誓い
場面は司が部屋に入ってきたタイミングに戻ります。
あー。あー。テステス。こちら東海林 優です。応答願えますでしょうか?
現在、現場は非常に困難な状況です。救援を要請します。
・・・・・・・・・
応答はない。おそらく神は死んだ。ニ⚪︎チェは正しい。
司お姉様?眉間に皺を寄っていらっしゃいますが?綺麗な顔が勿体無いですよ?
司は飲み物でも取りに来たみたいだ。なんだか不機嫌そうに冷蔵庫をあけて、大きい音を立てて閉めた。
何も言われないのが逆に怖い。南の圧力に負けていない。
俺は、機嫌を伺うように司を目で追いかける。しかし、司は一切こちらを見ずにリビングを出た。
バタンッ!
すごく強くドアを閉めた。
俺は知っている。前世の姉もそうだった。機嫌が悪くなると露骨に口数が減り、動作がうるさくなる。
大抵はなぜ機嫌が悪くなっているかわからない。原因が俺じゃないこともある。
しかし、今回の原因は間違いなく俺である。いや、本当は酔っ払いのせいなのだが。
可能なら弁明したい。が、無理だ。なぜなら、初対面だから!
南はドアが閉まる大きな音を聞いて、俺の首にまわしていた腕を解いて顔を上げた。
「司?まあ、前の優だったらありえなかったからね〜笑」
お酒も入り、機嫌の良い南は司を追いかけるようにリビングを出た。
おそらく司のもとに行ったのだろう。(願望)
ちなみに母さんの耳には何も届いていなかったようだ。
もう俺にできることは母さんの抱き枕になり続けるくらいなものだ。(諦)
5分ほどすると南が戻ってきて、元いた椅子に再び腰掛ける。
「ど、どうだった?」
「ん?何が〜?笑」
「怒ってました?」
「しらな〜い笑 私トイレに行っただけよ?笑 気になるなら、聞いてきたらいいじゃない笑」
っく。何わろとんねん。聞けないからあんたに聞いたんだよ!わかってるくせに!意地悪!
俺が難しい顔をしていると南はそれを見て嬉しそうに笑っている。お酒がない時は優しかったのに。
すると、南がまた何か思いついた顔をした。
「ふふっ笑 またみー姉って呼ぶなら、手伝ってあげる!笑」
「・・・・・・」『まだ言うか。酒飲みってしつけ〜。』
「ほ〜ら。 みー姉手伝ってって笑」
「・・・・・・・・・・・み、みー姉・・て、手伝ってください。」
「っぐ!・・・・・・ぅふふふふふ♪」
南が何かを喰らったかのような音を出して後、上機嫌に笑っている。
え?笑うだけですか?手伝ってくれるんだよね?大丈夫だよね?
「そんなに心配しなくても大丈夫よっ!時間が解決するわ!」
はいぃ?返してもらえませんか?俺のみー姉を。俺の勇気を。俺の羞恥心を。
「ね、姉さん手伝ってくれるんだよね?」
「・・・・・なに?きこえないわ?」
「手伝ってくれるんだよね?」
「・・・誰に話しかけてるの?(にやにや)」
「ね、姉さんに」
「ん?だ〜れ?それ(にやにや)」
あ、これは、遊ばれてますわ。手のひらの上で転がされてます。
今後はこの人をみー姉と呼ばなければならないことが確定した。
不本意だ。誠に遺憾である。それは少し言い過ぎか。慣れるしかないのか。
あー!もうっ!やってやりますよ!家族とギクシャクしたままでは嫌ですからね!
俺も男だ!!手のひらの上でブレイクダンスでもなんでもやってやりますよ!
