ふむ。俺の身分は魔物の中でも、結構な高位らしいからな。


「ふん」


 俺は、自分に敵意を持たないものに対して、悪戯に攻撃を加える程の戦闘狂ではない。なので、蹲るゴブリンに対し、頷くだけで後は無視をする事に決めた。そんな事より、外の戦いが気になるのだから、当然だろう。

 

 しかし、ゴブリンの方はといえば、俺の動向が一々気になるのか、肩をもみ始めたり、妙にかしずいてみたりと、何とか俺に取り入ろうと必死の様である。

 うん、しかし骨に肩揉みって、ホントにゴブリンって馬鹿なんだね。


 ◆◆


 さて、一方でソーンロ山脈北の麓では、蒼天の下、アルマ率いる勇者一行と、バルバロッサ率いる魔軍の睨み合いが続いているようだ。


「しかし、バルベリーニの小娘が光の勇者などと、まったく世も末だな。フハハハ」


 バルバロッサが、巨体を揺らしながら笑っている。もっとも、愉快そうかと言えばそうでもない。アルマを見る目は血走っていて、ギリギリ理性を保っている感じだ。


「バルバロッサ……魔に身を落としてまで、我等に復讐を望むか?」


「魔に身を落とす、だと? 貴様の父は人でありながら、魔族にも悖る男だったではないか! 目には目を、だ!」


「父は、もうおらぬ。世は、兄が治めている」


「だから忘れよ、とでも言うのか? そんな事は出来ぬ!

 そもそも魔と人は、一体何が違うというのだ? 魔が支配すれば人が虐げられ、人が支配すれば魔が虐げられる、それだけのコト。

 そして、人に虐げられた我が行き着いた先が魔であったのは、至極当然の道理であったのだ」


「魔は、悪を為す! 故に、わたくしは屠るっ!」


「ふん、出来るかな、小娘がっ! 

 ……バルバリア! バルアロマ!」


 なんだなんだ? 一体どういうことだ? アルマは魔将と因縁があるみたいだけど、俺は何も聞いていないぞ?


【アルマ・バルベリーニとウィンメーグ・バルベリーニの父は、かつてナカーシック四王家と呼ばれる家の一つに生まれました。

 四王家とは、バルベリーニ家、バルバロッサ家、バルバリア家、バルアロム家です。

 これらの家が合議を持ってナカーシック王を選出するのが、ナカーシック王国のしきたりでした。

 しかし、先王はウィンメーグが生まれると、どうしても我が子に王位を継がせたい、と考えてしまい……】


 ああ、わかった、思念体さん。

 つまり、他の三王家を断絶に追いやった、って事だろう?


【はい。そして、三王家の当主達は処刑される寸前、魔王によって救い出され、当主達もまた、自らの魂を捧げる事で魔の眷属となり、力を得たのです】


 魔王にナカーシック王国が狙われるのって、むしろ自業自得じゃないか? てか、ドワーフ王が可哀想じゃない? 他人の家の揉め事に巻き込まれちゃった、的な?


【いえ、魔王はそもそも世界の征服、支配を目論んでいます。ですから、遅かれ早かれ、ドワーフの王国も戦いに巻き込まれるでしょう】


 そういうもんかねぇ?

 

 などと、俺が思念体と話しているうちに、戦況が変っている。

 

 バルバロッサの声に応じて、空から二名の魔将が現われた。

 一人は均整の取れたイケメンの魔将。背中に巨大な蝙蝠の羽みたいなのがあるが、それさえ気にしなければ、黒髪赤眼の紳士にしか見えないバルバリア。

 戦場なのにティーカップを持って現われる辺り、気が合いそうだ。俺も今度真似をしようと思う。

 バルアロムの方は、なんと言うか、一〇歳位の女の子だ。宮廷貴族の子供みたいな雰囲気だが、やっぱり蝙蝠みたいな羽がある。

 こっちは日傘みたいなのを持っているが、コレを俺が真似すると、際限なく不気味になるので、却下だ。


 三人の魔将は、一斉にアルマに襲い掛かった。


 バルアロムが手を翳すと、闇の矢がアルマに目掛けて飛び、炸裂する。

 バルバリアは正統派剣士なのだろう。左手のソーサーが盾に変り、ティーカップが長剣に変ってアルマと切り結んでいる。

 バルバロッサは、今のところ腕を組んで見ているだけだが、土煙が立ちこめ始めた周囲を、油断なく睥睨していた。

 そんなバルバロッサに突撃をかましたウルフィスは、見事に指一本で弾き飛ばされていたが、ドンマイ。


 アルマは二人の攻撃を危なげなく捌くと、バルバリアを吹き飛ばして自らはバルバロッサに向けて突撃していた。

 アルマに追いすがろうとするバルバリアの剣を、ヤッファの短剣が弾く。そして同時に背後から切りかかるサラス。

 この同時攻撃は中々に危険だったらしく、バルバリアの白い頬が僅かに青くなった。


「やりますねぇ、お嬢様方」


 しかしそこで、すかさずティータイムに入るバルバリア。

 やっぱり、俺はコイツと気が合うに違いない。


 初撃こそ弾幕を張り損ねたものの、その後はバルアロムの闇の矢に対して、全てを迎撃しつくした、フィリス。漆黒の闇矢を迎撃するのに、灰色の破矢を使っている。どっちが悪そうかっていうと、甲乙つけがたいところだ。


 バルバロッサとアルマの戦いは、一見すると優劣付け難い剣戟の応酬だが、しかし、俺の目は誤魔化せない。アルマは本気を出していないのだ。

 周囲にもしっかりと眼を配り、何かあればサポートする気満々のアルマを見て、俺はなんだか自分が悲しくなった。


 俺……やっぱり、要らない子なんじゃ……。

 登場するタイミングを完全に失った俺を、絶望感が包みこむ。


不死公リッチーサマ、ドウシタ?」


 ゴブリンの声が、そこはかとなく優しく感じられる。


「ふっ、何でもないよ。心配するな」


「ン、シンパイ、ナイ。ケド、ワタシ、シンパイアル。不死公リッチーサマ。タスケテ、ワタシノムラ。オオキナマモノ、デル、コワイ、マオウサマ、オネガイシテモ、タスケテクレナイ。タタカイ、サンカシタノニ」


 ん? こ、このゴブリン、俺に助けを求めているのか……? こんな役立たずな俺に……?


 俺は、危なげなく戦う仲間を感知し、頼もしさを覚えると共に、酷い寂寥感に襲われていた。

 しかし、目の前のゴブリンは、震える手足で俺に縋りつく。

 つぶらな瞳、黒い肌に黒い鼻。僅かばかり尖った耳は、見かたによっては柴犬の様。

 

「村? ふむ……どうしたいんだ?」


「ココカラ、デタイ。タスケテ」


 なんだろう。

 ゴブリン、可愛いよ、ゴブリン……。

 

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