采配はどう振るっているのか
「采配のやり方は決まりましたか?」
少し話はさかのぼるが、シーズン前に僕は大野監督に尋ねた。
いくら彼女が野球について毎日一生懸命勉強し、教師であったほど賢くても、所詮は素人で、限界がある。選手起用や作戦をどうするか、彼女がすべて考えるのは現実的ではないだろう。
とりわけ、ゲームの最中だ。スタメンなんかは事前にコーチたちといくらでも話し合えば良いが、試合中の対処の仕方は前もって決めておかないと。
なので、僕はあらかじめこのように提案していた。①ヘッドコーチの高岡さんに一任する。②投手に関することはピッチングコーチ、打撃に関することはバッティングコーチと、担当コーチの案に従う。
「悩んだけれどね、こうしたわ。まず、投手のことか野手のことかは関係なく、高岡さんを含めコーチ全員に、どうするのがいいか意見があれば遠慮なくおっしゃってくださいと伝えた。判断を下す場面で、誰も何も提案してこない場合は、私のほうから適していそうな人、ときには何人もに、訊く。そして、そのもらったなかから、私が決定する」
さすが優秀な教育者だっただけあって非常に民主的で、理想的な方法とも言える。
しかし、観客の立場と違い、やっている側には試合はすごいスピードで進行する感覚があると聞いたことがある。ならば当然、余裕なんかはなく、場合によってはいくつもの主張を聞いたうえで自分で判断するなんて、無茶ではないだろうか?
僕はそう感じたままを口にした。
「でも、監督として、自分で決定するのが責任ある態度だと思うのよ。それに、考える時間がいっぱいあっても、そんなに変わらないんじゃないかしら。やったことが成功だったか失敗だったかは結果論で、良くなかった場合でも諦めがつく、納得する選択をするしかないと思うんだけど、違うかな?」
「いえ」
僕は首を横に振った。
「素晴らしいと思います。ただ、もし『やっぱり他のやり方がいいかも』などとなったら、言ってきてください。どうするか、一緒に考えますので」
大野監督がすべて判断するといっても、元はコーチ誰かの意見なわけで、そんなにおかしなことにはならないはずだし、他人の考えを集約して自分で決めるというのは教員のときに何度も経験しているに違いなく、十分にやれるだろう。
「うん。ありがとう」
大野監督は微笑んだ。
その後、オープン戦からペナントレースに突入した現在に至るまで、彼女のほうから僕に何も言ってこないし、ベンチの様子を見ていても、うまくこなせているのだろう。さすがです、先生。
僕の監督選びは間違っていなかったと、今は確信の域にまで達している。




