思いやり、ですか?
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洞窟が王国ってどうなんだ? なんて思っていた俺は、考えが甘かった。
ぽっかりと開いた入り口から中に入ってゆくと、下へ下へと伸びてゆく洞窟の行き着く先は、まさにジ〇フロント。そこに在るのがドワーフ王国ではなく、ネ〇フ本部の方がしっくりきそうな雰囲気だ。
そこには魔導と錬金術によって生み出された人工的な太陽が中空に輝き、地下の広大な空間を照らし、雲さえ存在する桃源郷が広がっていたのである。
標高六千メートルから一万メートルにも及ぶ程の山脈の地下に、マイナス八千メートル程の空間が広がっている等と、一体誰が想像しましょうか?
俺は虚ろな眼を輝かせて、洞窟を抜けた先を見渡したのだった。
「眼を、その、赤く光らせるのは不気味だから止めてくれんか?」
背嚢から突き出した俺の髑髏に向かって、アルマが申し訳無さそうに言っている。
うっかり俺は眼窩を光らせていたようだ。
これは、数字的なモノを調べるときに出てしまう光線なのだが、傍目から見ると不気味らしい。
ちなみに、魂を喰らう時には蒼く光るそうだ。あと、食べ物を美味しいと感じると黄色く光るが、それは内緒だ。
お酒を浴びている時は、ずっと黄色く光っていたらしい。恥ずかしい限り。
地下空間では、地上と変らず作物が栽培され、家畜が飼われ、街では商売も盛んなよう。
そこに住まう者は大半がドワーフだが、稀に人間もいたりはする。それは多分、日本という国の中に住まう外国人と同じようなモノだろうと俺は推測するが、とにかくも、それで差別されるという事も無いようだ。
洞窟を抜けて斜面を暫く歩くと、石畳の広場に辿り着いた。そこから先は、整備された街路になっていて、しかも親切な事に、王城へと至る距離と道順さえ書かれた標識まであるのだ。それすらも、ドワーフの器用な手先を生かした細工物なのだから、まったく恐れ入る。
俺たちが石畳の広場に到着すると、四頭立ての、黒地に金細工もケバケバしい、まさしく俺好みな車を引いた馬車が現れた。それと同時に、斧を抱えたドワーフ戦士が、ウルフィスの前に進み出て、挨拶をしている。
「ウルフィス様。光の勇者アルマさま御一行を、お迎えに参りました」
「ベアード! 無事だったか!」
ウルフィスは満面の笑みを浮かべ、同僚の身体をバシバシと叩いている。
ベアードの方は少し痛そうな顔をしているが、良いのかな?
「ウルフィス様も、さぞやお疲れでしょう。さ、馬車にお乗り下さい」
「ん? ああ、悪いな」
こうして、俺達は大きく豪華な馬車に乗り、ジオフ〇ント的な空間をセント〇ルドグマみたいな城に向かって進んだのである。
◆◆
地底に広がる空間の中にある岩山。
俺が脳裏に浮かんだ言葉を、そのままにドワーフの王城へ当てはめると、こんな言い方になる。
脳が無いんだから、お前に脳裏など無い、というツッコミは受け付けていないので、諸君、気にするな。黄金〇ットが何処から来るのか解らないのと同じレベルで、俺の脳は何処かに在るのだ。
そんな岩山の内部は、綺麗にくり貫かれて幾つもの部屋があり、尚且つ金銀で彩られ、甚だ華美なものである。
もはや内部は洞窟だなどと思えないほどに洗練されており、行き交うドワーフ貴族達の立ち居振る舞いも優雅なモノなのだから、ナカーシック王国との差異など、人々の身長と胴回りの太さ位ではなかろうか。
そして、俺たちは謁見の間へと通された。
真紅の絨毯の先にある黄金の玉座。
ここも、人の王国と大差ないのであろう。左右には廷臣が並び、置かれた玉座は数段高い位置にある。
「面を上げよ」
跪くアルマ、フィリス、ヤッファ、サラス、更に平伏するウルフィス。
ドワーフの王は白髪に白髭、小さくても頑強そうな体躯を褐色の毛皮で包み、頭上に黄金の冠を載せている。