そのまましばらく酒飲みのつまみにされる。
南ことみー姉は、俺がみー姉と呼ばないと会話が成立しなくなってしまった。
手伝うと言ったくせに、司の様子を見に行く気配もなく、ただただ楽しそうに酒を飲んでいる。
本当に大丈夫なのだろうか。俺の不安は全く晴れていない。逆に、みー姉はすごく晴れやかな顔だ。
気づけば、俺を泣きながら抱きしめていた母さんが静かになっていた。もちろん抱きしめたまま。まるでコアラだ。スースーと寝息を立てて眠っている。
「ママ寝てなかったからね〜。安心したのね。本当に良かった。」
みー姉は頬杖をついて母さんを眺めている。みー姉も安心しているような顔をしている。
お酒を飲むと少し面倒な人だが、母想いの良い姉であるのは間違いないと伝わってくる。
先ほどまでの騒がしさは嘘のように、和やかでゆったりとした時間が流れる。
不思議なもので、俺は異世界に来たにも関わらず、帰ってきたのだと実感する。ここが俺の家であり、居場所なのだと完全に理解できた。すると、なんだか浮ついていた心も落ち着いてくる。
母さんには感謝している。目一杯に愛情を表現してくれたことに。
もし俺を見て、彼女が絶望し、笑顔を見せてくれていなかったらと想像すると、少し怖くなった。
記憶を失う前の俺はもちろんだが、今の俺も間違いなくこの母親に支えられている。
一度死んでいる俺にとって、初対面の母親。それでも、そんなことは関係ない。やはり母は偉大なのだ。
前世の母にできなかった分の親孝行を果たそうと心に誓う。
そんなことを考えていると、俺は無意識に母さんの頭に手が伸びる。
ガラス細工を扱うように、誤って壊してしまわないように、母さんの髪を撫でる。
それを見たみー姉は、柔らかな表情はそのままに、少し声のトーンが落として、俺に言った。
「優の記憶がないことは理解しているけど、これだけは言わせて。もう二度とあんな真似はしないで。ママを悲しませないで。もちろんママだけじゃない。司や明のことも。」
これは説教だ。でも俺にとってそれは凄くありがたかった。誰かに言って欲しかった。叱って欲しかった。これまでの俺の行いを有耶無耶にするのは違うと思っていたから。それがたとえ失われた記憶だとしても。
「もう悲しませない。約束するよ。心配かけて本当にごめん。」
これは誓い。新たなる家族に対して。
この誓いをみー姉が聞いている。発言に責任が乗っかったのを感じる。
「うん。わかった。・・・じゃあ、この話はもうおしまい! 私がママをベッドまで連れて行くから、優はお風呂に入っておいで。」
みー姉は明るく話を締めくくる。
俺は母さんの腕を掴んで、それを解く。母さんは寝ぼけながら駄々をこねたが、みー姉がそれを諌めて寝室へ連れて行った。
俺は風呂に入ろうと思ったが、場所がわからない。部屋に残ってテレビを見ていた明に話しかけてみる。
「めいちゃーん。お風呂場案内してくれない?」
明は少しビクッとして驚いたが、小さな返事をして、俺を風呂場まで案内してくれた。
まだまだ距離は縮まらないが、母さんたちとのやりとりを見ていたからか多少警戒が解けたように感じる。別れ際に「おやすみなさい。」と言ってくれた。明はもう寝るのだろう。明日の朝は俺から挨拶しようと決心する。
浴室を見て俺はまた驚く。正確にはわからないが、脱衣所と合わせると10畳くらいだろうか?ものすごく広い。脱衣所と浴室を隔てる壁はガラス張り。床は大理石か?歩くとペタペタと音がする。照明は埋め込まれており、なんか凄くエッチだ。
浴槽は正方形で大人2、3人でも余裕で足を伸ばせるほど大きい。浴槽のすぐ脇には階段があり、その先には広いベランダ。そこにサウナもある。
家政婦などは見なかったけど、掃除はどうしているのだろうか。庶民の俺には理解が追いつかない。
今度聞いてみよう。
シャワーを浴びようとハンドルをひねる。ワオ。予想外。シャワーヘッドからではなく天井からお湯が降ってきた。あ、洋画で見たことあるタイプのやつだ。すげえ。でも、不便だ。うん。普通のシャワーに切り替えよう。
一通りシャワーを済ませ、浴槽に浸かる。
「ぐわぁぁあ・・・ふぅぅう・・・。」
おじさんのような声が出た。気持ちがいい。そういえば3日ぶりになるのかな?お風呂。
怒涛の1日だった。疲れが溜まっていたことを実感する。
ガチャッ
脱衣所の扉が開く音。嫌な音だ。あれ?さっきもこんなことなかった?嫌な予感しかしない。
あっ!司さんどうも。お風呂いただいてます!
ガラス張りなので、司が顔を赤くして口を開けて固まっているのがわかる。
すみません。脱衣所に鍵はあったんでしょうね。
でも、俺初めてだからさ?俺が実家にいた時は鍵なんか閉めなかったしさ?ガラス張りじゃなかったもんで。しょうがなくない?
10秒ほど固まっていた司は、「ありえない・・・」と言い残し踵を返す。
バンっ!!!!
