親不孝
若干重めかもしれないです。文字数は少なめかも?
「優!仕事にいくから、ご飯勝手に食べてね!お金はリビングにあるから!」
「あーい」
これが最後の会話だった。行ってらっしゃいの一言でも言えば良かったと思う。
我が家は母子家庭だ。父親は俺が小さい頃に時浮気をして離婚した。当時はあまりよくわかっていなかったが、今思い出すと、母はよく耐えたと思う。
俺が物心着く頃には、たまにしか父は帰ってこなかった。俺としてはそれが普通だったし父のことはたまに家にいるおじさんくらいの感覚の距離感だった。だから普通に仲は悪くなかった。でもそれは、母が不満を飲み込んでいただけだったのだろう。今ならわかる。
父が夜久しぶりに帰ってきた日に母と父が初めて俺の前で喧嘩した。あの光景は今でも鮮明に覚えている。
「ただいまー。」
「・・・」
母が無視をしたのだ。姉は空気を察してか自分の部屋に行った。俺はまだ小さかったので自分の部屋なんてない。リビングのソファでテレビを見ていた。
「ただいまっていってんだろっ!」
父が声を荒げた。母がなんと返答したのかはわからない、覚えていない。
だが、その後想像していなかったことが起こった。
父が母に手をあげたのだ。俺は初めて見た。多分、手をあげたのもあれが初めてだったんだと思う。
殴ったわけじゃない。キッチンにいた母。父は、自分の腕を母の首にあて、そのまま冷蔵庫まで追い詰めるように押し付けたのだ。
あまりにも衝撃を受けた俺は声を出して号泣した記憶がある。恐怖もあった。
「上にいってなさい。」
母に言われた。その後の記憶はない。
家族が揃ったのはこの日が最後だったと記憶している。
今になって思えば父が怒れる筋合いは全くない。母は専業主婦ではない。共働きなのだ。父一人の稼ぎで家庭が守られているわけではない。そんな状況で、別の家の女に会っている男に帰る場所はないのだ。当たり前だ。
今になって思えば、当時の母は相当弱っていたと思う。ただそんな状況でも、離婚のお手続きにおいて彼女は戦った。俺と姉のために。親権は死んでも譲らないと。
父に約束させた。大学は必ず行かせることや養育費についてのことを。
まあ、親権に関してはそもそも父が悪いので、口答えできるはずもない。そもそも俺も姉も父についていくつもりもなかった。
母は俺たちを心から愛してくれていた。歳を重ねれば重なるほど、母の心の強さに尊敬が増した。彼女は母であり、我が家の大黒柱だ。だから、俺は思春期の今でも、友人に母が大好きだと心から口にできる。恥ずかしさなんてない。俺も母を愛しているのだ。
だからこそ、きちんと口にして伝えたかった。会えなくなる前に。感謝していることを。愛していることを。
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母が出かけた後、昼過ぎに目を覚まし、武田に連絡する。
東海林 優:昼飯行かね?
武田 晴久:お前のせいで風邪な?はったおすよ?
東海林 優:それはすまん。いや、そもそもお前が傘持ってなかっただけじゃね。
昨日の一件のせいで武田は風邪らしい。まあ、卒業式2週間前、つまり2月に傘も刺さず外にいたら、2人に1人は風邪にかかるだろう。
申し訳ない気持ちがないわけではないが、野郎の面倒は見たくないので、母が用意していてくれた1000円札を財布に入れ、一人で昼食を調達しようと外に出る。
昨日の雨は止んでいるが、路面の水たまりやマンホールは凍っており、気を抜けば転んでしまうくらい滑る。
お店が並ぶ大通りを歩く。平日のこの時間、車はそこまで多くないが、そこまで少なくもない。ただ、もとより交通量が多い通りなのだ。焼肉屋やファストフード店が並んでおり、貰った1000円で最大の幸福を得ようと考える。
ハンバーガーに決めた!!黄色のMの看板の店へ向かう。そこは大通りの交差点で、ドライブスルーなどもあり、お昼時で混んでいた。うん。お持ち帰りですね。これは。
いつも頼むテリヤキバーガーにナゲットとポテト。飲み物は家でいいだろう。
時刻はちょうど正午。ハンバーガー店を後にして、交差点で信号を待つ。赤信号の間、スマホを見る。昨日気疲れしてすぐ寝てしまったため、高橋に連絡はしていない。どうしたものかと考えている時だった。
死は突然なのだ。
路面が凍っている交差点で、トラックは左折しようとしていたのだと思う。道路はそこまで混んでいなかったからか、少しスピードが出ていたのだろうか。知らんけど。
そのトラックのタイヤがスリップする嫌な音を鳴らしたのは聞こえた。その音で顔を上げると、目の前にトラック。終わった。わかる。死ぬ。
トラックの横転に巻き込まれたのだろうか。悲鳴が聞こえた。痛みはない。目の前は赤い。体から湯気が出ている。ああ、血か。痛みはないが、熱い。燃えるように熱い。
その熱が徐々に冷えていくのを感じる。それと同時にパニック状態だったが思考が冷静にもなってくる。
ああ死ぬのか。助からないのは直感的に分かった。痛みがないことに安心した。このまま死ねるのか。
意外に冷静なもんだなと自分で自分に驚く。
状況が整理できると、いや、諦めと言った方がいいか。人生を諦めると割と気が楽になった。
が、ふと、母の顔が頭をよぎる。
ああ、だめだ。彼女から奪ってはならないものを俺は奪おうとしてる。最低な父親より母を悲しませ傷つけるのだ。最低だ。なんて親不孝なのだろう。親より先に逝くなんて。彼女にはまだ感謝の言葉をかけていない。一言でいいから伝えたい。ああ、なんて理不尽なのだろう。これはおそらく走馬灯ではない。ただの後悔だ。俺は許されないだろう。地獄に落ちるのだろうか。おそらくそうだろう。母の人生に俺の死という地獄を与えるのだ。
心の中で反芻する。母に対する謝罪と、感謝を。届かないのは分かっているが、今は神に祈っている場合ではない。母に対する懺悔を心から叫ぶ。きっと彼女はそれを求めないだろうが、今は他のことは考えられない。姉には母をどうか支えてほしい。お願いだから、母には救われてほしい。
意識が遠のく。いやもう意識はないのだろうか。すでに死んでいるのだろうか。
ごめんなさいお母さん。あなたの愛は痛いほど伝わっていたよと伝えたい。俺もあなたを愛していると伝えたい。
叶わない願いが溢れてくる。ああ、これが死か。死とはこういう感覚なのか。
確かにこの日、この世界の東海林 優は15歳を迎える前に死んだ。大きな後悔を残して。
家族大切にするマンに育てたかったので、少し優くんには色々背負ってもらいました。
この世界のお母さんには本当に辛い役割をさせてしまったと作者からも謝罪したい。
ただ、今回の話は、主人公の人格的な下地には必要な内容かなと思いました。
この話の後に、知らない天井!?には繋げられませんでした。流石に空気は読みます。




