初期微動
続きを書くモチベーションにもなるので、評価やレビューを頂けますと幸いです。
前回は優のピンチで終わりましたが、今回は打って変わって東海林家の過去を書いています。
少し短めです。
〜東海林 南 目線〜
私はママが大好きだ。小さい頃から私はママにベッタリだった。決して貧乏ではなかったが、当時は今ほど裕福ではなかった。それでも幸せだった。
ママは10代で人工授精で私を産んだ。それも起業したばかりの会社を経営しながら。
私が高校生の時、ママに聞いたことがある。
「なんでママは仕事で大変な時に子供を産んだの?」
すると、ママはいつもの調子で笑いながら答えた。
「単純に子供が欲しかったのよ。ママは欲張りなの。やりたいことは全部やらなきゃ気が済まないの。」
かっこいいと思った。名前の通り真っ直ぐな人。心から尊敬している。
私の一番古い記憶はママの会社が小さなセレクトショップだった時。ママは私のことを抱き上げながら「看板娘ね!」なんて言って笑っていた。なんか褒められた気がしてすごく嬉しかったのを覚えている。
ママのお店の店舗が増えて、忙しくなり始めた頃、私は幼稚園に通い始めた。友達が「妹ができたの!」なんて自慢してきて、羨ましくなった。
我ながらバカだと思う。仕事が大変な時期であろうママに妹が欲しいといった。子供を産むということがどれだけ大変かなんて考えていなかった。
でも、ママは私の頭を撫でながら笑顔で答えてくれた。
「そうね。賑やかになったらたのしそうね。ママがんばっちゃおうかな!」
それからママはお店を従業員にできるだけ任せて、お家でできる仕事をやっていた。従業員といっても当時から働いているのはママの高校からの友達だ。色々気を使ってくれていたところもあると思う。
ママのお腹が大きくなり始めた頃、おばあちゃんもよくお家に遊びにきた。
多分、ママの調子が良くない時に来ていたんだと今なら思う。
小さかった私はわかっていなかった。だって、ママは私の前ではいつも笑顔だったから。
私の願いは大体1年後に叶った。
司が生まれた。
とても嬉しかった。
司を産んだ後、ママは休んでいた分を取り戻すように仕事をしていた。
私たちを放っておいたわけではない。家はお店の2階部分だったから、頻繁に様子を見に来てくれていたし、司は覚えていないと思うけど、おばあちゃんもしばらく一緒に住んでいた。
私も司が可愛くて仕方がなかった。暇さえあれば司と遊んでいた。当時のことを、ママは、かなり助かっていたと言ってくれている。でも、ママを助けようとか思っていたわけではなく、ただただ可愛いくて構いたかっただけだった。
それから半年、ママの仕事は急激に上向いた。知らぬ間にセレクトショップ以外の事業もやっていたらしい。ママは昔から友人が多かったと聞いている。いろんなコネクションを使って会社を大きくしていた。さすがは欲張りなママ。
家は郊外のお店の2階から都内のマンションに変わった。幼稚園が変わるのは怖かったけど、妹がいたから平気だった。なんとなくこの時には家族は一生物なんだと感じていたと思う。
司が1歳半を過ぎたくらいの時、ママに言われた。
「みなちゃん。弟ができたら嬉しい?」
「おとおと!うれしい!」
なんでそんな話をされたのか分からなかったが、深くは考えなかった。
今になるとわかる。
国には男性を守るための制度が多く整備されている。男の子が生まれるとその母親は国に審査される。経済状況や犯罪歴の有無、信用情報など。
その審査に通らなかった場合、その子供は国が金銭によって買い取る形になる。
そして、国の定める基準を満たしていて、子育てが十全にできていると判断された家庭にその子供の引き取りを国から打診される。
その基準はとても厳しいらしい。経済状況だけではない。祖母や曽祖母の代まで調べられるらしい。
残酷に感じるかもしれないけど、それがこの国の常識。
優がお腹の中で男の子と判断された時点でママに連絡が入っていたらしい。
私に聞いてきたということは断ることも可能だったのだろう。
そして、生後1週間の男の子が私の弟になった。
「この子は誰にでも優しくあってほしい。」
ママはそんなことを願って優と名付けた。きっと男の子だからこそ、そう願ったのだと思う。
世の中の男性はお世辞にも優しいとは言えないから。
ママは特に何も言わなかったけど、血が繋がっていない兄弟であることは私も理解していた。でも、そんなことはどうでも良かった。
すごく可愛かった。司に負けないくらい。
私が小学生になって、司と優は幼稚園に通っていた。ママに時間ができて、さらに仕事は上向きになっていたようだった。
年が近いからか司と優は本当に仲が良かった。妬けちゃうくらいに。そんな2人が私は愛おしかった。
