覚醒
「よーし!」
僕は、そう声を発し、ガッツポーズをした。
町田投手が、二者連続で三振を奪い、ロケッツの窮地を救ったのである。スピードもコントロールも、過去の一軍の登板では見ることができなかった、実に素晴らしい、彼本来のボールだった。
僕が気がついたのは、彼の表情がこれまでよりも生き生きとしていたという点だ。そして、あの見事な球。気持ちが入っていたからこそで間違いないだろう。
大野監督が、マウンドからベンチに戻ってくる町田投手を、まるでファンの若い女性のようなはしゃいだ態度で迎えた。
それに対して、彼は心から感謝しているのが伝わる、深いおじぎで応じたのだった。
後で聞いたところによると、大野監督と町田投手はこういったやりとりを行った。
「今後は中継ぎで投げてもらうことになったから」
その監督の言葉に、彼はいつもと変わらぬポーカーフェイスでうなずいたという。
「わかりました」
大野監督は続けた。
「打たれてもいいなんて口にするつもりはないわ。そんな本心でないと見抜ける台詞を聞いても、あなたの気は楽にならないでしょう。でも、これだけは話しておく。あまり考えすぎないで、目の前のバッターを抑えることだけに集中して。野球を始めた少年の頃の気持ちを思いだしてほしいの。何かでいつ野球ができなくなるかもしれないんだから、思いきり楽しんで投げてよ。私が言えるのはそれだけ」
町田投手からこれといった返答はなかったそうだし、彼女のその言葉のみで良い変化に至ったわけではないのだろう。二人が出会ってから、大野監督は毎日のように彼に声をかけ、耳を傾け、気遣っていたのだ。町田投手はいつからかわかったに違いない、「この人は信じられる」と。
そして、この会話の後、彼は自らメンタルコーチにアドバイスを求めにいったようである。
何か、吹っ切れたか、つかんだのだと思う。