すごく強く扉を閉めた。さっきからタイミング悪くない?こういうイベントはさ、もうちょっとしてからじゃない?初対面は早いって。うん。わかったわ。相性悪いわ。みー姉は時間が解決するとか言ってたけど、時間が経てば経つほど、状況が悪化している気がする。
お風呂でリラックスしていたからか、もう何も考えたくない。うん。一旦忘れよう。
広いお風呂を堪能した後、再びリビングに戻る。部屋にはみー姉と司がいる。司は俺を見るなり、部屋から出て行った。これまた、大きな音を立てて扉を閉めた。
「あははっ!司がありえないって愚痴ってきたわよ?笑 男の子なんだから気をつけないと!」
みー姉はすごく楽しそうに茶化してくる。なんだよ男の子なんだからって。ぶっちゃけ見られる分には恥ずかしくはない。大したもんでもないし。股間は見られてないもんで。
再び酒飲みに捕まった。みー姉ってお酒長いタイプか。
まあまあ疲れはあるが、眠たくはないので問題はなかった。3日も寝ていたからだと思う。
そしてみー姉とはいろんな話をした。明と仲良くなるにはどうしようか、司の機嫌は本当に大丈夫なのか、掃除はどうしてるのか、俺が入院している間の家族の様子などなど。
そのおかげもあって、みー姉といるのはすごく楽になった。みー姉と呼ぶのも恥ずかしくなくなっていた。さすがは一番上のお姉ちゃん。弟の扱いを心得ているようだ。
時刻は日を跨いで午前1時。そろそろ寝ることにした。
みー姉が自室を案内してくれた。部屋の中が、意外に綺麗にされてあったことに驚いた。
「ママが病院に迎えに行ってる間に掃除したの笑 薬の瓶が転がった部屋は流石に嫌でしょ笑 私たちもそのままにしておくのは嫌だったし。」
言葉もありませんお姉様。
俺はバツの悪い顔になってしまう。
でも、みー姉は明るく俺の背中をたたいて「おやすみ!」と言って再びリビングに戻って行った。
自分の部屋の物色は明日にしよう。今日はもう疲れた。
俺は目を閉じて今日のことを振り返る。
新しい家族に新しい環境。不安は大きい。でもワクワクはもっと大きい。明日も楽しみだ。
しかし、前世の母が心配だ。でも、もうどうしようもできない。
今の俺にできることといえば今の家族に誓ったことを守ることだ。
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〜東海林 南視点〜
優が部屋に戻って、今日のことを思い出しながら一人でお酒を飲んでいる。今日のお酒はいつもより美味しい。
優からみー姉と呼ばれたのは4、5年以上ぶりかな?
ものすごく嬉しかった。顔がすごく緩んだ自覚がある。
優はかなり変わった。本当に別人のようで、寂しさも感じていた。
そのせいなのかな?美人だなんて言われた時は妙にドキドキした。今までの優には感じたことのない感情。ママが抱きついても嫌がらない様子をみて、羨ましくなって、思わず私も優にそれを要求した。
優の困った顔が可愛くってしょうがなかった。だから、ついつい意地悪してしまった。
司が、優に抱きついている私たちの様子を見て、不機嫌そうに部屋を出て行った時、私は司を追いかけた。
「つかさ〜?」
司の部屋の前で司に呼びかける。
すると、返事が返ってきた。
「・・・わかってるから。今はほっといて。」
「・・・わかったわ。昔のことはもう大丈夫。優も歩み寄ろうとしてくれてるんだから、司もがんばりな。」
「・・・だから、わかってるから。一人にさせて。」
司は昔のことを今も引きずっている。司は司で自分の心を整理する時間が必要なんだろう。私がこれ以上口を出すのは藪蛇ね。
部屋に戻ると優は不安な顔をしていた。司が怒っていると勘違いしている。本当に面白可愛い。
お酒が入って気分が良い。また、意地悪してしまう。昔は意地悪なんてできなかった。そんな空気じゃなかったから。だから、余計に楽しくなってしまった。
ママが安心したように眠っている。よかった。
正直、この3日間のママは見ているのが辛かった。
子供達の前では笑顔を絶やさないママが壊れかけていたから。
そんなママの頭を優が大切そうに撫でた。それを見て、この子はちゃんと家族だと思った。記憶を失って、別人のようになってしまったけれど、ママを想っているのが伝わってきた。
優は約束してくれた。もう悲しませないと。真剣な顔だった。その場しのぎの言葉じゃないことが伝わった。まるで、宣誓したようだった。
今の優は名前の通りのすごく優しい子。男の子とは思えないくらい。
ああ〜今日はお酒が本当に美味しい。真っ赤になって部屋に戻ってきた司も可愛かったなあ。
私たち家族の止まっていた時計が再び動き出すのを感じる夜だった。
最後まで読んでくださりありがとうございます。
リアクションがあると励みになります。
ようやく異世界1日目が終了しました。いや〜長かった。
司目線のエピソードをいつ入れるか悩んでいます。
だって、早く学校とか行きたい。
お気づきかと思いますが、割とずっとふざけています。楽しい物語にしたいからね!
でも、自殺したという経緯がある以上、過去話は少し暗めになっちゃいます。悪しからず!




