WBC編① 召集
ある日、俺、馬場龍太のもとに、電話がかかってきた。
「どうも、桜井です。日本代表のメンバーに選びましたので、よろしくお願いします」
「わかりました」
今は、日本のプロ野球の一年間の戦いが終了してオフの、年末なのだが、来年の三月に、野球の国際試合である、WBCが行われる。その日本代表の一員に俺がなったという連絡だ。
俺は現在、所属する北信越ロケッツで四番を任され、今シーズンは初めてホームラン王のタイトルを獲得した。ゆえに、代表に呼ばれるのは確実な情勢だったので、冷静に知らせを受けた。
もちろん光栄であり、嬉しいのは間違いない。しかし、大会に向けて、これから大変だ。日の丸を背負うだけで重責だけれども、ご存じの通り日本の皆さんのWBCへの期待は異常なほど大きいうえに、日本代表は直近の三大会で優勝をつかめず「次は絶対に頂点だ」というムードが国内じゅうで高まっているのだ。
それを実現させるのに、まず何より監督が大事と言っていい。そのために、OBにするか現役にするかを含め、検討に検討を重ねて選ばれたのが、阿久津監督という方である。
桜井ゼネラルマネージャーがペナントレースの途中から監督を務めた翌年に復帰した大野監督のもと、我らがロケッツは、杉森圭吾さんが活躍した時代以来、実に久しぶりとなる、悲願の日本一になった。
そして次の年も、日本一こそ逃したものの、リーグ連覇は成し遂げた。
その状況で、低迷していた北海道オーシャンズの監督に就任したのが阿久津監督だった。彼は、現役のときは特に守備力に定評があった名キャッチャーで、引退後はロケッツが属するトラディショナルリーグとは異なるエマージングリーグのチームで監督を任されて好成績を残したという実績が元々あったのだが、オーシャンズでの一年目からロケッツら強豪球団を抑えてリーグ優勝を達成した。捕手というポジションからイメージされる通りの、頭脳明晰といった印象の人だ。
しかし、負けずにその翌年はロケッツが優勝を奪還。けれど、その次である今年はまたもオーシャンズがリーグ制覇と、ここ四年はロケッツとオーシャンズが一年ごと交互にトラディショナルリーグの頂点の座を手に入れている状態にある。
ともかく、負けが許されない今回のWBCで、現状監督として日本の球界で最も力があると思われている阿久津監督に白羽の矢が立ったのだ。
ただ、阿久津さんは現在オーシャンズの指揮を執っている身であり、代表まですべてを託すのは負担が大きいとの判断から、メンバーの選定は、こちらも弱小だったロケッツを優勝の常連にした手腕により高く評価されている、桜井GMが行う運びになって、今しがたメンバーに選出した俺にそのことを伝えたというわけである。
「電話、桜井さんからか?」
今日はロケッツでともにレギュラーを張っている安永さんと顔を合わせる機会があり、そう声をかけられた。
「ええ。安永さんは?」
「俺にも来たよ。まあ、精神的にはきついが、やりがいもある。頑張ろうな」
「はい」
俺たちは握手を交わした。
確かに安永さんの言う通りだ。ロケッツでの日本一も最高に嬉しかったが、WBCでの優勝は世界一であって、また違った、格別と表現できるくらいの喜びを味わえるだろう、やりがいは大いにある。
それに、頼もしいチームメイトと一緒にプレーできるのも楽しみだ。同じくロケッツでともに戦かっている、日本の現役ナンバーワンピッチャーの町田さんに、メジャーリーグに乗り込んだ二年間でどちらの年も二桁勝利をあげた矢代さん、毎年コンスタントに活躍してタイトルも獲っている鷲本さんと内村さんなど、素晴らしい投手陣に、打つほうも、三年前に首位打者と最多安打に輝いた安永さんや、今年三割三十本百打点の西園寺さんといった具合に、充実している。
なかでも、去年日本のプロ野球で三冠王になってポスティング制度を利用して移籍し、今季メジャーリーグ一年目だった茂木は、新人王だけでもすごいのに打点王まで獲得して、MVPの投票で三位となり、早くもメジャー球界の顔の一人なのだ。そんなあいつも大会の参加を表明し、選ばれるのは確実だ。
茂木には悪いけれども、あいつに、日本どころか世界から視線が注がれて、プレッシャーが集中するのは間違いないから、風よけにさせてもらって、俺はおいしいところをいただくことにしよう。
日が経ち、WBCのためのキャンプを迎えた。メンバーみんなと顔を合わせ、一致団結していこうという流れのなか、ちょっとした事件が起きた。
監督の阿久津さんが、当然茂木が担うものだと日本の野球関係者やファンの誰もが考えていた正捕手に関して、次のように発言したのである。
「私は、打つほうはともかく、キャッチャーとしての能力は茂木よりも西園寺が上だと思っているので、レギュラーは彼に任せるつもりです」