俺は、フィリスの横に置かれた背嚢から頭だけを出しているのだから、既に面は上がってた。
「そなたが、創造神、光の勇者、とはな」
厳かだが、しゃがれた声のドワーフ王が、アルマに声をかける。
「はい。急ぎ魔物を殲滅せん、と、旅をしております。陛下には、北へと抜ける洞窟の通行許可を頂きたく……」
「ふぉっふぉっふぉっ、率直だの。しかし、そう急くな。まずは、南の魔軍撃退を労わせくれんかね、アルマ姫。折角久しぶりに会ったのだからな」
「はあ、されど……」
ドワーフの王は相好を崩して、鷹揚に手を振りアルマの言を遮った。
「髑髏殿。貴殿は破壊神、と聞いておりますが……の?」
ついで俺を見やり、濁声とも思える低音で俺に声をかける。いっそ、これは威嚇なのか? アルマに見せていた眼光とも声音ともまったく違って、怖いんですが。
「うんむ」
俺は、精一杯背嚢の上で頭を反らして睨み返した。そうだ、ウザかったら魂を喰ってしまおう。俺は無敵だ、びびったら負けだ。
しかし、頭を反らしすぎていっそ見上げたのは、どこかの女海賊と同じかもしれない。
「……ふむ……我が名はライガス。ドワーフの王で御座います。
神よ……此度は我が第二戦士団を救って頂き、まったく感謝の言葉もございませぬ」
「う、うむ? 苦しゅうない、ぞ?」
何だか、礼を言われた。
それにしても、この王様、俺の姿を見ても動じないってのは、中々見所があるんじゃないか?
「破壊神の神官方にも、合わせてお礼申し上げる」
「いや、魔の眷属を破壊したまで。当然の事じゃ」
「……トオルさまの為だから……」
「別にぃ。ドワーフの為じゃないしー」
丁寧に頭を下げるドワーフ王に、神官達の態度はあんまりだ。年長者に対する礼儀とか、そういうもんはないのだろうか。と、自分を棚に上げて考える俺。
「ただ、ドワーフ王。一つ頼みがあるのじゃが……」
「なんですかな? 神官殿」
「大神官じゃ!」
ドワーフ王の間違いを全力で訂正するフィリス。居並ぶ廷臣達の肩が”びくん”と震えていたが、それ程に彼女の声は大音声であったのだ。怒られたドワーフ王の方も、懐から布を取り出し額の汗を拭っている。フィリス、怖い。
「ふ、ふむ。大神官殿」
「うむ。実はこの度、我が破壊神を信仰しようというドワーフ達が多くいるのじゃ」
「その様ですな」
「そこで、神殿を建立して頂きたい。ああ、無論、魔王を討伐した後で構わぬから……」
「ふぉ? ふぉふぁふぁ! なるほど、なるほど。大神官殿は、魔王討伐すら容易いと考えておられる様ですなぁ! 宜しい、その暁には、我が王国に破壊神の神殿を建立致しましょう。
ですが、勇者殿は創造神の使徒……。となれば創造神の神殿も同時に、という事で如何でしょうかな?」
アルマが僅かに思案する様に首を傾げるが、すぐに笑顔を浮かべて了承する。
後で聞いた事だが、ドワーフの王国では創造神も破壊神も同様に、悪神とすら言われ、忌避されているのだそうだ。
「ん……まあ、宜しいでしょう!」
結局、フィリスは鷹揚に頷いていた。
散々、破壊神の大神官なんて他国では石を投げられるー、等と言っていたクセに、現金なモンだ。
「さて……ウルフィス……解っておると思うが……そなたは死罪となる。
……何か言いたい事は、あるか?」
最後にドワーフの王ライガスが声をかけたのは、同じくドワーフのウルフィスである。
その声は冷厳であったが、瞳には僅かに慈愛の色があった。
「全ての責は我に在りますれば、何も言う事など御座いませぬ。一度とはいえ大敗を喫し、数多の将兵を失いましたる罪、元より万死に値しましょう故に。
されど……されど父上……我が部下達には何卒寛大なご処置を……!」
必死で平伏するウルフィス。
おい、父上ってどういうことだ? まさか、お前、王子様でしたーっていうオチか。髭もじゃで王子様とか、全国の女子に謝れ。あらゆる夢が霧散するぞ? まさか、あれか、髭そったらイケメンとか、北斗〇拳を気取ってるヤツか?
