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2.残酷な知らせ


小学生の悠は、田舎に住むおじいちゃんが大好きだ。しかし、おじいちゃんは癌で死んでしまう。周りに愛され、周りから愛されたおじいちゃん。家族の愛を感じる、そんな涙が止まらなくなる物語。





僕が小学4年生、2020年、2月3日、月曜日のこと。この日は、おじいちゃんとおばあちゃんの35回目の結婚記念日だった。


お風呂場から、誰かと話す母さんの声が聞こえる。母さんは、たまにおばあちゃんや、友達と電話をする事もあったが、夕方の忙しい時間に長電話をしているのは珍しかった。リビングで宿題中だった僕は、なかなか終わらない電話が気になり、様子を見に行った。


「どうしたん? なんで、泣いてるん? 」


僕は、お風呂場で隠れるようにしてすすり泣く母さんを見つけ、思わず声をかけた。手にはスマホを握りしめたままで、僕が来る前に慌てて電話を終えたように思えた。


「だっ、大丈夫! よし、お風呂入れよーっと」


母さんは、お風呂のスイッチを押し、僕の前から逃げるように2階へと上がって行った。五分後に降りてきた母さんは、まったくいつもの母さんで、手には2階から持って降りた、ストック分のティッシュペーパーが握られていた。母さんは、二か所のティッシュペーパーを補充すると、


「悠、先お風呂入ってくるねー 」


僕にそう言うと、足早に妹の葵と桜を連れて、お風呂へと向かった。母さんの涙は何だったのか、僕はすごく気になった。それでもいつも通り振る舞う母さんを目の前にして、涙の理由は聞けずにいた。


その日の夜だった。和室で布団を並べて寝ている僕に、母さんが小さな声で話しかけた。


「まだ起きとる? 」


「うん……」


僕は、妹達が母さんに絵本を読んでもらっている間、自分で本を読んでいた。


「じじね、癌っていう病気になってしまったんだって。今から、入院して検査したり、手術したりね、色々バタバタすると思うけぇ……」


「うん」


「葵と桜には、まだ言わんでいいけーね、心配するじゃろーし」


母さんの声が、少し震えているように感じた。僕は、母さんの方を向くのが怖かった。母さんが泣いている姿は見たくない。可哀想だし、何って声をかければ正解なのかがわからないから。それでもゆっくり目をやったが、母さんの顔は、寝ている妹に遮られ見えずにすんだ。


2020年、2月25日、おじいちゃんは、胃癌の手術を受けた。

手術当日、母さんは朝早くから忙しそうに準備をしていた。朝ごはんの他に、大量のお弁当、朝からカレーのにおいが部屋中に立ち込めた。


この頃には、妹達にもおじいちゃんの病気の事は知らされ、手術前の日曜日、病院にお見舞いにも行った。点滴につながれてはいたけど、僕らに豪快に笑って話すおじいちゃんの顔が、


「なんだ元気じゃないか」


そう僕に思わせた。



「手術がんばってね! 」


「早く治して、また一緒にあそぼうね! 」


僕と葵は、書いてきた手紙を読んで渡した。この時まだ2歳だった桜なんかは、この状況を、到底理解しているとは思えなかった。


「パパ、カレー冷蔵庫に入れてある。昼のお弁当は出したままにするよ。もし遅くなったらお風呂とご飯お願いね! 着替えはまとめて置いとるけぇ」


「わかった。また連絡して」


父さんが、膝に桜を抱きかかえながら答えた。この日、父さんは仕事を休み桜の子守り、母さんは、僕らと同じ時間に家を出た。大量のお弁当は、おばあちゃんや慎くん、達ちゃんの分らしい。食べないと心配だからと、母さんなりの気遣いだ。


僕が夕方帰えると、母さんはもう家にいて、先に帰った葵の宿題を見ていた。


「母さん、おかえりー」


思わず、そう言った。


「おかえりじゃない、ただいまでしょ!」


母さんは、僕の髪をクシャクシャっと撫でた。


「…… 。」


僕は母さんを下から見上げ、母さんが話し出すのを待った。すると、


「じじの癌、ちゃんと取れたけど、胃も全部無くなっちゃったんよ。でも、無事終わったけぇ、またお見舞い行ってあげようね」


母さんが、僕の表情を見ながら言った。


「胃が無いって事は、もう何も食べれんのん? 」


横で聞いていた葵が聞いた。


「食べれん訳では無いんよ。ただ、食べられる量が減ったり、消化の悪い物は食べれんかな」


僕は、それを聞いて安心した。だって、おじいちゃんはどちらかと言えば太っている方だし、テレビで太った人が胃のバイパス手術を受けるのを見たことがある。なんだ、癌も取っちゃったなら、それと変わらないじゃんって、その時の僕は、単純にそう思った。


「そっかー良かった。じゃー、また、母さん一緒にバナナケーキ作って持って行こうやぁ」


僕らは、笑顔を母さんに向けた。この時、安心したように、嬉しそうに微笑む僕らを見て、母さんはどんな気持ちだったんだろう。


僕も含め、僕も妹達もまだまだ子供だ。世の中の事だって、病気の事だって何も知らない。まして、自分の親が、子供に心配さすまいとつく嘘を見分けれるほど、頭だって心だって成長していないんだ。


いつだってそう。おじいちゃんが、母さんの前で強がって笑うのも、母さんが本当は辛いのに、僕に笑顔を見せるのも、大切な家族を思っての事。


そして嘘を嘘だと気付いても、気付かないふりで笑顔をみせる。そうやって大切な家族は繋がって、お互いの心を守りあっているんだ。



少しでもお楽しみいただけましたでしょうか?

よろしければ、ページ下★★★★★

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