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貞操逆転世界でも俺には関係ない!〜自分らしく生きてたら、どこに行っても愛される〜  作者: ビーム


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13/23

葛藤

〜東海林 司目線〜


私は、優が家族を遠ざけるようになった日を明確に記憶している。だって、私との喧嘩が原因だから。

あの日から優とはまともに会話をしていない。謝ろうと思って声をかけても目も合わせてくれなかった。

幼い頃も小さな喧嘩は度々あった。でも、次の日になればいつも通りだった。


しかし、あの喧嘩は違った。もう取り返しがつかないということは、あ(・)の(・)言(・)葉(・)が私の口からこぼれてしまった瞬間に理解した。やってしまったと思った。今も優のあの時の表情は忘れられない。口から溢れた音が今でも耳にこびりついている。


喧嘩の弾みに出てしまったあ(・)の(・)言(・)葉(・)。絶対に口にしてはいけない言葉。

でもどうしたらいいかわからなかった。この心のモヤモヤをどこに吐き出すべきなのか。


優が自殺を試みたと知った時、罪悪感で押しつぶされそうになった。

なんで無理にでも優と話をしなかったのか。

なんで本心を隠して、ただ優を傷つける言葉を投げてしまったのだろうか。

私がなんとかしなくてはいけなかった。優を救えたのは、傷つけた本人である私だけだったのに。


いつも笑顔のママが見たこともないほど取り乱していた。

それを見て、私のせいなんだと家族にも言えなかった。

ああ、なんて私は醜いんだろう。


優が目を覚ましたと聞いた時、心底安堵した。帰ってきたら、全て打ち明けて謝罪しようと思った。

記憶を失ったとママから聞いて、動揺した。でも、関係ない。優は優だから。


そんな決意はあっさり砕かれた。

帰ってきた優は私が謝るべき相手とは違っていた。まるで別人だった。

言葉が出ないほど衝撃だった。記憶を失うとはこんなにも残酷なのか。

ママは嬉しそうな顔だった。生きていてくれればそれだけで十分と思っているのがわかった。

でも、私には受け入れられなかった。


しかも、謝るべき私が、あろうことか謝罪された。心配をかけてごめんと。


違うの。あなたは何も悪くないの。

私があなたを自殺にまで追い込み、家族との記憶の全てを奪ってしまったの。

お願いだから私に謝らないで。


帰ってきた優は、ママにもお姉ちゃんにも明にも優しかった。もちろん私にも。

家族の一員になろうとしているのがわかった。

家族のみんなも前を向いていた。また家族として1から始めようとしていた。

でも、そこに私が含まれていいわけがない。

いくら優が帰ってきたと言えども、私が一度家族を壊した事実は消えない。


優が帰ってきてからの初めての夕食。お姉ちゃんが作ってくれた料理は味がしなかった。

優になんと声をかけて謝罪しようか。何も覚えていない優に。そんなことを考えていた。

優はずっとソワソワしていた。本当に初対面のように落ち着きがなかった。


私は逃げてしまった。リビングにいると息ができない感じがした。

わかっている。許されなくてもいい。記憶が無かろうが、すぐにでも謝るべきだ。

なんで私は同じ過ちを繰り返そうとしているのだろうか。自己嫌悪が止まらない。

私は自分が許せない。


なんとか私は重い腰を上げてリビングに戻った。

そこにはママとお姉ちゃんが優に抱きついている光景があった。

優は困った顔をしていたけど、二人のことを受け入れていた。


謝罪しようと思ってリビングに戻ったのに、その光景を目の当たりにして頭が真っ白になった。

私は醜くも嫉妬したのだ。そこはかつて私の場所だったのにと。

本当に自分が嫌になる。

嫉妬のせいなのか自分への苛立ちなのか、自分の気持ちがわからない。

最悪なことに、それが態度に出て、リビングからまた逃げ出した。


私はさらに自分に失望した。まだ、私は優のことが好きなのか。そんなこと許されないのに。

別人のように変わってしまった優でも関係ないくらいに彼に心を奪われている。

なんて未練がましい女なんだろう。

苦しい。許されたいと思っている自分が許せない。


お姉ちゃんが私の部屋に来て、私を励ましてくれた。

でも、それが一番きつかった。その愛は私にではなく、全て優に向けて欲しい。

私に心配される権利など無い。いっそのこと責めて欲しいと思った。

そうしてくれればどれだけ楽になれるだろうか。


お姉ちゃんはよく私のことを「司は、大人だね〜」なんて言う。

でも、それは違う。優の前だからいつも見栄を張っていただけ。ずっと背伸びをしていただけ。

優と喧嘩したのも、謝れないのも、私が子供だから。

私の時間はあ(・)の(・)言(・)葉(・)を発した瞬間に止まっている。

私はずっと子供のまま成長などしていないのだ。


その日の夜は目を閉じても眠れる気配はなかった。

気づけば朝になっていた。


今日こそはとリビングの扉を開けた。


お姉ちゃんと優は一晩でかなり距離を縮めたのがわかった。

今日こそは謝らなければいけないことはわかっていたのに、ずっと苛立っている自分がいた。

どうすればいいかわからない。また嫉妬している。そんな権利はないはずなのに。

この気持ちを抑える方法を教えて欲しい。


優は明とも上手く距離を縮めていた。昔から得意だった絵を描いていた。

その姿に私は嬉しくなった。そこには私の知っている優の面影が残っていた。

そして明を羨ましく思った。私も明くらい素直になれたらいいのに。


そんなことを考えていると、優が私に話しかけてきた。ドクンと心臓が鳴った。


「あ、あの。つ、つかささん?」


ショックだった。泣きそうになった。

昔の優は、私のことを司と呼んでいた。姉というよりも歳の近い友達のような関係だった。

それが私には心地よかった。もちろん家族としても接してくれてはいた。

その上で、その気安い関係はどこか特別なものに感じていた。


だからこそ、私には受け止めきれなかった。

また、苛立ちが態度と言葉になってしまった。

私は泣きそうなのを誤魔化そうと、あろうことか、優に暴言を吐いてしまった。

またやってしまった。私は何をしているのだろう。

自分でもわかっている。

私が家族のみんなと同じ立場になるなど許されるはずがない。

それでも、感情の整理がついていない私にとって、優から敬称をつけられたことはかなり応えた。


また、私は逃げ出した。

私はなんで変われないのだろう。

謝罪して、責められて、優の前から消えてしまばいいのに。

なんでそれができないのだろう。

優のことを好きにならなければ、こんなことにはならなかったのに。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

