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骨の勇者は肉が欲しい  作者: 芳井食品(芳井暇人)
勇者さまご一行です!
12/59

仲間はずれですか?

 ◆


「苦しゅうない」


 ここ最近で、俺が一番言っている言葉だ。


 先日の件で、国王であるライガルまでが俺に感謝を捧げまくって、せめて俺の身体が治るまでゆっくりして欲しい、と、王城近くの邸を貸してくれたのだから、痛み入る。

 フィリス曰く、これは仮の神殿、なのだそうだ。

 結果として、ウルフィスも追放されているはずなのに、俺たちと同行するということで、未だ王国に身を置く事を許されていた。


 もちろん、ローンソ山脈を北に抜ける通行の許可も貰ってある。しかし、現状では巨大な洞窟のあちこちが戦場となっており、すんなりと通る訳にもいかないのだ。

 しかしドワーフ王が、


「南方に兵を割かなくても良くなった上は、トオルさまの御体が回復するまでに、何としても魔軍から洞窟を奪還致しまする!」


 などと息巻いていたので、きっと大丈夫だろう。


 そんな訳で、暇で身動きの取れない骨神様である所の俺の下に、あらぬ勘違いをした老若男女が集まってしまったという次第である。


 昼間は門扉の外にヤッファとサラスが控え、列を成す戦士や官吏、平民達を吟味してから邸に通す。それから、俺が置かれた部屋の左右にウルフィスとフィリスが並び立ち、通された者の資質を判断するのだ。神官となるか、聖戦士となるかを、である。


 もちろん、そのどちらにも成れない者も当然居るが、それとても大切な信者なのだから、フィリスは厳かに言うのだ。


「神を崇め、称えよ」と。


 そして俺は、平伏する新たな信者に声をかける。


「苦しゅうない……」


 ちなみに、ウルフィスが認定した聖戦士なるものは、王国の戦士との兼任も可能だそうだ。というより、破壊神が聖戦士と認定する事が大事なのであって、聖戦士が仕事になる訳ではないそうだ。しらんがな。

 だが、これに対しても俺はやっぱり「苦しゅうない……」と、言っていた。

 たまに、「励めよ」とか言うと、感激しすぎる性格のドワーフは、戦士団を辞めるとまで言い出すので、大変なのだ。

 結局、一番無難な言葉が「苦しゅうない」という事で、俺の中で落ち着いていた。


 ちなみに夜は、ドワーフ達と大好きな酒盛りに興じて「苦しゅうない」を連発である。

 アルマがひたすら苦笑しているが、しかし驚くべき事に彼女はドワーフ並に酒が強い。ただ、酒癖もそこそこに悪く、


「苦しゅうない、じゃねぇだろぉ、え? このハゲ」


 と、最近、度々俺は絡まれている。ハゲじゃなくて、ホネなんだが。


 さて、時間としては、王と謁見してから四日程がたったのだが、その間、いくらなんでも何も進展が無かった訳ではない。俺の信者が二千人を突破したとか、それだけじゃ意味が無さ過ぎる。別に、布教に来ている訳ではないのだから。

 約束通り俺たちを北の大地に送リ出す為にも、国王を筆頭にポタリア軍は全力で戦い、戦場を洞窟の外へと押し戻しつつあった。しかし、そこで問題が起きているという。

 

「どうせ、狭い出口から出ようとしたドワーフ軍が、大軍に囲まれて逆撃を喰らうんだろ?」


 既に思念体さんから状況を聞いて知っている俺は、まさに神の英知の如く先回りして答えてやった。


「さ、流石、我が主! 御炯眼、恐れ入りまするっ!」


 フィリスが相変わらず俺を褒め称えるが、だからと言って、それで物事が解決する訳でもない。

 という訳で、翌日早朝、アルマ、フィリス、ヤッファ、サラス、ウルフィスが俺の部屋に集まって、打開策を話し合うことになった。


「後一歩の所で洞窟からドワーフ軍が出られない、という事であれば、約束は果たされたも同然だ。

 その先は、わたくしが最大火力で敵を撃滅すれば、問題ないかと考えるが?」


「ふむ。わたしも敵を破壊しつくそうぞ」


「二人は援護で十分だ! 父上から賜った金戦斧ゴールデンアックスがあれば、雑魚共など俺が片付けるっ!」


「……私だけでも……やれる……」


「あーしの敵はー?」


「うむ、決まったな。出撃だ!」


 おかしい。最後の頼みの綱だと思っていたヤッファまで、脳が筋肉に汚染されている。

 アルマなんか、話し合いに来た時点で、完全武装だ。もう、最初から行く気しかなかっただろう? 何が「うむ、決まったな。出撃だ!」だ。話を纏めるのが早すぎるだろうが!


「ちょ、ちょ、ちょおお」


 俺は、せめて作戦が必要だと思って、皆を引き止める事にした。


「どうした、トオル殿? ああ、そうか、まだ身体が完全ではないのだな。大丈夫、心配するな、神の手を煩わせるまでもなかろうよ」


 ふう。凄く良い笑顔をアルマに向けられて、俺は何も言えなくなったよ。

 まあ、俺の身体でまだくっついていない所は、尾てい骨だけなんで、あんまり支障は無いんだが。それでも、そこまで言うのなら、任せてしまおう。危なくなったら、今度こそ属性反転で乗り切ろう。


 ◆◆


 セントラル〇グマ、もとい、ポタリア王城を抜けて、洞窟を歩き、山脈の北へ抜けると、そこは一面の魔物世界でした。


 わーい。


 とでも、喜べると思うかね?


