家族会議
香織さんは母さんからの提案を受け入れて、その日のうちに会社に辞表を提出するようだ。
香織さんは18時になるとすぐに帰り支度を済ませて、会社に向かった。
その日の夕食で母さんから提案があった。
「香織ちゃんが会社を辞めて、東海林家で雇うことになりました!はい!拍手!」
「「「「ぱちぱちぱち」」」」
「香織ちゃんにとっては大きな決断になります。それでもウチで働いてくれるということに感謝して、明日は歓迎パーティーを開こうと思います!」
素敵な提案だ。さすが社長だ。
東海林家が雇用主になった以上、アットホームな職場でなければならないもんな。
「そこでみなちゃんと司ちゃんは明日の料理をお願いします。私は家族みんなからのプレゼントを用意しておきます。」
俺と明には何もできることはないっぽい。
まあ、きちんと感謝の気持ちを伝えよう。
「ところで、なんで急に香織ちゃんが会社を辞めることになったの?」
司が母さんに疑問を投げかける。
「優くんが学校に毎日通うと言い出したからよ。いろいろ融通効いた方がいいでしょ?香織ちゃんもウチで働き続けたいと言ってくれたし。」
「・・・はあ。ママ。本当に優を毎日高校に通わせるの?」
まだ言うか。別にいいだろ。通いたいんだから。
自分は毎日通ってるくせに!俺だけダメなんてずるいじゃないか。
「だって仕方ないじゃない。優くんが毎日通いたいって言うんだから。」
「だからって!女子高生なんてみんな獣なのよ!?」
獣か。まあ、そう言う年頃だもんな。
前世の俺も男子高校生になったら彼女欲しいと思ってたもんな。
いや、今もだけどね?てことは、WINWINじゃない?
「だから香織さんには優くんに自衛手段を教えてもらうことになってるのよ。」
「・・・。そういう問題じゃないんだけど。」
司は呆れ顔である。
なんで司がこんなに嫌がるのかがわからない。
俺の司のイメージでは「勝手にすれば?」と真顔で言ってきそうな感じなのに。
みー姉はお酒を飲みながらケタケタ笑っている。
「まあ、司ちゃんも諦めなさい。優くんって意外に頑固なのよ。」
俺は頑固だと思われていたようだ。
思い当たる節はある。
確かに言われてみれば、相当わがままを言っている気がする。
外出させろ。学校に通わせろ。平日は毎日だぞ。暇だからジムに行かせろ。
全て押し通してきたな・・・。
でも、俺としては健全な望みだと思うので、自重する気はない。
もちろん、人に迷惑をかけるようなことはしないよ。
「お兄ちゃんと毎日一緒に学校に行けるんだよね!?」
マイエンジェルは喜んでくれている。可愛い奴め。
確かに司と同じ高校に通うのだから、明も一緒に登校することになるな。
あ、もしや、司はそれが嫌なのか?
え、俺泣いちゃうよ?やっと仲良くなり始めたと思ったのに。
「あ、優が学校に通うなら私が車で送ってくよ〜。朝ゆっくりだし。」
「みなちゃんありがとう!頼もうと思ってたの!高校生には先生の送り迎えはつかないからね〜。司ちゃんも明ちゃんも一緒にお願いね!」
まるで司と明はついでと言わんばかりだな。
まあ、それもそうか。
前世の母も姉のことは高校に送り迎えしていたが、男の俺には「甘えんな!チャリで通え!」と言ってきたし。
この世界ではその逆、いや、それ以上だもんな。
「はあ・・・。優、帰りは私と帰りなさいよ?危ないから」
「・・・え?あ、ああ。うん。」
あれ?司と帰ることになったんだが?そんなに危ないものなの?
一緒に通うのが嫌なわけではないのか?
