お手伝いさん
今日はいつもより遅めに目覚めた。
この家にもだいぶ慣れてきた証拠だ。
リビングに顔を出すと昨日までとは違う光景。
今日は平日なのでそれぞれの学校や仕事があるのだろう。
スーツを来ている母さん。制服の司。
部屋着しか見たことがなかったみー姉も女子大生らしい格好をしている。
そしていつも通りキュートなマイエンジェル。
眼福である。
みんなは朝食を食べ終わっていたので、俺は1人で朝食を取る。
一番最初に家を出たのは司と明。
小中高と国立大の付属校なので、それぞれの学校はかなり近い。
いつも司と明は途中まで一緒に行くらしい。
「母さんとみー姉はいつ出るの?」
「母さんはもう出るわよ〜。」
「私は一限は入れてないから、割とゆっくりめではあるかな。」
「そっか。家で1人か〜。絶対暇じゃん。前までどうしてたんだろ。」
「優は部屋から出てこなかったから私たちもわからないわよ。」
「ですよね〜。ち、ちなみに、外出とかっt「「ダメ!」」
はい。わかってましたよ。そんな気がしてた。
絶対に暇じゃん。この世界の男はどうやって暇を潰しているのだろうか。
俺の場合は絵でも描いていたのかな?
学校が始まるまでは暇つぶしを極めることになるのか。
高校生活を勝ち取った自分を褒めてやりたい気分だ。
「あ、でも優君1人じゃないわよ?」
「え?」
「平日はお手伝いさんが来てくれているの。何か欲しいものとかがあるならその人に頼んでね。絶対外に出ちゃダメよ!」
へ〜。掃除とか気になっていたけどお手伝いさんが来るのか。
あんなバカみたいに広い風呂を掃除するなんて面倒すぎるもんな。
「そろそろ私は出るわね?優君?知らない人が来ても出ちゃダメだからね?わかった?」
「あいあい。わかってますよ〜。」
ったく、俺をなんだと思ってるんだ。小学生じゃないんだから。
まあ心配してくれてるのだろうから口には出さないけどさ。
もう少し信用してくれてもいいのに。
「じゃあ、行ってきま〜す!」
「母さん行ってらっしゃい!お仕事頑張ってね〜!」
「っがは!・・・やっぱり行かない。優くんと一緒にいる。」
「はい?何言ってんの?」
「こんなに優しい優くんと離れるなんて嫌!お仕事休むわ!」
「・・・・・。」
え。なんか、駄々こね始めたんですけど?この人ってバカなの?
溺愛にも程があるんじゃないか?
心配してくれているというより、俺を囲いたいだけな気がしてきたぞ。
しばらく駄々をこね続けている母さんは、この家の大黒柱としての尊厳をどんどん失っている。
息子からの尊敬パラメーターがみるみる下がっていることに気づいて欲しい。
「も〜。ママ!ただでさえ優が倒れてから会社に行ってないのに・・・。みんなに迷惑かけてるんだから、ちゃんとお仕事に行かなきゃ。」
「む〜。だって〜!」
「だってじゃないでしょ?ほら!遅れるから早く!」
「みなちゃんひどい!・・・ゆ、優くん!早く帰ってくるからね?待っててね?」
みー姉に物理的に背中を押され、半ば強引に外に追いやられていた。
最後らへんは涙目だった。幼稚園に行きたくない子供か!
本当にこの人が社長で会社は大丈夫なのだろうか?家の中でその片鱗すら見えないけど。
なんというか、多分この家のボスはみー姉だな。
「た、大変だったね?」
「本当に浮かれすぎなんだから。気持ちはわかるけど流石にあれはダメね。」
母さん。娘にあれ呼ばわりされてるぞ。
俺も若干引いたよ。愛されてるのはわかるけどさ。
部屋にはみー姉と俺の2人だけになった。あれがいなくなると静かだな。
みー姉は日によって違うらしいが、基本的に一限は入れておらず、家族より2時間ほど時間に余裕があるとのこと。
大学生の自由な感じって羨ましいよね。俺も大学行きたいな。
朝食を摂り終えた俺はお手伝いさんのことが気になっていたのでみー姉に質問してみることにした。
「お手伝いさんって俺も知っている人ってことだよね?」
「こっちに引っ越してきた時からだから、もちろん知っているわ。もう5年くらい来てもらっているの。優が引きこもる前はよく遊んでもらってたわよ。」
「へえ。今の俺の事情は知っているの?」
「まあ、倒れたってことは知っているわ。記憶を失ったことは知らないけどね。あと1時間くらいで来るから、私から説明するわ。優も挨拶しなよ。」
「おっけ〜。」
詳しく聞いてみると、お手伝いさんは俺が倒れている時にお家にいたらしい。
決して、見て見ぬふりをしたわけではない。
俺が部屋から出てこないのはいつものことだったので気がつかなかったようだ。
母さんが俺を発見した時の叫び声で俺が倒れたことを知ったらしい。
勘で気がついた母さんが普通じゃないのだ。
家族もお手伝いさんに落ち度はないと認識している。
しかも、母さんは相当取り乱していたようで、お手伝いさんが救急車などを呼んでくれたみたいだ。
冷静な人がいてくれてよかった。母さんと同じくらい命の恩人だとわかった。
ピンポ〜ン!