〜東海林 南目線〜


今朝の司はおかしかった。

優が記憶を失っているとわかっているのに、優に暴言を吐いたのだ。

でも、司はそんなに馬鹿じゃない。


司は昔から、悲しいことや辛いことがあると誤魔化すように強気な態度をとる子だった。


私は時間が解決してくれると浅慮した自分に怒りを覚えた。

司が優のことを大好きなのは知っていたから、今の優が司と関われば、自ずと元の仲の良い2人になると思っていた。

でも、事はそんなに単純じゃないと理解した。

司と話さなければ。私には司が助けを求めているように見えた。


かつて、優が変わっていく様をただ見ていただけだった。

男の子だからしょうがないと勝手に決めつけて、見て見ぬふりをした。

決して見てないふりしているつもりではなかった。でも、事実は違った。


もう二度と同じ過ちは繰り返したくない。

優は私に、悲しませないと誓ってくれたのに、私は何をしているんだ。


ママと優が外出した後、私は司の部屋へ赴いた。


司は泣いていた。自分を責めているのが見ただけでわかった。

その姿はあまりにも痛々しくて、なんと声を掛ければいいかわからなかった。


すると司は涙を流しながら、ベットにうずくまって掠れた声でつぶやいた。


「・・・ごめんなさい。・・ごめんなさい。全部私が悪いの。・・なのに・・・私は。」


私は大体察してしまった。

かつて、優と司に何があったのか。そして、司の今の気持ちも。

様々な感情が鎖となって彼女を縛り付けている。

どこに向けていいかわからない苛立ちや、後悔の念が苦しいほど伝わってくる。


司も本心ではかつてのように仲良くしたいのだろう。でも、自分自身がそれを許してくれない。

記憶のない優に謝罪をしても納得できない。


司はあらゆる感情を一人で抱え込んでいる。まだ16歳の子供なのに。

司を大人だなんていって、彼女のいつも毅然とした態度に私が甘えていたのだ。


それに責任は私にもある。

彼女の想いを知って、無責任にも優と結婚できるよと伝えたのは私だ。


司はどれだけの時間、自分を責めていたのだろうか。

私が見て見ぬふりをしている間、どれほどの葛藤を抱えて生きてきたのだろうか。

人を好きになるという事はとても素敵な事。でも、人が壊れてしまうほどの力を孕んでいる。


私にも彼女の後悔の一端を背負わせて欲しい。家族なのだから。

あなたをちゃんと見ていなかった私にもその辛さを分けて欲しい。


「・・・司。ごめんね。」


「なんでお姉ちゃんが謝るの!やめて!!聞きたくない!!」


司はベッドから身を乗り出して、大きな声で私を拒絶する。


「そんなこと言わないで司。私もあなたのことも優のこともわかってあげられなかった。ずっと2人を見てきたのに。」


「私が悪いの!私が優を追い込んだのよ!・・それなのに・・。」


「あなただけのせいじゃない。これは家族の問題。」


「私なんかもう家族じゃないのよ!」


家族じゃないと言われて、思わず司の頬を叩いた。


「それだけは言ってはいけない!家族みんなあなたのことを愛しているの!司がそれを拒もうが関係ない!あなたは死ぬまで私の妹なの!」


司は声を出して号泣する。小学生の子供のように泣き喚いている。

司がこれまで隠していた感情が溢れ出してきたのだろう。

