戦力外に関するトピック
何かあの東城さんという人に思いのまま操られてしまったようで、町田投手のうちへの加入も細工のようなものが仕掛けられていて駄目になるのではないかと心配になったが、それは問題なかった。
しかし、メモがあの人の仕業だったとすると、町田投手がロケッツに入団しても構わないと向こうは判断したことになる。彼を指名したのは誤りだったのだろうか?
まあ、過ぎたことを悩んだって仕方がないか。良かったか悪かったかは少し経てばはっきりしてくるのだし。
その東城さんにしてやられた感じのドラフト会議で、大きく影響を受けたプレイヤーがいる。我がチームで二軍暮らしをしている、馬場龍太選手だ。内野手で、ポジションはセカンドである。
彼はホームランを打てるパンチ力が魅力なのだけれども、逆に言えば長所はそれしかない。打撃も守備も器用さはないし、チームプレーを熱心にやる性格でもなく、寡黙で愛想がなくて観客にサインを書いてあげることも進んではまずしない。なので、首脳陣にも、他の選手たちにも、ロケッツのファンにも、あまり好かれていないのだ。大野監督は選手を全員自分の子どもや教え子のように扱うために彼にも優しいが、一軍の監督とずっと二軍にいる選手なので接する機会は限られている。
そして、球団が保持できる選手の人数は決まっているので行わなくてはいけない戦力外、より明確に述べるのであれば解雇にするメンバーの、今回の候補に挙がっていた。
「お願いします。もう少し我慢して見てやってください」
馬場選手の担当スカウトの、四十代の村越さんという方から、戦力外の決定を下す立場の僕は、そうお願いをされた。
村越さんも大野監督同様に人柄が良いのだけれども、自身の担当であることのみがその訴えの理由ではないようだ。
「あいつは、不器用なだけで、善い奴なんです。母子家庭で、『母親のためにプロで活躍して稼ぐんだ』と学生時代から人一倍練習していましたし、無愛想で家が貧しかったためにいじめの類のことを同級生らから散々されたのを、やり返したりせずにひたすら堪えて。そもそも嫌がらせをたくさん受けたせいで愛想が悪くなった感じもあります。遊びほうけたり、だらけたりしない、まっすぐな人間ですから、きっとそのうち花が開くと思うんです」
「そうですか」
そんなふうに言われて気持ちが揺るがないはずはない。とはいえ、他の選手たちだって、プロなのだから努力はすごくしているし、クビになれば本人も家族など身近な人たちもひどく落胆するだろう。
僕はスカウトの方々に人間性の良い選手を求めてはいるものの、それは自分勝手なプレイヤーは輪を乱してチームを弱体化させるおそれがあるのと、ファンに喜ばれない、それはつまるところ球団経営に影響するからということであって、個人的に善い人間だからとひいきするような行いをするわけにはいかない。
その点は監督とコーチたちも一緒だから、念のために村越さんの思いを伝えたけれども、みんな馬場選手を戦力外にするのもやむを得ないという態度だった。
しかし、僕は、現在のロケッツのウイークポイントである長打力を備えているところから、彼は残したほうが良いのではないかとの考えが膨らんでいたのだ。
ただ、ドラフトでホームランバッタータイプの選手を獲得できれば話は変わってくるし、指名はほぼいける計算だったのだが、そのプレイヤーをドルフィンズに奪われてしまったのである。
ということで、馬場選手への解雇通告は見送ったのだった。
そういった説明をしたけども、本当はやっぱりかわいそうだからあいつをクビにしなかったんだよ、お前は——。
誰だったかに口にされた言葉だが、そうなのだろうか? 確かに、僕も父絡みで周囲にいろいろ悪く言われたりした経験があるから、彼に同情心がないことはないけれども、自分としては肩入れなどせず冷静に判断したつもりだ。
何にせよ、この決定が後に大きな意味を持つことになるのだった。