お手伝いさんが来たようだ。
緊張してきた。
全くの初対面より、以前の俺を知っている人と会う方が緊張する。
インターホン越しにみー姉が会話する。
「吉田です。」
「は〜い。鍵で入って大丈夫で〜す。」
吉田さんというらしい。合鍵は渡してあるようで、家族もこの人を信用しているのがわかる。
「優はリビングで待っててね〜。」
みー姉は先に吉田さんに事情を説明するために玄関へ向かった。
みー姉には助けられてばかりだな。心の中でBIGBOSSと呼ぶことにしよう。
でも、なんだか妙にニヤついていたけど、なんだったんだ?
しばらくすると扉が開き、吉田さんの姿が見えた。
・・・・。でっか!?え?俺よりでかいぞ?180はあるでしょ?
スレンダーな体型で手足も長い。水色の長髪でキリッとした綺麗な顔つきだ。
いやあ、おどろいた。スリッパにヒールついているんじゃないかと思った。
「ほら!優!挨拶して!」
みー姉が俺に挨拶を促す。
吉田さんはそれに驚いているようで、視線がみー姉と俺を往復している。
「は、初めまして。優です。記憶はないんですけど、助けてもらったと聞いています。その節はありがとうございました。」
「・・・・・・・え。」
驚きすぎて固まっている。もう見慣れたもんですわ。
おそらく、以前まで会話すらしない俺に対してみー姉が挨拶をしろと指図したことと俺の激変具合に驚いているのだろう。
二つも同時に処理しきれていないと言った表情だ。
ただ、物申したいことがある。
みー姉よ。この状況って説明が足りてないってことだよね?
なんかニヤついてるし。この人イタズラ好きにも程があると思う。
「みー姉。ちゃんと説明したの?」
「したわよ。記憶ないよって。」
「いや、明らかに説明不足でしょ。今はこんな様子だよとかさ。色々先に伝えてあげないとダメじゃん。見てよ吉田さんを。どこかにトリップしてるよ。」
「私も説明する時よく考えたの。そして、結論が出たのよ。今の優との初対面なんて面白いに決まってるって。流石に記憶がないことは伝えないととは思ったけど、それ以上は説明するのが勿体無いじゃない!」
こいつダメだわ。何が先に事情を説明するだ。あのニヤつきはそういうことか。
前言撤回。BIGBOSSではありません。クソガキです。大人をおちょくってはいけません。
「あ、あの、吉田さん?ウチの姉がすみません。記憶がなくなって、今の俺はこんな感じなんです・・・。」
「は、はあ・・・。」
どうすんのこの状況。吉田さんが旅から帰ってこないんですけど。
みー姉が笑っている。あははじゃないんだよ。あははじゃ。
吉田さんとウチの家族が仲が良いのはわかった。
しかし、姉への信頼度は地に落ちた。
しばらく旅立っていた吉田さんが帰ってきた。
「ゆ、優さん。は、初めまして。吉田 香織です。清掃や昼食などの家事のお手伝いをしています。それとお家の警備も業務の一つです。よ、よろしくお願いします。」
「け、警備!?」
「あ、ごめん優。説明してなかったわ。お家に男の子1人は危ないからね。香織ちゃんには警備もしてもらってるの。」
「南ちゃん。私だけじゃなくて、優さんにも何も説明していないの?」
「てへっ!忘れてた!」
てへじゃないよ。俺にも説明不足かよ。
こんなゴリゴリのセキュリティマンションに加えて警備までいるとは。
でも、これって完全に俺が1人の時のための人選なんだろうな。
それにしても吉田 香織か。一文字違えば霊長類最強だ。
確かに、身長も高いしリーチもすごい。強そうだ。
おそらくレスリングはやっているだろうな。ああ、これはまごうことなき偏見だ。
そして、気になるのは、みー姉は南ちゃんで、俺は優さんと呼んでいること。
まあ、明も俺をお兄様と呼んでいたし、明らかに以前の俺は人と距離をとっていたみたい。
これはいただけない。俺だけ仲間はずれじゃないか。
「よ、吉田さん?引きこもる前はよく遊んでもらっていたと聞いています。ですから、俺のことは優と呼び捨てで構いませんよ?」
「え!?・・・わ、わかりました。・・・ゆ、優・・くん。」
くうううう!たまんねえええ!