「……うむ、良かろう。罪は、他の者に問うまいぞ……」
王の裁断が下る、その瞬間、フィリスが約束通り助命を求め始めた。
「お待ちくだされ、王よ! ウルフィスは、我が破壊神の信徒! 例え王と言えど、その罪を裁くあたわず! 信徒の罪を裁くは、我が神をおいて他は無しっ!」
立ち上がり、右足を前に出して王に嘆願している。いや、嘆願なのか? 嘆願にしては、随分と上から目線ではないか?
「裁くの……トオルさまをおいて……他は無し……王ごときは黙れ……」
「他は無しー! ん? とにかく、ほかーなしー」
エルフ神官二名も、助命嘆願に参加した。というか、一人は命令してるし、一人は状況が解っていないだろう。なんだか、カオスだ。
とにかくこうして、神様髑髏である所の俺に一堂の注目が集まり、発言を求められる事になった。
中でも、救いを求める様な眼が二対。褐色の瞳が四つほどが、俺の空洞眼を見ていたね。どちらも、ドワーフ、よく似ていらっしゃる。
ふう。
「ウルフィスの罪は深い。だが、命を取るまでの事ではない。追放だ。……罪を償いたければ、そうだな、俺たちと一緒に魔王討伐だ。これでいこう!」
いや、もう、分かるって。俺、三十一歳だよ?
子供を殺したい親なんかいない。それは人もドワーフも共通でしょ、きっと。
そして、誰だって基本的には死にたくないはずだ。けれど、罪の意識があるならば、そこから逃れる道だって欲しいと思うモンだろう。でも、当事者達は中々言い出せないものなんだよね。
面倒だから、当人達が望む答えを与えてあげましょう。俺はそう思っただけだった。
「破壊神トオルの命により、第三王子、ウルフィスに申し渡す! 魔王の討伐をもって己が罪を贖え!
そして以後、魔王を討伐いたすまで我が領内に入る事もまかりならん!」
ライガス王は玉座から立ち上がり、大きく宣言していた。その眼からは熱い涙が溢れ、廷臣達からもどよめきの声が上がっている。
ウルフィスの方はといえば、両の手を床に付き、大粒の涙を零しながらも父を見上げていた。
責任は誰かが取らなければいけないとしても、一番悪いのはこの場合、魔王なのだ。ウルフィスが裁かれて死ぬことは無いし、裁いた王が悲しみに囚われる必要もない。
「破壊神殿……これで、宜しいかな?」
「うんむ」
王の問いかけに、俺は当然の如く、首を縦に振ったのである。
【個体、八坂徹はレベルが上がり、35になりました】
【個体名:八坂 徹
類:闇魔
種族:不死族
科目:不死公
信仰:破壊神ユリウス
称号:破壊神トオル
主装備:銀の神錫
特性:不死 再生 闇属性無効 聖属性防御効果小 剣技強 格闘強 物理攻撃防御中 炎属性防御中 料理上手
特効:魔力無限 自家製味噌作り 酒醸造 燻製作り 野菜栽培 家畜飼育 思いやり
レベル:35】
国王と廷臣一堂、そしてウルフィスが大声で泣いているのを尻目に、俺のレベルが上がっていた。
そして得た特効は「思いやり」……。
ちょっと、俺、今まで思いやりが無かったみたいじゃない? どうなの、ねえ、どうなの思念体さん!
え? エヴァ? な、なんの事ですか?




