ライバル出現
「おいおい、またかよ」
「いったいどういうことだ? 盗聴されてるんじゃないか?」
僕たち北信越ロケッツの、ドラフト会議のテーブルについている面々から、そう声があがった。
予定通り、一巡目で町田達也投手を指名し、会場をどよめかせて、悦に入っていた我々だったが、それ以降は散々な事態が待ち受けていたのだ。
指名は、二巡目は今年の順位が下位だった球団からなされ、三巡目は反対に上位だったところから、四巡目はまた最下位のチームが最初という順番で、一巡目のみ希望が重なった場合にくじ引きをやって決め、以降は指名したらそのまま交渉権獲得となるのだけれども、今シーズンうちと代わって最下位に沈んだ北九州ドルフィンズに、僕らが二巡目と四巡目で指名しようと思っていた選手を取られてしまったのである。加えて、ドルフィンズが一巡目で選んだプレイヤーもこちらはできれば欲しかったので、三人もその一球団にかっさられたに等しい状況なのだ。
「ほんとおかしいですよ。想定とまったく違う」
自分たちが望む個人やポジションの選手を獲れるように、どの球団も他が誰を指名するかまでシミュレーションを行うものなのだ。予想外に上の順位での指名をされたために狙っていていけると踏んでいた選手を奪われるといったことも起きるものの、ここまでは普通あり得ない。本当にこちらの内部に事前に盗聴器が仕掛けられていたんじゃないかと疑いたくもなるレベルである。
がっくりきたけれども、落ち込んでばかりはいられない。
それよりも町田投手だ——。
まさか、これまでのお互いのやりとりで聞いていた話が嘘だったり、本人の気が変わったりなんてしていないだろうが、念のために確認をしないと。
そうして移動しようとした僕の前に、一人の男性が立ちはだかった。
「桜井GMですよね? 初めまして」
「え? はあ……」
誰だ?
「僕、ちょっと前に北九州ドルフィンズのゼネラルマネージャーに就任した、東城周祐といいます。よろしく」
その人は、おそらく僕より年上で、三十代ではないだろうか。背が高く、愛嬌たっぷりといった印象だ。
「ああ、こちらこそ、よろしくお願いいたします」
僕はおじぎして、あいさつを返した。
「すごかったね、今年のロケッツは。きみの力でしょ?」
「いえ、そんなことは……」
んー、もう行きたいんだけどな。
「またまたー。謙遜しなくていいですよ。それで……」
「すみませんっ。用事があるので、失礼してよろしいでしょうか?」
僕は仕方なく声を強めに出して言った。
「ほう、用事ですか?」
「はい。先ほど一巡目で指名した町田投手に、入団の意思の確認をしたいんです」
「あー、なるほど。そうですよね。よく獲得に動きましたよねー、あの町田くんを」
「はあ、どうも」
僕はそう軽く返事をして、東城さんの横を通り過ぎようとした。
すると彼は、体は動かさずに、続きの言葉を発した。
「偉いなー。あんな、誰が書いたかわかったものじゃないメモを信じて」
え?
僕は止まって、東城さんのほうへ振り返った。
「おかげでこっちはロケッツも欲しがっていた優秀な選手をたくさん獲れてよかったですよ。ウインウインじゃないかな?」
……嘘でしょ?
東城さんはニヤリとこっちに笑ってみせて、ドルフィンズの他のドラフト会議に参加したメンバーたちのもとへ行ってしまった。
「……」
僕は少しの間、彼の様子を、離れた位置から茫然と眺めた。
それが、来季にライバル関係となる、北九州ドルフィンズの東城GMとのファーストコンタクトだった。




