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5.緊急手術とキャンプ


小学生の悠は、田舎に住むおじいちゃんが大好きだ。しかし、おじいちゃんは癌で死んでしまう。周りに愛され、周りから愛されたおじいちゃん。家族の愛を感じる、そんな涙が止まらなくなる物語。




2020年、8月21日。

朝、いつものより少し早く目覚めると、母さんの姿がなかった。代わりにいつも寝てる母さんの布団で、父さんが寝転がってスマホを見ていた。


「母さんは? 」


僕は、起き上がると同時に父さんに聞いた。


「おじいちゃんの病院行っとるけど、もうすぐ帰って来るって」


「病院? なんで? 」


「夜中に、おなか痛くなって、緊急で腸の手術受ける事になったんと」


「おじいちゃん、大丈夫なん? 」


「もう、手術も無事終わったみたいやし、心配ないって。まだ朝早いし、もう少し寝てもええよ」


父さんは、僕の腕をつかむと、布団に座らせた。


「キャンプ、行かれん? 」


こんな時に聞いちゃダメって分かってたけど、僕は我慢できずに父さんに聞いてしまった。


「母さんは、予定通り行けるって言っとったけど……。ちょっと帰って来てから、また母さんと話してみるけぇ」


父さんは、まだ寝てる葵と桜に布団を掛けなおしながら小さな声で話した。僕は、また布団に横になり、ギュっと目をつぶった。


この日のキャンプは、僕達家族が、2ヶ月前から楽しみにしていたものだった。何日も前から、玄関先には少しずつ荷物が準備されていき、父さんと僕で昨日のうちに大体全部の荷物を車に積んでいた。先週は、買いたてのタープを張る練習もしたし、夏休みの絵日記だって、キャンプの事を書こうと思っていた。


何度か行った事のあるキャンプ場で、ロープを付けて高い木の上を渡る、ツリーアドベンチャーや、川遊びを楽しみにしていた。本当に、本当に楽しみにしていたんだ。僕は、おじいちゃんが心配な気持ちと、

「なんでこんな時に病気になんてなるんだ」

そんな決して言葉には出していけないと分かる感情で、頭の中がかき乱された。僕の固く閉じた目からは、涙が溢れ出た。


次に目を開けた時には、キッチンで誰かが忙しそうに動く音が聞こえた。


「母さんだ! 」


僕は、急いで起き上がる。葵と桜は、まだ寝ていた。急いでキッチンに走って行ったが、母さんを目の前にした僕は、言葉が出てこない。


「……。」


母さんの目は、赤く充血しまぶたも腫れていた。きっと一睡もしてない。それでも、炊きあがった熱々のご飯で、キャンプ用のおにぎりを大量に握っていた。

僕は昆布が好きだけど、葵と桜は鮭とシーチキンしか食べない。父さんと母さんは梅が一番好きなんだって。家族5人それぞれにおむすびの具にも好みがあって、海苔の巻き方だって違って、それなのに母さんはみんなの好みに合うようにたくさん握るんだ。母さんの手は、湯気の出る熱々ご飯で真っ赤になっている。


「おはよう。そろそろ2人起こして準備する? 」


母さんが先に、いつも通り何事もなかったかのように僕に声をかけたから、僕も閉じていた口が、言葉を変えて開いた。


「おじいちゃんは? おじいちゃんは大丈夫なん? 」


「うーん、 腸に食べ物が詰まって、お腹痛くなっちゃったんだって。夜中に手術して、今は落ち着いてるけど、また当分ご飯食べれんのんだって。また2週間は入院らしいけぇ、キャンプから帰ったら、お手紙書こうね 」


「キャンプは、行ってもいいん? 」


僕の顔を見た母さんは、優しく微笑むと、お米と塩の付いた両手をいっぱいに広げたまま僕にハグをした。きっと僕は、不安そうな顔をしていたんだと思う。


「楽しみにしてたもんね。おじいちゃんの手術は無事終わったし、病院におるけぇ安心じゃろ? おばあちゃんも楽しんでおいでって言っとったよ」


「そっか。じゃあ、準備する! 」


僕は張り切って顔を洗うと、妹達を起こし、ぐずりそうになる桜をなだめながらトイレへ連れて行った。


「ママがいい~。ママぁ~」


桜は、補助便座に座ったままぐずり始めた。


「ママは、キャンプの準備で忙しいんじゃけぇー、行くの遅くなるじゃろ! 」


いつもの母さん役をやろうとするが、僕じゃ上手くいかなかった。結局、いつもみたいに母さんの出番。1階で慌しくしてると、しばらくして父さんが2階からゆったりと降りてきた。


父さんは、いつでものんびりマイペース。そんな中、せっかちな母さんが慌ただしく動き回る。僕の知る限り、父さんも母さんも、お見舞いに行くまでおじいちゃんの事は葵と桜には話していなかったと思う。だから僕も、2人には何も言わなかった。



キャンプはすごく楽しかったし、夢中で遊んだ。ツリーアドベンチャーでは、木の上の高いところで葵が泣いて動けなくなったけど、僕は全然平気だった。確かに怖いところもあったけど、たまに下にいる母さんと桜に手を振ったりもできた。


でも、夜キャンプファイヤーをしてる時、何度かおじいちゃんの事を思い出して気持ちが沈んだ。おじいちゃん家からもらってきた焚き木が、たまにパチパチと音を立てながら、よく燃えていたからだった。


僕らは、夏休み中におじいちゃんのお見舞いに行った。


「なんと、痛かったかいや。よう噛んで食べんと、じじみたいになるけぇーの」


おじいちゃんは、そう言って笑っていた。1ヵ月でおじいちゃんは退院したけど、また11月に同じように病院に運ばれ、手術を受けた。この時には、


「胃の手術を受けてるけぇ、腸の働きも悪くなってるんだって」


母さんからそう聞いただけで、お見舞いには行く事ができなかった。日本でもコロナウイルスが流行し始め、緊急事態宣言中でお見舞いが制限されていたからだ。おじいちゃんの入院中、僕達は毎日学校に行く前、庭で短い動画を撮影しておじいちゃんに送った。どれもたわいもない内容で、


「今日は、学校で体育がありまーす」


「庭で、ブルーベリーが三つ収穫できましたー」


「朝から、桜がおしっこ漏らしましたー」


とか、そんな程度の動画だった。それでも、おじいちゃんは僕達の事大好きだから、きっとこれを見て元気になってくれるんじゃないか。僕はそう思っていた。



少しでもお楽しみいただけましたでしょうか?

よろしければ、ページ下★★★★★

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