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僕はゼネラルマネージャーになって、プロ野球の世界で夢を叶える  作者: 柿井優嬉


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WBC編④ 不安

 日本の第二戦。その相手は台湾代表だ。

 台湾は、かつては日本、韓国に次ぐ、アジアでは三番手くらいの位置だったが、力をつけて、今では韓国と肩を並べ、日本を含んでの三強と言っていい実力がある。今の日本のチーム状態で果たして大丈夫か? と不安に感じた国内の人も少なくなかったろう。

 しかし、日本時代に最高のサウスポーとも言われ、メジャーリーグに活躍の場を移し、戦った二年で連続の二桁勝利をあげた矢代さんが、強力な台湾打線の前に立ちはだかり、なんと任された六回をフォアボール一つだけでヒットは与えない圧巻のピッチングをしてくれたのである。球数制限がなく、最後まで投げていたら、ノーヒットノーランを達成した可能性はかなりあったに違いない。

 結果、四対一で無事に勝つことができた。

 続く三戦目は、オーストラリアとの試合だった。このゲームも、先発の神戸スピアーズに所属する内村さんが素晴らしい投球をしてくださったおかげで、ヒヤリとする展開は訪れず、七対一で勝利。我らが日本代表は、三連勝できたうえに、打線も徐々に上向いてきて、チームの雰囲気はだいぶ明るくなった。

 だが一方で、茂木の調子は相変わらずだ。終了した三戦で、ヒットはわずかに一本。良い当たりも見られるから、そこまで深刻ではないと感じるけれども、東京ラウンドで最後に相まみえる宿敵の韓国、そして決勝ラウンドではさらなる強豪国との勝負が控えているのを考えると、茂木が打つか打たないかは非常に大きく、不安が残る。

 そして今日は、他の四チームによる対戦のために、日本の試合は行われない。練習も全体でのものは見送られたが、茂木はやるというので、元チームメイトの俺が付き合った。

 引き締まった顔つきで、黙々とバットを振り続ける茂木。さすがのすごいスイングだ。大丈夫、こいつは必ず復活してくれるだろう。

 トレーニングを終え、部屋へ戻ろうとすると、練習している最中とは違い、また茂木の表情が暗いと感じた俺は、声をかけた。

「なあ、元気出せよ。やっぱりあれか、キャッチャーをやりたいんだろ?」

「はあ……まあ、それは仕方がないですが、こんな状態で試合に出るのはチームに迷惑をかけてしまうので、監督に話してスタメンから外してもらおうかと思ってるんです」

「え? おい……」

 すると、そこに町田さんが現れた。

「茂木。投げるから、ボールを受けてくれ」

「え?」

 突然登場しての、有無を言わせない感じのその言葉に、俺たちは黙って視線を交わすと、茂木が町田さんに答えた。

「でも、それなら試合で受ける西園寺さんのほうが……あ、いや……わかりました」

 そうして、町田さんの放る球を、きちんとキャッチャーの防具を身につけた茂木がミットで受けとめるのをくり返した。

 しばらくすると、町田さんが再び口を開いた。

「ありがとう。じゃあ、次はお前の番だ」

「え? ……はい」

 今度は、町田さんが近い距離からワンバウンドのボールを投げて、フォークボールなどで外れた位置に行ってしまった球をキャッチャーが後ろに逸らさないように止める練習を行った。

 ずいぶん長かったけれど、ようやく終わると、町田さんは茂木に話しかけた。

「うん。問題ないな。本番もしっかり頼むぞ」

 それだけ言って、引きあげていってしまった。

 取り残された格好の茂木に俺は近づいたが、まったく気づいてないようなぼんやりとした表情をしている。

「おい……」

 すると、茂木は我に返った感じになって声を発した。

「すみません、馬場さん。さっきの言葉は撤回します」

「え?」

「町田さん、はっきりとは口にしませんでしたけれど、自分がスタメンから外すように監督にお願いするというのをおそらく聞いていて、『違うだろ』と伝えてくださったんだと思います。『それは逃げだ。負けるんじゃないぞ』って」

「……うん、そうだな」

 確かに、茂木が解釈した通りの気持ちだったんだろう。

「見返すじゃないですが、監督にキャッチャーを任せてもらえるように、それが駄目でも打つほうで貢献できるよう、練習します」

 茂木の表情に力がみなぎった。

「よし、じゃあ、もうちっとばかり、続けるか?」

 俺は問いかけた。

「はい!」

 それから、俺がキャッチャーフライを打って、茂木が捕球するといった、キャッチャーの練習を中心にやった。

「さてと。もう上がろう」

「はい」

 そして部屋に戻ろうとした俺たちの目が、あるものを捉えた。

「何をしてるんですか? GM」

 桜井さんが、壁に貼りついたような状態でいたのだ。

「あ、いえ、ちょっとなんか汚れてたので、掃除でもと思いまして」

 ……。

 俺と茂木は顔を見合わせて吹きだした。

 この人も町田さん同様に、茂木が心配で、離れたところからずっと見ていたんだろう。別に隠すことでもないのに。

 まあ、茂木は今やスーパースターだから、プライドを考えて、弱ってるところを目にしていないように装う気遣いをしたんだろうが。

 ほんと、人の善い桜井さんらしいや。


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