日本シリーズに向けて
我らが北信越ロケッツと日本シリーズで対戦するチームは、こちらもアドバンテージの一勝を含んでのスイープ、要するに負けなしの四勝〇敗で、またもや神戸スピアーズとなった。去年まで三年連続で日本一の最強軍団である。
スピアーズの監督は広瀬さんという方だが、彼も父親が元プロ野球の一流選手だったので、マスメディアに「二世対決」と騒ぎ立てられてしまった。広瀬さんはプロ野球でプレーしたのに対し、僕なんて、選手の実績はゼロだから、二世を名乗る資格などないというのに。
その広瀬監督が、シリーズ開幕を前に受けたインタビューで、このように発言したのだ。
「大野監督の貢献も大きいとはいえ、GM時代を含めて、あのロケッツをここまでのチームにしたのだから、桜井監督が優秀であることに疑う余地はありません。ただし、彼はどうも情に流されるきらいがある。シーズン中、先発投手を簡単に交代させなかったのは、勝ち星をできるだけつけさせてあげたかったからだと聞きましたし、プレーオフですら、町田くんを勝ち投手の権利が手に入る五回まで投げさせた。ペナントレースでは信頼関係を築けるメリットがあるかもしれませんが、短期決戦においては仇となりかねない。そこが、うちが勝つための狙い目でしょう」
僕は、「ええ?」と、納得できずに首を傾げた。
先発陣に長い回を投げてもらったのは、確かに彼らに勝ち星がつけばいいと思ったけれども、成長のためや、リリーフピッチャーたちの登板過多を防ぐのがメインだったのだ。それに、町田投手を五回まで投げさせたのは球数が少なかったからであって、多い場合は三回や四回でも代えていた。プレーオフまで勝利投手にならせてあげたいなどとは、さすがに少しも思わなかったよ、と。
が、すぐに、「危ない、危ない。あれは僕の心を乱す作戦だ」と気がついた。うちの選手たちを挑発すると、「何を! 覚えてろ!」と気持ちを奮い立たせて、逆効果になってしまう可能性が高いけれども、若輩者で、監督経験も浅い僕は、それこそ広瀬さんにとっての狙い所。優秀と持ち上げてはいたが、実際はウイークポイントと見ているのだろう。
何があろうとも、平常心で戦わなくては。
そう気を引き締めたのだが、その広瀬監督の言葉が、予言のように僕にのしかかってくるのだった。
「監督、お話が」
投手コーチの相川さんに言われて、僕は耳を傾けた。
「町田が、ひじの具合が良くないようなんです」
「え? 痛むということですか?」
「はい」
「それは、いつから?」
「シーズンの終わりくらいかららしいです」
「……そうですか」
町田投手は当然ロケッツが日本一になるための大事な戦力だ。プレーオフ同様、初戦を任せる気でいた。
多少の痛みなら、性格から考えて、おそらく彼は黙っていた。相川さんや他の誰かが違和感を察知して尋ねたのだとしても。
これは……悪い予感がする。
そして、町田投手は病院で検査を行ったのだが、異常は発見されなかった。
しかし、だからもう心配は解消されたということではない。あくまで見つからなかっただけで、後になって深刻なケガだと判明するケースも少なくないのだ。
「どうしましょうか?」
日本シリーズに向けての、コーチたちとのミーティングで、高岡さんに町田投手の起用について問われた。
痛みは、ずっと変わらず、かなりあるとのことで、ペナントレース中であればファームに落として様子を見るのが妥当と思うけれども、目の前に控えているのは日本シリーズである。彼はエースであり、診断じょう問題がないのであれば、投げてもらうのが大半の監督が下す判断だろう。
「うーん……ちょっと時間をください」
「わかりました。ただ、町田に限らず、先発を任せる投手は全員、登板日に向けての調整がありますので、できるだけ早いご決断をお願いします」
「はい」
僕はうなずいた。




