第十一話 一夜を共にする二人
*午前2時に直也と優子は、旅館を見つけ2人で入る。
301号室の鍵を空けると6畳の部屋に布団が別々に敷いてあった。
窓際には、向い合わせの椅子と真ん中には、テーブルがあり、小さな冷蔵庫があった。
優子が直也君ビールで言いと言われて冷蔵庫からビールを取り出した。
コップを2つテーブルに準備して、向い合わせの椅子にお互いに座り、ビールの栓を抜こうとした時に優子が、直也君に話があるんだけど、いいかな?と言われた。
飲みながらと言ったら、優子が飲む前にどうしても聞いて欲しいと言われた。直也は栓抜きをテーブルにおいて優子の方を見て話って何?と問いかけた。
<優子>
・話と言うのは……。
少しだけ間が空いたあと、優子は椅子に座り両手を自分の膝の上において、
真剣な表情で「直也君私と付き合って」下さいと告白された。
<直也>
・え?俺と?(直也は驚いた)
<優子>
・私真剣です。お願いします。
<直也>
・ごめんなさい。優子さんの気持ちに答えてあげることは、俺には出来ません。
……だから、ごめんなさい。
<優子>
・付き合えない理由って何ですか?背が小さいから? 私の事嫌い?
<直也>
・優子さんの事は、嫌いではないですよ。それと背が小さいから? とかは関係ありませんよ。私が付き合えない理由は、優子さんにはきつい言い方になると思いますが、元彼と別れて日が浅いのに、あっちがダメだから俺と言うのはどうかと思うし、それに結婚まで考えた人と別れたばかりなのに、俺と付き合いたいって?何で?と普通なら思いますよ。俺だったらそんなに器用じゃないですし。
<優子>
・確かに直也君からそう言われる事は、私も予測はしていたよ。元彼と別れて日が浅いのは事実だよ。でも自分の気持ちに嘘付くことだけは嫌なの。今すぐでなくてもいいから、少し考えて貰えない?考えてもらう事さえ私には許されないの?
直也君からみたら、軽い女と思われるかもしれないけど、人を好きになるのに、時間の長短や理由ある?私は直也君が好きなの。
<直也>
・優子さんから告白されて、素直に嬉しいです。でも付き合うかどうかの返事は、少し考えてみますけど。ですが答えは変わらないと思いますけどね。
<優子>
・返事は、少し時間おいてから下さい。飲みながらもう少し私の話し聞いてよ(と言いながら、ビールの栓を開けて、ビールをついで飲み始める。直也も飲む。)
私ね。直也君が晴美と付き合っているときから羨ましいと思っていたし、それに元彼の事で、相談するうちに直也君への気持ちが強くなったのも事実だよ。今日余計にその気持ちにスイッチが入って、何言われても、絶対離したくないと思ったの。
<直也>
・今日スイッチが入った?ては?神社に行くときの優子さんはいつもの優子さんとは違うと俺感じてはいました。
<優子>
・正直車の中で、寝てしまったでしょ?別れてからは、精神的にかなり辛かったし悲しかったのは事実だった。でも直也君がそばに居てくれていると思ったら、凄く安心したし気持ちが穏やかになれて寝れたんだと思う。神社に行くときも寒くてポケットに手を入れても無言で温めてくれる優しさを肌で感じたら、私の心のスイッチが入って、直也君に私の気持ちを伝えようと決断させたの。それに後悔だけはしたくない。人は誰でも自分が可愛いいし、傷付きたくもないから守りに入る。大事なのは、自分の今の気持ちに正直になる事だと私は思うから。私ね。人より背が小さいからこそ、誰にも負けたくないのよ。この気持ちは直也君には分からないよね?
<直也>
・優子さんのように小さくないから、正直気持ちは分からない。分からないけど、小さいとあまり気にし過ぎではないの?
<優子>
・直也君が逆な立場で私だったら、気にしないの?