クールビューティなお姉さんが顔を赤ながら、優くんだって!
見た目クールなのが余計にいいんだよね。わかるかな?
俺に対して敬語なのは変わらないけど、いきなりは難しいだろう。
俺もタメ口は少し憚られるし。時間をかけて仲良くなろう。
みー姉が家を出る時間になり、吉田さんと家で2人になる。
俺にとっては初対面なので居心地がいいとは言えない状況になった。
吉田さんも俺がリビングにいるのが珍しいからか、掃除をしながらもチラチラこちらを見たりして落ち着かない様子だ。
「ゆ、優くん。昼食はいかがしますか?ご要望はありますか?」
朝食をとってからあまり時間は経っていないが、母さんとみー姉のおかげでカロリーを使ったため、腹は減っていた。
「ん〜。メニューはお任せします。せっかくなので、一緒に食べませんか?」
「っえ!?い、いいんですか?」
「もちろん!暇なので話し相手になってくれると嬉しいです。」
「っくは!・・・かしこまりました!すぐ用意します!」
うむ。俺のハニカミに喰らってたけど、嬉しそうだ。
この世界で男に食事に誘われるのは珍しいことなのだろう。
そして、何よりこの気まずい空間を打破できるのは家主である俺の方だ。
なんとかこのランチで気まずさを拭えればいいのだが。
昼食に出てきたのはオムライス。
卵がとろとろですごく美味しそう。
卵料理は難しいからね。料理の腕もすばらしい。さすがである。
「いただきます。」
「め、召し上がれ。」
うんまい!星三つです!オムライスは幾つになってもテンションが上がる!
「吉田さん!めっちゃ美味しいです!」
「よ、よかったです。優くんと昼食をとっていた頃はよく作っていました。」
「そうだったんですね!確かに懐かしい感じするかも!」
「あ、あの・・・。」
「はい?」
「よ、よろしければ、わ、私のことは香織と呼んでいただけませんか?昔はカオちゃんと呼んでくれていたので・・・。」
吉田さんは顔を真っ赤にさせている。
しかし、呼び捨ては無理!カオちゃんも無理!
「か、香織さんでもいいですか?」
「ッがは!・・・は、はい!よ、よろしくお願いします!」
俺も顔が熱い。なんだこの初々しい会話。
気まずさではなく、気恥ずかしさがリビングを埋め尽くしている。
顔を真っ赤にしている2人が無言でオムライスを食べているというシュールな空間だ。
無言は耐えきれないのでなんとか話題を捻出しよう。
「欲しいものがある時は、香織さんに頼めと母さんから言われているんですけど、香織さんのお仕事には支障ないんですか?」
「はい。私が家を離れるわけではなく、会社のものに連絡をして対応させます。必要なものは家に届けられる形です。」
「なるほど。ちなみに、香織さんが一緒であれば、外出できたりします?」
「が、外出!?・・・それは直さんに聞かないといけません。」
ちぇっ!それじゃあダメだな。絶対許されないわ。
香織さんも驚いているから、やっぱり外出したい男って相当珍しいんだろうな。
まじでみんな家で何やっているんだろう。
「普通の男性って、家で何してるんですか?俺暇すぎて困ってるんですよね。」
「え、えっと・・・。食事が終わってからにしましょうか。」
「え?あ、はい。」
なぜ?食後である必要ある?ランチって会話しやすいよね?
あと、香織さんもどこかバツが悪そう。
このあと、俺は世の中の男に驚愕することになった。
最後まで読んでくださりありがとうございます。
ブックマークやリアクション、評価が励みになっています。
今後ともよろしくお願いします。
香織さんも優君と呼び始めたのでお母さんとセリフがわかりにくくなってしまうと思うので、同じ空間に登場する時はわかりやすく工夫したいと思います。
キャラクター紹介
●吉田 香織 身長は181cm。29歳。水色の長髪。クールな性格でシャイな一面もある。スレンダーな体型。筋肉質。Bカップ。あらゆる格闘技に精通している。ちなみにレスリングも。仕事はめちゃくちゃできる。面倒見のいい綺麗なお姉さん。完璧主義。




