7.服に着いた髪の毛
小学生の悠は、田舎に住むおじいちゃんが大好きだ。しかし、おじいちゃんは癌で死んでしまう。周りに愛され、周りから愛されたおじいちゃん。家族の愛を感じる、そんな涙が止まらなくなる物語。
最後に、僕がまだ生きてるおじいちゃんに会ったのは、亡くなる2週間ほど前だった。
母さんからは、
「先生が面会の許可を出してくれた」
とだけ聞いていた。どうして他の人はダメなのに、おじいちゃんだけ面会の許可がおりたのか。そんな事、考えもしなかった。ただ、両手に、大きく太いマジックで書いた手紙を持っておじいちゃんのお見舞いに行った。おじいちゃんは、お父さんの顔を見るなり、
「悠太まで、会いに来てくれたんか……。 うれしいのぉ~。ありがとのぉ~ 」
そう言って泣き始めた。父さんは、すぐにおじいちゃんの手をギュっと握った。
「もう、悠太には会えんと思いよたけぇ、うれしいぃ。みんなの事、よろしく頼むの。色々迷惑かけてごめんの」
「悠太、仕事で来れんかもしれんって言っとったもんね」
おばあちゃんが、ティッシュをおじいちゃんに渡しながら自分も泣き始めた。母さんも、ティッシュを1枚取ると言った。
「悠、渡す? 」
そして、僕に手紙を渡すように合図した。
「おじいちゃん、これ! 」
僕と妹達が次々に差し出した手紙を、おばあちゃんが代わりに受け取り、お礼を言った。
「あとで、ゆっくり読ませてもらうけぇーね。ありがとね」
「う、うん」
ベットのすぐそばにいた僕が、1歩下がろうとすると、
「悠! 悠! 髪が付いとるど! 」
おじいちゃんは、急にそう言って、僕を手招きした。ビックリしながら、キョロキョロと自分の服を見ると、真っ白なシャツに、母さんのらしき茶色がかった髪の毛が1本付いていた。
「よくこれが見えるね~ 」
母さんは、笑いながら髪の毛をとってごみ箱に持って行く。起き上がれないほどの体調なのに、僕に付いた1本の髪の毛を教えてくれた。気付かないフリしたっていいのに。
「じゃあの、元気でやるんど! 」
帰り際、ベットに寝たままの弱々しいおじいちゃんが、左手を少し上げながら僕達に言った。
「うん、じゃあ、また来るからね」
僕は、おじいちゃんの手にいつものようにタッチして別れの挨拶をした。いつものおじいちゃん家のベットでは、右手でタッチしていたから、僕は病院のベットでもおじいちゃんの右側に立とうとした。だけど、たくさんんの機械が並んで、そこからおじいちゃんに線がたくさん繋がっているものだから、それはかなわなかった。
父さんと母さんも、おじいちゃんの手を握ってから、病室を出た。廊下を歩いていると、おばあちゃんが小走りで追いかけてきて、父さんに深々とお礼を言っていた。
おじいちゃんにとって、父さんも本当の息子だったに違いない。そんなに思われてる父さんが、すごくうらやましい気がした。
病院を出ると、僕は急に涙が止まらなくなった。悲しい、怖い、可哀想、辛い。いろんな感情が溢れ出した。
「悠、大丈夫? しんどかったね」
「うぅ、うぅ……」
涙もどんどん溢れてくるし、言葉にできない感情に押しつぶされる。母さんが、僕に気付いて僕をギュっと抱きしめて泣いた。
漠然と、
「おじいちゃんは、もうすぐ死んじゃうのかな? 」
そう感じてはいたけど、僕はその事を口に出す事はしなかったし、誰にも確かめなかった。葵はまだよくわかっていないようだったから、話したい気持ちをグッと堪えた。それに、母さんにだけには絶対に聞いちゃいけないって感じていた。だって、
「おじいちゃん、死んじゃうの? 」
って聞いたら、母さんはすごくつらい顔で、無理やり笑顔を作るって分かってたから。自分のお父さんが死にそうなんだ。辛いに決まってる。
それでも、僕や葵、桜の前では、頑張ってお母さんでいようとするんだ。自分が泣いてふさぎ込んでたら、子供達まで悲しい思いさせてしまうって考えている。
だから僕は、なるべく理解していないフリをしないといけない、そう思っていた。
益々涙が止まらなくなった僕と母さんは、先に歩く父さんや妹達から、かなり遅れて駐車場へと戻った。僕にとってこの日が、まだ生きてるおじいちゃんと会えた最後の日になった。
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