町田投手は活躍できるか
町田投手は、観客も取材するマスメディアも限られた二軍の試合では、実力通りの圧倒的なピッチングをする。
ところが、一軍でマウンドに上がるとやはり重要な場面で打たれてしまい、勝ち星を得られぬまま、一軍と二軍を行ったり来たりとなっている。
一方、ドルフィンズでは、今年の新人から渡辺彬嗣という外野の選手が、代打や時折起用されるスタメンで、そこそこの結果を一軍で出している。しかも、彼は町田投手と社会人野球でチームメイトだったのだ。その獲得と起用も、町田投手を焦らせて心を不安定に陥らせようとの意図がある、東城GMと仁科監督の策略に違いない。
く~、東城さんは本当に厄介な人だ。
それよりも、メンタルに原因があるのは確実だと思うけれども、町田投手は試合中もそれ以外のところでもこれまで述べたようにしっかりとした態度なのだ。普通は心に課題があれば、ピンチになったら表情が弱々しくなったり動作がせわしくなるなどして、はっきり見てわかるものなのに。
加えて、大野監督やメンタルコーチたちが話しかけても、変わらず「大丈夫です」といった答えしか返さないのだという。
どう対処すればいいのか、僕も監督たち現場の首脳陣も手をこまねいているのである。
「どういうことなんですかね? 町田投手は」
僕は大野監督に訊いてみた。
「真面目なのよ、とにかく。見ていての印象、それに育ってきた環境を踏まえても。多分間違いないと思う」
「はあ……」
確かに彼は、父親は健在だけれど人間性に問題があるようで、四人きょうだいの長男として家族を支える立場であり、野球に関しても才能があるので幼い頃から常に大黒柱の役回りと、大きな責任を背負い続けて今まで生きてきたのだ。
「にしても、うちのチームはメンタルのサポートが充実してるから入ってきたはずなのに、相談しないというのが解せないんですが?」
「そういうものよ。安心したいから支えてくれる存在がいたほうが良いけれど、いざ頼っていいときに行動に移さない。不器用とも言えるし、誰かに気持ちでも何でもずっと委ねられなかったから弱音の吐き方がわからないんでしょうね」
「どうしたらいいんでしょう? 駄目なところをさらけだしてくれれば、こっちも対応策を用意できるように動けるのに」
「そうねえ……」
さしもの優秀な教育者だった大野監督も、腕を組んで考え込んでしまった。
「中継ぎに配置転換するのはどうかしら?」
それから少しして、大野監督がコーチたちといるときにそう口にした。
「それで一軍の試合の大事な場面で投げてもらうの」
対して、コーチ陣の反応は芳しくなかった。
「しかし、彼はロケッツのエースになってもらうべき選手ですので、先発から外すのはちょっと……」
「プライドが傷ついて、もっと精神が不安定になってしまうかも」
「中継ぎのほうがヒットやフォアボールも許されない状況は多いですから、プレッシャーが大きいですし」
そういった声があがった。
「それに——」
僕も、僭越ながら意見を言わせてもらった。
「そこでも良い結果を残せなかったら、新人とはいえずっとメンタルのことで『プロでは活躍できないのではないか』と悩んできたのでしょうから、『やはり自分は無理なんだ』という境地に至ってしまうかもしれませんよ?」
「でも——」
大野監督は反論した。
「今のままでは、一軍と二軍を行ったり来たりが続くだけで、どうにもならないでしょう? やってみる価値はあると思うのよね」
すると、高岡さんが口を開いた。
「監督のご提案に賛成です。中継ぎの経験は後々必ず活きるはずですし、そんな程度でつぶれる人間では彼はないと私は思います」
大投手だった高岡さんのその発言で、みんな納得して受け入れる雰囲気になった。もちろん僕も。
それに、プレイヤーの実績が十分のコーチたちの反対があっても主張を貫いた、僕の尊敬する大野監督が、きっと町田投手を輝く方向へ導いてくれる。
そうして、町田投手は勝っている試合で使う中継ぎとして一軍に昇格した。
ぐえっ。
観戦している場所で、僕は体がのけ反った。
というのも、今日の北海道オーシャンズとのゲームの、三対三の同点で迎えた七回裏、ワンアウトでランナーは三塁と一塁という、かなり緊迫したピンチの状況で、町田投手は大野監督に指名されて登板となったのである。
なにも中継ぎで初めてのマウンドをこんな場面にしなくても。イニングの頭からのほうがいいでしょ——。
そう思ったけれども、わざわざ重圧がかかるシチュエーションを選んだわけではないのだろう。他の控えているピッチャーとの兼ね合いとか、巡り合わせでそうなってしまったのだ。
とにかく、頑張ってくださいよ!
「ん?」
僕は、手を組んで祈った後で、あることに気づいたのだった。