この子は大人なんかじゃない。まだ16歳の女の子。

私はそんなことも分かっていなかったのか。


私は司を強く抱きしめる。


「司。前の優が戻ってこないのは寂しいよね。私も同じよ。でもね、幸運にも優は生きているの。まだやり直せるの。・・・それにね、私は優が昔と全くの別人だとは思っていないわ。なんとなくだけど、昔の優が今の優の中にちゃんと存在していると思うの。司はそう思えなかった?」


「・・・・グスッ・・・う、ううん。わ、私もそう思う。・・ッグ・・絵を描いている時、優だと思ったの。嬉しくなったの。でもね、その後司さんって言われて・・・・。耐えられなかったの。・・ッグス・・・許してもらえないのは分かってるのに、まだ好きで、仲良くしているお姉ちゃんに嫉妬したりして。もうどうしたらいいのか、わけがわかんないの・・・ッグッ。」


「・・・そっか。・・・つらかったね。・・・でも、お願いだから、そんなに抱え込まないで。私も司と同じで後悔しているの。司の優に対する思いを知っているのに、全て今まで通りに行くと思って、黙って見ていただけだったの。家族を好きになることがどれだけ難しいか、司の気持ちを想像もしなかった。」


司はしばらく私の腕の中で肩を震わせていた。

私も涙が溢れてきた。

この震えている肩にのしかかったものがどれほど苦しいものかわかった気がしたから。


「司、私たちも前に進まないとね。優が前向きに家族になろうとしているのは分かってるんでしょ?」


「・・ッグス・・うん。分かっているの。ずっと。顔を合わせた時から。・・・でも、今の優になんと謝ればいいの?許されないと分かっていても許してもらいたいと思っちゃうの。こんなのって醜いよ・・ッグス・・」


「司がここまで後悔して葛藤しているのに醜いなんて思うわけないじゃない。これは家族全員の責任。司が許してもらえないなら、私だって同じで許されないわ。それに、不適切なのを承知でいうと、優にだって責任はあると思うの。家族がどれだけ悲しんだか。優だってそれくらい想像しなきゃいけなかったと思うの。・・・だから、これからは家族全員で向き合っていかなきゃいけない。この後悔がなくなることなんて、この先、一生無いわ。でも、それが今、家族と向き合わない理由にはならないの。だから、今の優を受け入れるところから始めましょう。まずは司自身の心に整理をつけて、その後、ちゃんと謝りましょう。それでも遅くはないはずよ。」


しばらく司の泣いている声だけが部屋に響く。私と司は強く抱きしめ合っていた。

抱えているものを分け合うように。行き場のない感情を吐き出すように。


「・・・グスン・・・私も頑張る。」


司はまだ泣き止んだわけではないが、先ほどと違い塞ぎ込んでいる様子ではなかった。

本当に強い子。後悔も葛藤も一度飲み込んで、前を向こうとしている。


私はもう家族の少しの異変も見逃さない。大人になるまでこの子を守る。もちろん優も明も同じ。

私はこの家の長女だから。

最後まで読んでくださりありがとうございます。

ブックマーク、評価、リアクションが励みになっています。今後ともよろしくお願いします。


今回は司メインのお話でした。また、司と優の昔のエピソードもゆくゆく書いていきます。


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