ドルフィンズとの日本シリーズを懸けた戦い
プレーオフの最終決戦であるドルフィンズとの試合は、どちらか四つ勝利したほうが日本シリーズへ進むのだが、リーグ優勝した向こうに一勝のアドバンテージが与えられ、しかもすべてをこちらは敵地でプレーするといった具合に、かなり不利な条件となっている。
ただし、一回戦を勝ち上がった勢いがロケッツにはあるのだ。
それを返り討ちにするには、横綱相撲と例えられるくらい充実した戦力があればというところだけれども、以前に述べたようにドルフィンズは金銭的に恵まれた球団ではなく仁科監督の采配が頼りな面が大きく、付け入る隙は多分にあるために、我がチームは攻守ともに躍動した。
一戦目を四対一、第二戦は六対二というスコアで連勝して、二勝一敗となり、一気に日本シリーズ行きを決めそうな雰囲気に包まれたのだ。
が、次のゲームは、セカンドの馬場選手が大事な局面でエラーをしてしまったことが響いて負け、二勝二敗のタイとなった。
どちらかが必ず王手をかける結果に至る第四戦は、乱打戦になり、もつれたが、うちがどうにか打ち勝って、九対七で大きな三勝目を手にした。
さらに五戦目も終始リードをして進行したことで、さすがにこのプレーオフの勝敗は決したかと思いきや、またしても馬場選手が守備で失策を犯したのがきっかけとなって逆転され、三勝同士で、翌日の試合で決着する運びとなったのだった。
そして迎えた大一番の第六戦。大野監督は馬場選手を先発から外すのではないかとささやかれたけれども、変わらずスターティングメンバーで起用した。発奮するのを期待したのだろう。僕も彼はきっとやってくれると考え、それで良いと思った。
しかし、気持ちが空回りしたのか、第一打席からの三回の打席すべてで三振を喫してしまったのだ。
「あー」
チーム全体の出来も悪く、ずっとリードを許す展開となり、一対四でこちらの最後の攻撃のイニングである九回表に突入して、三番安永、四番のジールという中軸の二選手が凡退し、追い込まれたのである。
駄目か……。
僕は頭にそう浮かんだが、まだ終わりではなかった。
五番の森崎選手がショートへの当たりを懸命に走って内野安打にすると、続く指名打者の山神選手が粘りに粘ってフォアボールで出塁し、七番の馬場選手に出番が回ってきた。
その初球——。
「うそ……ほんとに?」
ここで一発が出れば同点だとは思ったものの、「まさか、そんなにうまくはいかないだろう」との気持ちのほうが遥かに大きかったというのに、たったの一球でそれが現実になったのだ。まるで漫画のような光景で、嬉しさよりもびっくりが上回って、僕は茫然となってしまった。
派手にではなく、こぶしを握って喜びを噛みしめるような態度でホームに還ってきた馬場選手は、口もとを抑え、感動によって号泣と言っていい状態でベンチから出てきた大野監督と抱き合った。まるで何千里も離れていた母と子が再会したとでもいったように。
ただ、同点では足りないのだ。もしこのままで試合が終了して引き分けとなったら、もう一戦やるのではなく、シーズンの成績が上位だったドルフィンズが日本シリーズに進出してしまうルールなのである。
だが、延長の十一回に、またもや馬場選手が、今度はセンター前にタイムリーヒットを放って、五対四でロケッツの勝利となったのだった。
この勝ちが決まった瞬間も泣いていた大野監督は、選手やコーチたちに引っ張られてマウンド付近まで行き、みんなから胴上げされた。
「……」
僕も感激で涙を流して、言葉は出てこなかった。
「ありがとう、桜井くん。最高の思い出ができたわ」
「いえ、ロケッツを日本シリーズへ連れていってくださって、お礼を言うのはこちらのほうですよ。ありがとうございました」
少ししてから顔を合わせた大野監督と僕はそう言葉を交わし、そんなことを元担任の先生の彼女とするのは初めてだったけれども、どちらからともなく自然に、ハグをしたのだった。




