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僕はゼネラルマネージャーになって、プロ野球の世界で夢を叶える  作者: 柿井優嬉


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父の話でショック

 父親は元プロ野球選手でも、僕自身は単なる一般人なのだ。だから、まったく訳がわからない。

 ゆえに、質問を試みた。

「それは、いったい……どうして私なんですか?」

 社長の答えを聞く前に、プロ野球関係者の端くれとしてわかっているので、ゼネラルマネージャーについて軽く触れておこう。

 プロ野球に詳しくなくても監督の仕事はイメージできる人が多いだろう、先発や交代を誰にするかの選手起用や、普通に打つかバントでランナーを進めるかといった作戦など、試合で行うことを決めるわけだけれども、その前の段階の、球団の使える予算から、選手、監督、コーチたち、チームのメンバーを選定するのが、ゼネラルマネージャーの役割である。簡潔に述べると、かなり重要で偉い立場だ。

「今のロケッツのチーム状態は知ってるよな?」

 藤野社長は言った。

「はい」

 僕はうなずいた。

 長いこと弱小チームだった北信越ロケッツは、杉森圭吾さんという天才バッターが入団したのが大きく影響し、二年連続の日本一という栄光まで一気に上り詰めた。それは、ここピエロが親会社になったタイミングと重なる。

 しかし、これはまったくもって不思議で理由が定かではないのだけれども、杉森選手をトレードで放出すると、成績が、またもやものすごいスピードで、今度は反対に降下していき、現在は以前を上回るほどの低迷ぶりなのだ。

「それは、言ってみりゃ、わざとそう持っていったんだ。球団運営を始めた当時、冴えないチームを優勝させて、どんなもんだってな気分を味わいたかったんだが、あまりにもうまくいきすぎて、つまらなくてよ。杉森を手放して、前よりもっと弱く、どん底にして、そんでまた日本一になったら、世間の驚きは前回以上になるし、俺も満足できるだろうと思って、わざと負けるまでは八百長になるからさすがにしていないが、ほぼ放置でテキトーにやってたんだ。で、そろそろ力を入れる良い頃合いだと判断したんだけども、どういうチーム作りをすると面白いかって考えて、出てきたアイデアが、きみにゼネラルマネージャーになってもらうっつーことだったんだよ」

 社長は軽くせき払いをして、続けた。

「なんたって、あの桜井弘満の息子だ。ほんとは選手で活躍してくれるのがいいんだが、無理だから、じゃあGMならどうだ? って、思いついたというわけだ」

 父について詳しく述べる必要があるだろう。桜井弘満は、通算で二千安打と四百本塁打を記録した大打者だったのだが、成績以上に紳士的なプレイヤーとして絶大な人気を獲得していたのだ。とはいっても、僕はまだ生まれていなかったり幼かったりの時期で、その状況を体感は全然と言っていいくらいしていないけれど。

 そして父は、現役引退を発表して、本拠地でのラストの試合後には大々的にセレモニーを行うことが決まっており、注目が一層高まっていた、シーズンを終える間際というタイミングで、交通事故に遭って亡くなってしまったのだ。ゆえに、さらに人々に強烈な印象を残し、伝説的な存在となっているのである。

 ちなみに、GMというのはゼネラルマネージャーの略語だ。

「そりゃあ、客観的に見ると面白いんでしょうけれども、無理ですよ、私なんかにゼネラルマネージャーなんて」

 僕は答えた。

「んなことはねえだろう。知ってるんだぞ、きみが高校の野球部でマネージャーをやってたのを。だからこういう判断をしたんだ。いくらなんでも、野球をまったくわかってない人間をGMにはさせねえよ」

「いや、それは……学校の部活のマネージャーなんて、お手伝いさんみたいなものですから」

「……ふむ」

 藤野さんは、腕を組んで、何やら考えているようだ。

「じゃあ、やる気はないんだな?」

「はい……」

「その返事は、遠慮とかじゃなくて、本気と取っていいのか?」

 ……。

「はい、本気です。私にそんな大役を務められるはずはないですし、気持ちの面でも望みません」

「そっか」

 社長は、体を倒して、ソファーの背に寄りかかる格好になった。

「だったらしょうがねえな。野球人は山ほどいるなかで、彼の息子をチョイスするくらいだから、俺も世間同様に桜井弘満が好きだったんだ。あのタイミングで亡くなったから、今じゃキリストかってくらいに神格化されちまってるけど、ここぞって場面では闘争心むき出しの激しいプレーをしたり、時折見せる茶目っ気たっぷりな振る舞いなんかで、すげえ楽しませてもらったんだが、きみからは親父みたいなエネルギーが感じられず、ロケッツを面白くしてくれるイメージがわかないからな。しゃーねえから、諦める……おい、どうした?」

 え?

「あ、すみません、今、なんておっしゃられました?」

「いや、やけにぼーっとした顔つきになってたから声をかけたんだが、どうかしたのか?」

 ああ……。

「……あの、今の話は本当です……よね?」

「ん? 何のことだ?」

「私の父が、闘争心むき出しの激しいプレーや、茶目っ気たっぷりな振る舞いをしていた、という部分です」

「んん?」

 社長は眉間にしわを寄せた。

「ああ、本当だ。何だよ、知らなかったのか?」

 本当に? 驚きだ。

「はい。父が亡くなったのは私が小学一年生のときだったので、父自体の記憶は多少ありますが、野球に関してはほぼ皆無で。それに、周囲の人たちから聞かされるのは『きみのお父さんは人柄もプレーも素晴らしかったんだぞ』といった類の言葉ばかりでしたし、メディアで取り上げられるのもそういう人格者的なものしかないじゃないですか」

「まあ、確かにな」

「何だ……」

 僕は思わず天を仰ぐ体勢になってしまった。

「ああ、すみません」

「構わんよ。しかし、それがそんなにショックなのか?」

「はあ……立派な父の名を汚すまいと、今日までずっと心掛けて生きてきたもので」


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