6.癌の再発
小学生の悠は、田舎に住むおじいちゃんが大好きだ。しかし、おじいちゃんは癌で死んでしまう。周りに愛され、周りから愛されたおじいちゃん。家族の愛を感じる、そんな涙が止まらなくなる物語。
おじいちゃんの61歳の誕生日の3日前、僕たち家族はおじいちゃんに会いに行った。
僕は、自分のプランターで育てたブラックベリーを入れて、母さんと妹達と一緒にバナナケーキを焼いて持って行った。
でも、この日はなんだかおじいちゃんの様子がいつもに増して悪いようで、おばあちゃんや母さんが、病院に行くように促していた。おばあちゃんは、部屋にいるおじいちゃんの様子を何度も見に行きながら、僕らとのどこか上の空のような会話をした。
「何日も便秘じゃしね、昨日くらいから腸が詰まるような感覚があるんだって。念のため、病院行こうって言ってるんじゃけどね。絵美子ら来るし、休日じゃけぇまた平日に行くってきかんのよ。痛みもあるはずなのに」
「だめよ。また手術になったら怖いじゃん。うちが言ってくる! 」
母さんは、ベットから起き上がれないおじいちゃんと話をしに行った。しばらくして、おばあちゃんが病院に電話したり荷物を準備したり、大人たちがバタバタと慌ただしく動きき出した。
おじいちゃんは、おばあちゃんと慎くんに支えられながら、苦しそうに廊下を歩いて僕の目の前を通りすぎて行った。僕も靴を履き、急いで外に出ると、誰の車でおじいちゃんを病院まで連れて行くか話してた。
「広い車の方が、お父さん楽じゃないですか? 」
父さんが車をあけ、シートを倒している。
「母さん、午後から仕事よね? うちらで、病院まで乗せてこうか? 」
「でも、長くかかるじゃろーし、何時に帰れるかわからんのよ? 子供らもおるし」
母さんとおばあちゃんが話してるそばで、おじいちゃんが、少し声を荒げて言った。
「母さんが連れてってくれーいや! 早よ車出してくれ! 」
それを聞いたおばあちゃんは、
「はい、はいっ」
そう言うと、さっと自分の車を出して、おじいちゃんの真横に移動させた。きっとおじいちゃんは、僕らに迷惑をかけたくなかったんだ。おじいちゃんは、そういう人だから。
「絵美子、戸締りだけお願い! 」
「わ、分かった! とりあえず、連絡あるまでここで待機しとくけぇ」
おばあちゃんと母さんが話し終わると、
「せっかく来てくれたのに、すまんの。ちょっと行ってくるけぇーの」
おじいちゃんは、車の助手席で、右手を少し上げて僕らみんなの顔を順番に見るようにして言った。
僕は、おじいちゃんに何も声をかけれないまま、走り出そうとする車を見つめていた。すると、
「あ、父さん、誕生日おめでとう! 肌触りのいいTシャツ見つけたけぇ、中に置いとくね」
母さんは、慌てたようにプレゼントの箱を手に取って、走り出そうとする車を止め、おじいちゃんにプレゼントを見せてた。
「こんな時に慌てて見せんでも……」
僕も含め、周りにいたみんながそう思ったに違いない。母さんは、気が動転していただけ、あの時は僕もそう考えていたけど、違ってたんだ。だって、僕が次にそのプレゼントの箱を見たのは、おじいちゃんの棺の中だったから。
結局おじいちゃんは、1度もプレゼントのTシャツを着る事なく死んでしまった。
もしあの時、おじいちゃんを呼び止めていなかったら、おじいちゃんのために選んだ61歳のプレゼントは、一生渡す事ができたかったかもしれない。母さんはこの時、おじいちゃんの死をどこかで覚悟していたに違いない。
僕らは、急にがらんと静かになったおじいちゃんの広い家で、母さんが作った昼ご飯を食べて、庭で遊んだりしながら時間をつぶした。
父さんは、暗いムードを振り払おうと、率先して僕と妹達と野球をしながら盛り上がった。母さんは、ただただ連絡を待ちながら、僕らの様子を動画で撮影していた。そして、おやつの時間が過ぎる頃には、母さんのスマホに連絡があった。
「とりあえず、このまま入院になるから、もう帰って大丈夫だってさ」
母さんはそう言うと、飲みかけていたコーヒーを飲みほし、食器を洗って、帰り支度を始めた。
後になって分かった事だけど、この時には取ったはずの癌は再発し、もう他への転移も見られたそうだ。末期がんでもう、手の施しようがなかったらしい。
僕らは何も知らず、相変わらずたわいもない動画をおじいちゃんに送っていたけど、自分の力でスマホを手に取る事は難しくなっていたそうだ。それなのに、母さんは毎日、どんな気持ちで僕らの動画を撮影していたんだろう。
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