内野手 馬場龍太の話
俺には野球しかなかった。
バカだし、しゃべるの苦手だし。他のスポーツも、下手まではいかないものの、たいして能力はない。
ホームランを打つと、見ているみんなが喜んだり興奮してくれるのが嬉しかった。なかでも、やっぱり母ちゃん。
しかし、野球で……だけじゃないかもしれないけれど、プロでやっていくには、賢くなきゃ駄目なんだって。
それでも、親孝行するにも、人並みに生きていくにも、やっぱり野球しか自分にはない。
だから、とにかくバットを振った。打てるようになるのは素振りが最も大事で、人の何倍もやったつもりだ。
その成果か、どうにかプロ野球選手になることはできた。が、話に聞いていた通りで、プロは、投手の投げるボールがすごいものあるけれども、それ以上にピッチャーやキャッチャーはみんな頭が良く、手玉に取られて、ファームでさえいまいちの成績だったから、一軍ではとても通用しそうになかった。
たまにホームランは打っても打率は低いし、守備は下手くそだし、人見知りで愛想は悪いしで、ロケッツのファンにすらあまり応援してもらえなかったのだ。
だけど、このチームの人たちは俺に良くしてくれた。
担当スカウトで結果が悪いときも優しく励ましてくれる村越さんに、一軍のコーチから二軍に降格になったのに熱心に指導をしてくれた長谷さん、いつも寄り添う姿勢で接してくれる大野監督、そして桜井GMは、俺が戦力外候補の上位だったのに選ばないでくれたらしい。
チームメイトも、ポジションを争うライバルでもあるし、そんなにべたべたした態度はとってこないが、他の球団だったらもっと嫌われていただろう。なかでも、山神さんはしょっちゅう話しかけてくれる。
「お前は本当にたくさん練習するよな。それに守備も、苦手でもDHにしてくれと要求したりせず、上達するように真面目に取り組んで、偉いよ。守備はできて当然って感じがあるから、下手だと怠けてるみたいに思われて、チームのファンにまでブーイングされたりで、きついんだよな。俺も得意じゃなかったからよくわかる。ま、こんなふうにお前のことを褒めるのは、守備が上手くなれるよう諦めないでいてくれてるおかげで、俺がスタメンを外されなくて助かってるからなんだけどな」
山神さんは、かつては内野手だったけれどもエラーが多くて外野にコンバートさせられ、年齢が上がってきて現在は指名打者専門となっているのである。
そして、今回のプレーオフで、俺は重要なエラーを何度もしてしまい、最終戦で三度も三振をしたりと、チームの足を散々引っ張っても、温かい声をかけ続けてくれた。
「大丈夫だ」
「落ち込んでる暇はないぞ」
「次で取り返せ」
九回表、ツーアウト・ランナー一塁で、打席に向かう前にも——。
「絶対にお前につなぐからな。後は頼むぞ」
同点スリーランも、決勝のタイムリーも、山神さんや大野監督たちが打たせてくれたようなものだ。
俺なんかのために、皆さん、ありがとうございます。
もっと打てるように、さらに努力します。