俺には司が何を考えているのか全くわかりませんわ。
食後はみー姉と母さんが酒を飲み、俺は明と一緒にソファでテレビを見る。
司も俺から少し離れてソファに座りスマホを眺めている。
食後に明と過ごすのは、この家に来てからの習慣になってきた。
至福のひと時である。
俺は明を抱き上げてソファに座る俺の膝の上に明を乗せる。
「え!?え!?お兄ちゃん!?」
「ん?嫌だった?」
明はブンブンと首を振って、満面の笑みを見せてくれた。
ああ、もう食べちゃいたい。可愛すぎるよ。
妹とはこんなにも可愛い生き物なのか。お兄ちゃんで本当に良かった。
その様子をみー姉と母さんは微笑ましそうに見ているようだ。
司も驚いた様子でチラチラとこっちを見てくる。
若干不機嫌そうなのが気になるところだけど、そんなものは知らん。司の通常運転だ。
よし。ここは欲張って踏み込んでみよう。
「明ちゃん。今日は一緒にお風呂入ろっか?」
「ええぇえ!?いいの!?入る!!!」
キタコレ。
俺はバカなフリをしてお風呂に一緒に入ろうと提案した。
小学生の妹と高校生の兄が一緒に風呂に入るのは決して悪いことではないはずだ。
うん。明の年齢であれば許されるだろう。
中学生にでもなってしまうとアウトだ。しかし相手はまだ小学2年生である。
あ。別にエロいことは考えてないぞ。断じて。本当に。勘違いしないでくれ。
8歳に欲情するほど俺は終わっていない。
ただ純粋に可愛い妹とお風呂に入りたいのだ。いや、マジで。
「「「はあ!?」」」
家族の全員が目を見開いてこちらを見てきた。
想定はしていた。
だって、男女が一緒にお風呂に入るなんてこの世界では超レアケースであろう。
この提案をできるのは男側からのみだろうしね。
しかし、バカなフリは忘れてはならない。
兄妹だし普通だよね?みたいな顔をするのが重要なのだ。
「ちょっと!優!何言ってんの!?あんた男子なのよ!?」
司がまた突っかかってきた。みー姉と母さんは口を開けて固まっている。
司の言わんとしていることが理解できないわけではない。
前世で家族に銭湯に連れられた時(小学1年生)、家族は俺以外女だったから1人で男湯に入ることはできず、女湯に入った経験がある。銭湯のおばちゃんも別に何も言ってこなかった。でも、小さいながらも悪いことをしている気分になったのは確かである。それ以来家族と銭湯に行く時は断っていた。
要するに、司は明も女の子なんだぞと言いたいのだろう。
しかし、俺と明は兄妹なのだ。
文句を言われる筋合いはないし、なんなら、男の俺が入ろうと言っているのだ。
なんの問題があると言うのだ。
仮に前世で小学生の俺が年頃の女性にお風呂に入ろうと言ったら、エロガキ認定されていただろう。
ただ、逆にお風呂に入ろうと女性に提案される立場であれば、それは許されるのだ。
司には悪いが、バカなフリ続行である。
「ん?兄妹なんだし別に良くない?明が嫌なら諦めるけど。」
「お兄ちゃん!嫌じゃない!明は一緒に入るよ!」
ははは。よく言ったマイエンジェル。
たとえ兄妹でもこの世界では貴重な経験になるだろうね。
毎日入ったっていいんだぞ?
俺がとぼけている限り、司に反論はできない。
なぜなら、司がこれ以上反論しようものなら、8歳の明とまもなく15歳になる俺の入浴がいかがわしいものだと言っているようなものなのだ。
つまり、司が変に意識したエロガキになってしまうのだ。
俺の馬鹿なフリ作戦大成功である。
俺は明とお風呂場に向かう。
母さんとみー姉が飲んでいるダイニングテーブルを通る時、2人の会話が聞こえてきた。
「なんか、司が気の毒に思えてきたわ。」
「み、みなちゃん。わ、私は母親だから一緒に入ってもいいわよね?」
確かに、司が悪者みたいになってしまったか?