 洞窟の入り口を取り囲む色とりどりの魔族から、素敵な火力を四方からプレゼントされて、洞窟の入り口兼出口が崩れる寸前です。

 だから、あれほど作戦を、と、言おうとしたのに。


「破壊の神よ、正義に仇為す全てを包み呑み込む貪欲な闇となれ! 煉獄暗黒球形陣ダークサイドムーン!」


 フィリスが樫の杖を振るい呪文を唱えると、眼前に巨大な黒い球が現れ、その中にあらゆる攻撃が吸い込まれてゆく。

 ついでにゴブリン的なヤツも吸い込まれているが、まあ、迂闊に突っ込んできた自分を悔い、諦めろ。


 その時、俺は体が宙に浮くのを自覚した。

 ついで、全身を掃除機で吸われる感覚とでも例えれば良いのだろうか? とにかく、漆黒の球体に、強烈な力で俺は吸い寄せられてゆく。

 

「うわああああ!」


 って、なんで俺まで吸い込むんだ! こんな姿だからって、正義に仇為したことは、あんまりないのに! フィリス、あんまりだよ!

 俺は、属性反転を念じたが、右手に持った銀の神錫が妙に重く、力が抜けてしまい、うまく出来なかった。

 一瞬、こんなもの捨てちゃおうと思ったが、そんな事をしたらフィリスが悲しむかな? なんて思いなおして握りっぱなし。俺はバファリンより優しい男。

 

 何より、こんな時こそ慌てない。要は、フィリスにこの魔法を止めてもらえば良いのだから、話は簡単だ。頭脳明晰、勇気凛々たぁこの俺の事だな。ふっ、みんな惚れるぜ?


「フィリスっ! こ、この……」


 フィリスも、流石に俺が吸い込まれるとは思っていなかったのだろう。慌てふためいて、杖を放り出し、背嚢をまさぐっている。ん? 何をしているんだ?


「ト、トオルさまっ! 尾てい骨でございますっ!」


 ええ? それ? ここでそれが来る?


 フィリスは、漆黒の闇に呑み込まれる俺に、小さな骨の欠片を投げてよこしたのだ。

 しいていうなら、あっても無くても困らない骨。人類にとって、尻尾の名残。役立たずの部位。


 闇の中へと吸い込まれつつ、俺は絶望感と共に、お尻に小さな骨を接着した。

 なんだろう。役立たずでも、しっくりくるよ。


 ◆◆◆


 闇の中、遠くで声が聞こえる気がする。

 意識を集中すれば、戦いの様子すら、ありありと感知出来るようだ。

 本来なら、何も見えず、聞こえないであろう空間の中で、俺は仲間たちの戦いを逐一知る事が出来たのである。


「大丈夫! トオルさまには、何か考えがあっての事! 意味もなく闇の世界へなど行くハズがない!」


 フィリスが自信満々で叫んでいる。しかし残念だが、特に意味も無く闇の世界へ来た俺だ。


「トオルさまの魔力……近いけど、遠くに感じる……」


 ヤッファは俺の気配を感じているのか。でも、俺自身が何処にいるのか分からんのだけど。


「ゼエエアアア!」


 アルマは既に敵に切り込んでいる。白銀に輝く剣と鎧を煌かせて、彼女が動くたびに魔物の断末魔があがっているようだ。


「フヌオオオオッ!」


 同時に、ウルフィスも金戦斧ゴールデンアックスを唸らせて突進している。


 暫く見ていると、少人数ながら、何処までも圧倒的な勇者パーティー。背後からはドワーフ軍の援軍も現れて、いとも簡単に戦況をひっくり返してしまったようだ。


「ハーッハッハッハ! 久しぶりだなバルベリーニの小娘!」


 なんだ?

 不思議なヤツが出てきたぞ。

 ウルフィスの三倍はあろうかという体躯を持った、赤毛に赤髭の巨漢だ。身に着けているモノは、漆黒の鎧に、黄色と黒の縞模様の毛皮だ。虎の毛皮だろうか? 怖いから、巨大猫の毛皮と思っておこう。いや、それはそれで可哀想な気が……武器は長大な槍を持っている。


「バルバロッサ……魔へと身を窶してまで……」


 ――バンッ――


 アルマが何かを言い終える前に、大気が弾ける音がした。


 そして奥歯をかみ締め、眉間に皺を寄せるアルマ。

 バルバロッサの放った魔力が巨大な風の塊となって、アルマに直撃したのだ。その証拠に、女勇者の輝く銀髪が、大きく後ろに流れていたのである。


「ふん、光の勇者となったか。流石にやるな! ククク」


 魔将の声は何処までも低く響き、ソーンロ山脈の麓を圧している。

 だが、勇者率いるパーティーは、動じることなく状況を見据え、敵の動きに備えているようだ。


 あれ……もしかして、俺、居なくても……皆で勝てるんじゃないか……?

 俺は空洞の眼から、今日ばかりは何故か、塩辛い水が出るような気がしたのである。

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