3.おじいちゃんの持病
小学生の悠は、田舎に住むおじいちゃんが大好きだ。しかし、おじいちゃんは癌で死んでしまう。周りに愛され、周りから愛されたおじいちゃん。家族の愛を感じる、そんな涙が止まらなくなる物語。
おじいちゃんは、関節リウマチという持病をもっていた。数年前から徐々に症状は進行していき、桜が生まれた頃には、腕に上手く力が入らなくなっていたそうだ。
僕や葵を抱っこして、嬉しそうに笑うおじいちゃんの写真はいっぱいあるし、僕の幼稚園の運動会にも来てくれた事がある。
恥ずかしがり屋だけど、僕達をいろんな所へ遊びに連れて行ってくれたし、一緒に釣りだって行った事がある。
それなのに、いつからか顎の痛みで柔らかい物しか食べられなくなり、膝の痛みで自由に歩けなくなった。大工の仕事も思うようにできなくなり、外に出かける事がほとんど無くなっていった。
何でもできて、頼りになるスーパー物知りおじいちゃん。そんなおじいちゃんの元気が無くなってきているのは、僕にも分かった。
近くの病院には通っていたようだけど、症状がどんどん悪化していくため、僕の母さんが、無理やり予約し、車で2時間のリウマチ専門医まで行く事になった。おじいちゃんは、みんなに迷惑をかけるからと、頑なに遠くの病院へ通うことを拒否したけど、春休みで、僕らを近くの総合公園に連れて行くからと、何とか一緒の車に乗せて病院まで連れて行った。
「今日はごめんね~早起きじゃったろー? 」
朝7時前には、畑で採れた野菜を持って、おじいちゃんとおばあちゃんがうちにやって来た。
僕はちょうど、庭の小さな畑で水やりをしていた。先月、おじいちゃんにもらったスナップエンドウの苗は、みるみる大きくなって、もうすぐ花が咲きそうだった。
「おはよー。じじは? 」
「まだ車に乗っとるよ」
母さんも出てきて、慌ただしそうに玄関先に出て野菜を受け取った。
「中に入るのしんどいみたいじゃけぇ、そのまま絵美子の車に乗ってもいいかいね? 」
出勤準備中のお父さんも、出てきて挨拶をしていた。おじいちゃんは、申し訳なさそうに、お父さんとおばあちゃんに支えられて、僕んちの車に乗り込んだ。肩を抱きかかえられたおじいちゃんが、いつもより小さく見える。
母さんは、早く車に乗るように僕と妹達を急かすと、片道2時間の道のりを走り出した。車内での母さんとおばあちゃんは、妙にハイテンションで、僕らもつられて車内で歌を歌わされた。
栗を育てているおじいちゃんのために、桜は覚えたての「大きな栗の木の下で」を歌う。おじいちゃんは、1番前の席をギリギリまで後ろに下げていたため、僕の足は窮屈で仕方なかったが、おじいちゃんの笑い声がよく聞こえてきた。
「じゃぁ、終わる頃にまた電話するけぇーね」
おじいちゃんを連れて、おばあちゃんが病院の前で車を降りた。
「悠! 桜よう見ちゃりーさいよ」
おじいちゃんが僕に言った。僕は公園に着くと、おじいちゃんの言いつけ通り、桜に付いて回った。
もうすぐ2才の桜は、何にでも興味を示して走り回る。そのくせ、よく転ぶもんだから、ついて歩く方がヒヤヒヤさせられる。体は大きいくせに小心者の葵は、
「ママ~、これ一緒にやろ~ 」
なんて言って母さんを独占し、僕と喧嘩になったりもした。
朝早いため、春休みと言っても山の上はまだ寒く、僕達は1時間ほど遊び、それから病院近くのショッピングモールの本屋さんで時間をつぶした。それから母さんは、おむすびやパンを買い、おじいちゃんが好きなハンバーガーもテイクアウトしてから、病院に迎えに行った。
「待ち時間が長いんじゃけぇ~ 」
おじいちゃんは、疲れて文句を言いながら車に乗り込んだ。
もうお昼ご飯の時間だし、僕らはご飯を食べて帰りたかったけど、おじいちゃんは外食が嫌いだから、帰りの車で買ってきた物を食べた。
帰りの車の中は、行きと違って途中から静かになった。遊び疲れた葵と桜が寝て、僕も目をつぶって眠りに落ちそうだった。
「かなり数値悪いみたい…… 」
「悪化するスピードを緩めるしかないって」
そんな話し声が聞こえたが、僕は寝たふりをするしかなかった。後になって分かった事だけど、おじいちゃんは、決して外食が嫌いな訳ではなかったらしい。まともに動けない自分を連れて、店に入るのも大変だろうし、一緒にいる家族が変な目で見られるのが申し訳ないと感じていたようだ。歯も悪いおじいちゃんは、
「外で食べると、入れ歯がすぐ洗えんけぇ、いけんいや! 」
そう言っていたけど、この時にはもう顎の痛みが出ていて、外食が嫌いなフリは、おじいちゃんなりの強がりだったんだ。
それ以降、僕らがその病院に付いていく事はなかった。僕も学校が始まったし、葵も幼稚園に行く。お迎えもあるからと、1か月後の通院からは、おばあちゃんの車で通っていた。胃がんの手術を受けてからのおじいちゃんの持病は、日に日に悪くなっていった。その原因は、体力や筋力の低下はもちろん、思うようにリウマチの薬が服用できなくなったからだった。
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