突然の要請
「は?」
????????
訳がわからず、頭の中にいくつものクエスチョンマークが浮かび上がった。
僕の名前は、桜井道尋。現在、大学三年生で、就職活動中なのだが、まだ同じ立場の周囲に内定をもらってる者などいない時期だというのに、僕のもとに採用の通知が届いたのだ。
「何だ、自慢かよ」と思わないでほしい。なぜって、僕はどこの会社の最終面接にも到達していなかったし、何よりも、その連絡をくれた企業に一切タッチしていなかったのだ。
ところが、確かに自分の携帯の留守電に、僕を採る意思があるというメッセージが入れられていたのである。
詐欺か?
いたずらよりも、今のご時世すぐにそう思ったが、だからだろう、向こうは会社の電話番号を述べて、「嘘ではないのでお調べになってご確認のうえ、折り返しの電話をお願いします」と吹き込んであった。
そして、そこは有名なので、悪徳なところなのでは? といった、会社について調べる必要はなく、言うだけあって番号は合っていることが、ネットで検索して、今わかったのだ。
「どういうことだ?」
僕は改めて首をひねった。
ただ——まったく思い当たることがないかというと、実はあるにはある。本当にそれだと断定はできないけれども。
何にしろ、無視するわけにはいかないだろう。相手は誰もが知っているクラスの大企業で、放置すれば、大学に迷惑がかかり、きつく叱られてしまう事態にだって十分に至り得る。
というわけで、現在自宅にいる僕は、さっそくそこに電話をかけた。
「はい」
中年の女性らしき声が返ってきた。
「あ、すみません。私、能勢大学三年の桜井道尋と申します。私の携帯にお電話をくださったようなのですけれども」
「少々お待ちください」
ちょっとして、電話口に戻ってきた女性が言った。
「それでは、社長におつなぎいたします」
え? 社長? また述べるが、誰もが知っているくらいの大きな会社なのに?
焦った矢先、代わった男性がしゃべり始めた。
「あ、桜井くんか?」
「は、はい」
「びっくりしたよな?」
この人と言葉を交わすのは初めてだと思うが、口調がすごくフランクだ。
「はい。驚きました」
「俺は、社長の藤野だ。どういうことかは、会って説明するのでいいか?」
「……はあ、構いません」
断片的でもいいから事情を知りたかったけれども、大企業の社長だし、そう答えるしかないよな。
「じゃあ、秘書と代わるから、日時を決めてくれ。よろしく」
「よ、よろしくお願いいたします」
やっぱり、そう返事をするしかなかった。
そして、秘書なのだろう、交代した別の男性と話して、明後日の十五時に、僕はその会社「ピエロ」に足を運ぶことになったのだった。
「し、失礼いたします」
約束通りに訪れた立派な建物の会社で、迎い入れられた部屋は、ここまでの流れじょう多少は抵抗感が減るが、それでもやはり驚いてしまう、社長室だった。僕は声が上擦った。
座るように言われたソファーに腰を下ろして少しすると、二人の男性が入室してきた。どちらも見た目は五十代くらいで年配だ。
「よお。俺が社長の藤野だ。まあ、そんなに硬くなるなよ。って、なっちゃうか。とにかく、よろしくな」
やってきた二人でおそらく歳が上の、ちょっと怖い印象である、言っているのだから間違いないだろう社長が、電話のときと変わらぬ馴れ馴れしい言葉遣いでそのように口にした。態度もラフだ。
「よろしくお願いいたします」
僕は、もちろん彼に合わせて緊張を緩めたりなどせず、就活生らしくきちんとおじぎをした。
「そんで、こいつは球団社長の三浦な」
「よろしくお願いいたします」
紹介された隣の、こちらは社会人然とした真面目そうな男性も、僕と一緒で、礼儀正しく頭を下げた。
今、「球団社長」って言ったよな。ということは——。
「まあ、勘づいてただろうけども、きみに声をかけたのは、ロケッツに関することだ」
やっぱり……。
どういうことか説明すると、IT企業であるここ「ピエロ」は、プロ野球球団、北信越ロケッツの親会社なのだ。
そして僕は、有名なプロ野球選手だった、桜井弘満の一人息子なのである。
だから、くり返すが僕はこの会社の入社試験にエントリーすらしておらず、本当に話があるとしたら野球に関係することなのだろうと、確かに察しはついていた。
ただ、それにしたって、まだわからないことだらけだ。
「でだ——」
藤野社長は相変わらずのマイペースぶりで言葉を続けた。
「結論から先に言うと、きみに北信越ロケッツのゼネラルマネージャーになってもらいたいんだよ」
ええっ!
僕はびっくりして大声を出しそうになったのを必死に堪えた。
ど、ど、ど、どういうことだ????????
また僕の頭の中はクエスチョンマークだらけになったのだった。