私は、小学生ながらも姉としてこの子らを守らなければという自覚もあった。2人の姉であることが誇らしかったから。だから、あまり友達とは遊ばなかった。
それに、ママから「いつもありがとね。みなちゃん。」と頭を撫でられるのが嬉しかった。
2人が大きくなるのは本当に早く感じた。気づけば、2人とも小学生になっていた。
女の子だからか司は特に成長が早かったと思う。弟がいるからかな?なんて考えたりもした。
私が中学2年生で司が小学4年生の時。司が2人で出かけたいと言ってきた。珍しかった。いつも優と一緒だから。
可愛い妹にデートに誘われたと思って、私はすごく浮かれていた。少し大人ぶって2人でおしゃれなカフェに入ったみた。でも、司はそんなに楽しそうにしてなかった。
すると、司から相談を受けた。衝撃だった。
「優と結婚はできないの?兄弟だとなんでダメなの?」
言葉を失った。中学2年生の私には答えに困る質問だった。
司は優と血が繋がっていないことを知らない。でも、間違いなく家族ではある。
私は知っている。真実を。ママは何も言わないけど。
近い血縁者と結婚できないのは、生まれてくる子供に影響があるからだ。貴重な男性の生殖能力を無駄にしないためにも、法律で固く禁じられている。
でも、司と優は違う。司は血が繋がっていないことは知らないけれど、本能的に何か感じているのかもしれない。
実際、優のように親と血が繋がっていないケースは少なくない。
あまり考えたくないけど、現実問題、この関係は書類上で家族と括られている。あくまで、書類上。書類の中身など方法を探せばどうにかできるだろう。
つまり、結婚について、可能か不可能かで言えば、可能。
司はかなり大人になってきたと思う。だからこそ、ママにではなく私に聞いてきた。司はママには聞くべきじゃないとわかっている。真剣なのがわかる。
優と血が繋がっていないのは遅かれ早かれ気づくことになる。司の真剣な顔を見ていると、誤魔化してはいけないと思った。でも、私は家族が変わってしまうことが怖い。なんと伝えるべきか。
「司は優のことが弟としてじゃなくて、男の子として好きなの?」
「・・・・・うん。弟としても好きだけど。」
私が考え込んでいるのを察して、司は黙っている。
仮に、できないよと誤魔化したら、解決するのだろうか?
いや、多分しない。司が恋心を自覚してしまっている以上、問題を先延ばしにしているに過ぎない。
司の想いを聞いて、色々と腑に落ちた部分もある。司は友達が少なかったし、優の隣から離れようとはしなかった。だからか、優の周りにもあまり人は寄ってこなかった。男の子なのに。
もしかしたら、司は優を取られまいとしていたのかもしれない。
多分、今の司にとって優が全てなんだろう。友達なんていらないくらい。
この子から優を取り上げることなんてできない。私だって、一緒にいる2人をずっと見てきた。
そして、私は意を決する。正直に話そうと。
「今まで黙っていたのだけど、優と司は血が繋がっていないの。」
「え。」
「私と司はママのお腹から生まれたけど、優は違うの。」
「・・・。」
結婚できるかできないかで答えたわけではないけれど、司は私が言いたいことを理解したようだった。
司の望みは実現可能だと。
でも表情は暗くなっていた。しょうがないことだと思う。最愛の弟が、弟ではないという事実を今知ったのだから。それはそれ。これはこれ。
私は続ける。
「そんなに悲しい顔しないで?血は繋がっていなくても優は私の弟だし、司の弟よ。そして、ママの息子。誰がなんと言おうとそれだけは絶対変わらない。」
「・・・。うん。」
これはきっと必要な痛み。司が優のことを好きだというならば乗り越えなくてはいけない問題。
ちゃんと自分で整理をつけるしかない。
数分の無言が続く。司の表情は暗いまま。
私は暗い表情の司を励ましたかった。
「司と優は結婚だってできるんだよ?司にとっての弟でもあるし、素敵な男の子でもあるの。だから、今までと何も変わらない。家族として一緒に暮らして、大きくなったら結婚すればいいのよ。」
中学2年生の私にはこれが精一杯だった。
今にして思えば軽はずみな発言だったと思う。ママに私から相談してみても良かったのかもしれない。今でも、司の質問への正しい答えはわからない。
その日から少しづつ家族が変わっていった。
読んでくださりありがとうございます。
ちなみに、裕福ではないと南は言っていますが、一般的な人より裕福でした。おばあちゃんもしっかりした人なので。
あと引っ越したマンションは現在住んでいるのとは違います。タワマンとかでなく一般的な賃貸マンションです。
あと、カフェの時点で、明は生まれていますが、今回は南と司のやり取りがメインなので描写していません。




