東城GMとドルフィンズの監督
「な、何ですか?」
今日はロケッツとドルフィンズによるオープン戦があって、僕は北九州のホテルにおり、外へ出たところだった。ちょうど東城GMのことを考えていて、図ったようなタイミングでの登場に、僕はたじろいだ。
「何だよ、そんなおばけを見たような顔をしないでくれよ」
そう言って、彼は大きく笑った表情になった。
この人、年上に違いないとはいえ、知り合って間もないのに、ずいぶん馴れ馴れしいよな。まあ、うちの藤野オーナーでそういうのには慣れているけれど。
「近くに用があったから、きみに逢えるかと思ってさ。せっかく来たんだから、ちょっと話そうよ」
「はあ……まあ……いいですが」
そして、僕はコンビニで買い物をしたかったので、その往復の道中に、歩きながら言葉を交わした。
「すみません、ドラフトのことなんですが、あのときおっしゃった通りなんですよね?」
僕は問いかけた。
「ん?」
「町田投手をロケッツが指名するように私のもとにこっそりメモを入れて、それと引き換えにこちらが欲しかった選手を根こそぎといった具合に獲得なさって」
「そうだよ」
うわ、ずいぶんあっさり認めたな。いや、あのときもこっちはそんなこと全然知らなかったのに、わざわざ教えてくれたんだったけれども。
「もちろん単なる意地悪みたいな意図でやったんじゃないよ。これ以上ロケッツに強くなられたら困るし、ドルフィンズにとってもぜひ手に入れたい選手たちだったってこと」
「……しかし、町田投手はよかったんですか? 彼は本当に力のある選手ですよ?」
「まあ、それは企業秘密じゃないけれど、いろいろ考えて判断したとしか言えないな」
「そうですか……」
この人は町田投手についてどれくらいわかっているんだろうか?
「それにしても、去年のロケッツは見事だったよね。驚いたよ」
「……最終的には五位でしたが?」
「だって、ほんとその前のロケッツは弱くてさー。それをろくに補強せずにあそこまでにしたんだから、すごいって」
「あ、ありがとうございます」
「それに、僕がこの立場になれたのはきみのおかげなんだ。その意味でも敬意を表さずにはいられないよ」
え? 僕のおかげ?
「と申しますと?」
「ドルフィンズも、ロケッツほどひどい成績ではなかったとはいえ、優勝はずっとできてないじゃんか。僕は福岡出身で長年のドルフィンズファンで、自分が監督なら頂点に立たせられるのにって、ずっとイライラしてたんだ。そんなときにきみの話を小耳に挟んで、『そっか、ゼネラルマネージャーね』と思って、ドルフィンズに『自分をGMにしてくれれば一年で優勝させてみせる』って手紙を送りつけたんだよ。っていっても返事なんか来るはずないと考えていたのが、去年早い段階で最下位が確定的になって、よっぽど危機感を覚えたのか、『面談をします』って連絡をよこしてきてさ。だから、本当に今の地位に就けたのはきみのおかげなんだ」
「へー、そうなんですね」
「ただ、今言ったように、一年で結果を出さなきゃいけないから、遠慮する気はまったくないからね。開幕の三連戦に、今年のペナントレース、よろしく」
東城さんは右手を差しだした。
「……はい、こちらこそよろしくお願いいたします」
僕は応じて、握手を交わした。
そして、彼は帰っていった。
やっぱり、あの人が手強いのは間違いなさそうだ。昨年順位で上にいかれた四球団に加えて、ドルフィンズも侮れないぞ。
そのドルフィンズも、お金持ちの球団ではないゆえに、優秀な選手をフリーエージェントなどで次々獲得したりはしていない。
「でも、監督がなー」
僕はそう口に出してしまったが、今シーズン就任したドルフィンズの新監督は、名将として知られ、我らが北信越ロケッツでも指揮を執って二年連続の日本一に導いた、仁科雄造さんなのである。