それは申し訳ない。
そして母さん。15になる息子と風呂に入る母親はいないと思うぞ。
でも、俺としては別に構わない。
ただ、エロい目で見るけどな。
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〜東海林 南目線〜
優が明とお風呂に入ると言い出した。
言葉が出ないほど驚いた。以前の優からは考えられないことだ。
いくら記憶がないとはいえ、男の子としての自覚があるのだろうか。
そして、何より司が気の毒だ。
ああ言われてしまえば返す言葉はない。
でも、一緒にお風呂に入るなど羨ましいに決まっている。
だって、私も一緒に入りたいもん。
ママはもう口から願望が溢れているし。
あ!今度とぼけて優が入浴中に入っちゃお!うん!そうしましょ!
姉弟だもんね!優の言い分通りなら許されるわね!
司にはバレないようにしないと!
「ねえ、お姉ちゃん。あれはありえないよね?優ってもう15になるんだよ?」
司が不機嫌そうに話しかけてきた。
私はいかがわしいことを考えていたので、ちょっとビクッとしてしまった。
「確かに、今の優は危なっかしいところがあるわね・・・。」
「そうだよね?普通だったら思春期の男子は兄妹でも嫌がるよね?」
「普通はそうだろうね・・・。」
まあ、優が普通じゃないのはもう周知の事実なんだけど。
ただ、あまりにも非常識なところがあるのは間違いない。
私が司の愚痴を聞いていると、ママが真剣な表情で話し始めた。
優と明がいない今だからこそできる話題。
「みなちゃん。司ちゃん。優くんが15歳の誕生日を迎えたら、血が繋がっていないことを伝えようと思うの。」
司が黙った。以前の優にそれを伝えたのは司だ。
それが原因で優との関係が拗れてしまった。
確かに小学生の優には早すぎたと思う。
これまでママは優を本当の家族として接していた。
だからこそ、自分の娘たちにも優との関係性については話題にすらしたくなかったのだと思う。
だから、結果的に口止めをすることもできなかった。
私が司に血が繋がっていないことを伝え、司が優にそれを伝えたのはママにとって完全に想定外。
おそらくママは優を引き取った日から15歳になったら伝えようと決めていたんだと思う。
私としては、今の優に伝えるのも正直早い気がする。
以前の優にとって私達家族は人生の大部分を占めるものだった。
そして、今の優にとってもそれは同じだ。
家族しか知らないし、他に頼れる人なんていない。
そこに血が繋がっていないという事実を突きつけるのは酷ではないだろうか。
しかし、15歳と言うのは男性にとって大きな節目になる。
優は進学すると決めてはいるものの、本来は国の方針に従って男性の務めをすべき歳。
司のことも考えると、事実を隠しておくのも得策とはいえない。
「ん〜。早い気もするけど・・・。しょうがないのかな。」
「だ、大丈夫なのかな?」
司は不安そうだ。
おそらくトラウマのようになってしまっているのだろう。
私も同じような気持ちだ。
「不安な気持ちはわかるけど、いつかは伝えないといけないことよ。15歳を過ぎたらもうタイミングはないと思うわ。血が繋がっていなくても私達が家族であることをしっかり伝えましょう。きっとわかってくれるわ。」
確かにそうだ。
しかも、ちゃんと伝えなければ司は一生想いを伝えられない。
正直に言うと、司には申し訳ないのだけど、優とだったら結婚したいかもしれない。
優とできないのであれば、別に独身でいい。
ママみたいに人工授精で家族を持つ手段だったあるわけだし。
まあ、そこまで真剣に考えたことはないけど、最近司と話していて自分の気持ちが変わってきているのは確かだ。
「それに、何も伝えずにいて、優くんが国の用意した女の子と一緒になるなんて嫌じゃない!」
「「それは絶対いや!」」
そうだ。それだけは受け入れられない。
あんなに可愛い弟が私達以外と一緒になるのだけは受け入れられない。
しかも、ガードはゆるゆる。いつ他の女に取られてもおかしくない。
ママも同じ気持ちだ。
優は他の男たちとは違う。
記憶を失ってからは信じられないほど魅力的な男の子になってしまった。
私の結婚とかを考えないにしても、何処の馬の骨とも分からない女が優と一緒なのはダメ。
優が帰ってきた日、優ときちんと向き合おうと決めたのだ。
私たちは家族だ。だからこそ、全て包み隠さず打ち明けるべきだ。
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