<直也君>
・俺が優子さんの立場で背が小さかったら気にすると思う。
<優子>
・でしょ?人事だから、気にし過ぎだとか平気で言えるのよ。直也君そんなの優しさじゃないから。私がどんな気持ちで背が小さい事と向き合って生きてきたかわからないでしょうね?私だって1人の女性で、恋愛して結婚して好きな人の子供を産んで、ごく普通の結婚生活を夢みて何が悪いの?それが、手の届く寸前まで来て破局。こんなテレビドラマのような事ある?しかも私の友達の彼に相談して、その直也君を好きになって告白して振られるなんて、私ほんとついてない。
(優子は飲むペースが速く酔ってきている様子)
<直也>
・気に触ったのなら、謝ります。ごめんなさい。結構酔いまわってきているようだから休もうよ。
(優子の酔って来た姿と直也も運転と疲れから酔いが回り起きているのが辛い)
<優子>
・直也君先に休んでいいよ。私もう少しだけ1人で飲んでから休むから。
<直也>
・優子も心配ではあったが、限界を感じていたので、先に休むからと言って布団に入った。
(布団に入り5分もしないうちに熟睡してしまう)
*時間は過ぎて、時計の針が8時をさした時、部屋の電話がなった。
枕の上にある電話の受話器を右手で取るとフロントからで、9時にはチェックアウトして欲しいとの電話だった。
電話を切った直也は、自分の姿を見て驚く。それもそのはず、自分の左手で腕枕して優子が脇で寝ていた。しかも2人も下着をつけておらず。
直也は、いったい何が?あったのか?一線越えたのか?全然記憶がなかった。
きっと優子もかなり飲んでいて覚えていないだろうからと思い、そっと左手の腕枕を外して、優子が起きる前に着替えをすませて、直也は、1階のフロントまで行って、散歩してくるから、8時半に部屋にモーニングコールして優子を起こして欲しいと伝えて、旅館を出た。
あのまま部屋に居て、どんな状態で一夜を過ごしたかを目が覚めたときに俺の前で確認したら、優子が困ると思い、直也は、8時45分頃に部屋に戻ろうと考えて、旅館の近くの公園で時間を潰した。
公園のベンチで朝の状況を考えたが、いくら考えてもなぜあんな状況になっていたのか、直也は、思い出す事は出来ず、優子と会ったら何て話そうか、悩んだが結局結論はでず、一線を越えたのかも分からず、分かっているのは、優子に腕枕して電話で目が覚めた現実だけだった。
そんな事を考えていたら、チェックアウトの時間が迫って来たので、直也はなるようになれ! と思いながら、旅館に戻った。部屋に戻ると優子は、着替えも終っていた。
<直也>
・優子さん「おはよう」
(直也はドキドキしながら優子に声をかける)
<優子>
・直也「おはよう」昨日飲み過ぎたみたいだよ。
(何もなかったかのように、笑顔で優子は話す)
<直也>
・そうなの?体調悪くないの?
(直也は、今朝のあの状況を優子はどう思っているのだろう?しかし聞く勇気もないし、もし覚えてないならそれはそれでいいけど、でもあの現状見たら、何も無かったとはいえない状況だし。正直動揺はしていた)
<優子>
・体調は大丈夫だよ。もうチェックアウトの時間だから、フロントに行って精算しようと言われた。
(何も無かったかのように振る舞う優子が逆に気になる直也である)
*精算を終えた2人は、車を停めてある駐車場へ歩いて向かった。
タクシーではすぐだったが、歩くと意外と遠く20分はかかりそうな距離だった。歩いていると優子が直也君と声をかけて来た。
そしたら優子が昨日と一緒で、左手のポケットに手を入れてきた。すると優子から、拒否しないでね。これが最後かもしれないでしょ?直也君と一緒に歩くのが……。
直也は、何も言えず、昨日の事も聞けず、それにこれが最後?と言われて余計分からなくなってきて、無言で駐車場まで2人で歩いていった。
駐車場に着いて、優子の自宅まで送ろうとした時に、優子からあることを伝えられる。
優子は、直也に何を伝えたのか?優子の思いは、直也に届くのであろうか?
この2人に導かれる道は、どんな道になるのだろうか?
恋愛は自由で誰にでも幸せになる権利はあると思う。
恋愛の自由とは人を愛する事。
矛盾だらけの世の中。自分のことは触られたくないくせに他人の事となると面白おかしく平気で語る。
人を好きになる事、愛する事は、世間の荒波に耐えお互いが全てを相手に捧げ、どんな事をしても愛した相手を守ることこそが、本当の愛と思う。
さてこの2人は、今後どんな展開になっていくのだろうか?