特別なコーチとペナントレースの行方
これまで語っていなかったが、僕は、プロ野球のチームで必須となっているわけではない、特別と言えるコーチも複数人採用しており、任務にあたってもらっている。
それは、メンタルコーチだ。
近年、他の球団でも導入されてきているけれども、僕はこのコーチ選びに一番時間と労力を使ったと述べてもいいくらい、日本じゅうを探して、適した人か見極めたのだ。
一般的にこのコーチを用意するのは、日本ではプロ野球の注目度が半端ではないこともあって、プレッシャーと隣り合わせの選手たちが、できる限り試合でリラックスし、本来の力を発揮できるようにという目的だろう。
もちろんそれも含んではいる。しかし、僕にはもっと重要な二つの狙いがあった。
以前藤野オーナーと指導のやり方の話になったとき口にしたように、心・技・体のすべてが大事だとの考えから、心は主に大野監督、技は投手や打撃のコーチたちが役割を担うなか、体にあたる部分への働きかけも必要で、一年間を乗りきるだけの基礎体力に加え、バッターだったらピッチャーが投じる速い球に負けないスイングスピードを身につけるといった野球における力量アップのために、たくさん練習を課すべきと思っていた。
とはいえ、選手たちに対して根性論で無理強いする時代ではもうない。数えきれないほどの回数の素振りなど、単調で飽きるし、当然疲れるので気が滅入る、地道で大量のトレーニングを前向きに取り組んでもらえるように、メンタルコーチのサポートが要るというのが一つ。
それから、プロ野球はドラフトという制度で弱いチームでも優秀な選手を獲得しやすいシステムになっているし、外国人選手による補強もできる。万年最下位だったロケッツであっても力のあるプレイヤーは元々何人もいて、だからこそ僕はフリーエージェントで大物を獲ったりしなくてもうまくやれば強くできると踏んでいたのだが、にしても、優勝となるとさすがに現戦力では厳しいと自覚している。
しかし、三位までに入ればプレーオフに進めるので、そこから日本シリーズ進出、そして日本一を成し遂げるのも決して不可能ではない。そのプレーオフと日本シリーズの短期決戦は勢いの比重が大きく、つまりは精神面がカギを握る。そこで勝つためのメンタルコーチというのがもう一つの理由だ。
我がチームは、今説明した通りたくさんの練習を、他球団を油断させるため、あまり表には見せないようにしながらやってきた成果だろう、マスコミや評論家たちの「ロケッツはそのうち失速してくる」との予想を裏切って、シーズンの中盤を越えても変わらず健闘し、勝率は多少の波はありながらも五割付近で、順位は三位か四位という、まずまずの位置をキープし続けた。
「やった、やった!」
今日の試合、同率三位対決となった、名古屋エレファンツというチーム相手に、二対五の敗戦が色濃い状況から、八回に打者一巡で五点を奪う逆転劇を演じて、七対五で勝利した。
この調子で、どうにか三位以内、頼みますよ、皆さん!
けれども——喜びはこのときまでだったと言っていい過酷な事態が待ち受けていたのだった。




